第8話 ゴングの渇いた音
「うわぁ何あの大群……」
私の名前はA。私は今ご主人様の言いつけを守らず、図書館の上を飛んでいる。
その時、後輩のメイドが口を開いた。
「避難者ですよ。それくらい自分で考えてください」
(むっ! 何、その態度!? 後輩とは思えないよ!)
「ちびっ子先輩。もう少しで体育館に着きます。心の準備をしておいてください」
「だからそのちびっ子先輩っていうのやめて!」
「わかりました」
まったくこの後輩は本当にわがままだ!
「——着きましたよ」
「ここ?」
何も危なそうに見えない場所だった。本当にここなの?
「ウッカ、本当にここなの?」
「何度だって言いますよ。ここです」
……ここなのか。
「降りるよ」
と私が言った。
「わかりました」
ウッカは相槌を打った。
しかし、何も起きなさそうだなぁ。……まあ一応用心しておこう。
□◼︎□◼︎□
図書館前……
「じゃ入ろうか」
「わかりました」
酉乃実咲と
ここの図書館は他とは違いちょっと意味のわからない工夫がされている。
まず前提にここに二階はない。それと、ここは図書館と体育館が一緒になっている。厳密にいうと、図書館の奥に体育館があるのだ。
まったく持って意味がわからない。……だがそれがいい。
「なんか特別感がありますよね」
「確かに……」
その時、バタバタと足音がした。
「たっ助けてくれ!」
そう言った男は、泣きじゃくり、子どもに縋り始める。
「……一体なにが」
俺は一瞬目を疑った。男の服には、血がついていたのだ。
「……先輩」
戸惑いの表情を隠せないまま、俺は先輩を呼んだ。
しかし、先輩は俺とは違い、焦らず、まるでマニュアルでも呼んでいるかのように、男に話しかけていた。
「大丈夫ですか!?……大丈夫っぽい。あなたから血は出てない」
懐愛は胸を撫で下ろした。それと同時に、ふと思い出したかのように先輩がこう付け加えた。
「あっそうだ! 私は対侵略者組織の一員です! だから安心してください!」
先輩はそう言うと胸ポケットから徽章を取り出し胸ポケットにつけた。
助けてもらったおじさんは安堵していた。
……対侵略者組織。その組織は能力が使える子ども達と命令を出す大人で構成されている。ちなみに、一定ラインを超えている能力者でないと入ることが許されていない。
……俺が知っているのはこれくらいだ。
ちなみに、俺はこの組織が嫌いだ。
俺が入れないことも嫌いな要因だが、一番は先輩が傷つくかもしれないからだ。前にこのことを話したら、「そんなに心配しなくても大丈夫! 私頑丈だし」などと言っていたが、心配なことは心配なのだ。
そんな事を考えている内に、先輩はストレッチを終わらせていた。そして、こう言った。
「
「……先輩はどうするんですか?」
「決まってるでしょ! 今から侵略者を
またも、葛藤だ。俺は先輩が心配で仕方がない。だけど俺が行ったって何も役に立たない。
「……実咲お願い」
「……はい」
俺は、残ると決めた。
先輩は壁を蹴りながら廊下を進んだ。
俺は、男を見た。すると、男が口を開いた。
「……君、僕はいいから彼女さんを追っていってあげて。……それに中にまだ僕の友達が居るんだ」
俺は思った。
(……この人は、いい人なんだろうな。自分だって怖いだろうに)
自然と、笑みがでた。
「……わかりました!」
俺はまた、意見を変えてしまった。……いや違うな。俺はもともと——先輩を助けるつもりだった。
だからこの選択は間違っていない。
俺はそう、自分に言い聞かせた。
俺は男を置いて図書館の図書室へ向かう。
「……あ! 友達の他に誰かいましたか?」
「……わからない、客は僕たちだけだったが。司書さん達は……急に消えたんだ……! それといつもと違う人だった気がする」
「……わかりました! ありがとうございます」
「ああどういたしまして! 僕は救急車でも呼んで待ってるよ!」
俺は相槌をうつ。
(……よし、行こう。先輩を助けに!——あとあの人の友人も)
□◼︎□◼︎□
酉乃実咲が図書室へ向かうの数分前……。
「じゃあ私、行きますね」
女はそう言った。すると、リオンはこう言った。
「おい、ちょっと待てよ」
「……まだ何か用で?」
「……いやいい、俺の獲物にする。それよりお前の方は大丈夫か?」
「大丈夫ですよ!」
(まったく私を軽視しているのですか?そうだとしたらあまりにも
「そうかならいい。頑張れよ」
「はい」
(大丈夫。私は体育館に行き、目的を遂行すればいい。それだけ)
……準備はできている。
「じゃあ行ってきます」
「おう! お互い本気でな!」
「わかりました!」
女はそう言って、頬を思いっきり叩いた。
「いったぁー。でも、勇気出た」
女はそう言って、体育館へ向かった。
□◼︎□◼︎□
ここは、図書室。亜衣坂懐愛は辿り着いた。
懐愛は恐る恐るドアを開けた。図書室は暗く、カーテンが閉まっていた。
「……血の匂いがしない」
懐愛は不思議に思ったが、その感情はすぐに拭き取られた。
「……うわ」
図書室には、本が散りばめられていた。まるで、獣でも暴れたかのように、ページが破られていた。
そこで懐愛は懐かしい本を見つけた。
(……懐かしい。昔、実咲と一緒に読んだ絵本だ)
そんな事を考えながら、私は一歩踏み出した。
「うっ……」
背筋が凍った。
「……雰囲気あるわね」
電気のついてないだけでも怖いのに、先ほどから恐怖心を煽るようなナニカが本棚の後ろから漂っていた。
私はパンッッと自分の頬を叩いた。そして、本棚の後ろを覗いた——。
「おいおい、ハズレの方かよ」
そこには、ライオンのような見た目をした二足歩行の化け物がいた。
慣れていない人なら、失禁する事間違いなしだろう。だが、懐愛は違う。
「ええハズレね。こんなやつを怖がってたなんて、実咲に知られたらなんて言われるんでしょうね!」
懐愛はそう言った。それと同時に、床を蹴りライオン似の怪物……いや、ライオン似の侵略者、リオンに向かって飛んだ。そして、自慢の蹴り技を見せた。
「オラッ!」
だが、それを悠々と耐えるリオン。
「痛えなぁ。痛えよ。……舐めてたわ。じゃこっちの番な」
そう言ってリオンは
「……なんだ!? ……まさか!!」
「今更気づいてもおせぇよ」
「クッ!」
懐愛は防御のために、体を丸めた。
リオンは体を軽いエビ反りにし、力一杯、体を元の体制に戻した。
そして、リオンの咆哮が一人の女を襲った。
「がぁぁぁぁあぉぉぉぉぉお!」
凄まじい咆哮だった。周りにあった本棚が飛び、コンクリートが砕ける。
「……」
静まりかえったその場所。
その場で、意気揚々と
「喜べ! お前は俺のはじめての獲物になったんだぜ!! ガキィィィ!」
リオンが見つめる先は一つ。罵倒を受け、孤高で戦う女。
「じゃあさ……覚えてよ私の名前」
コンクリートをも砕く咆哮を耐え、再び拳を握る女。
「私は
静まりかえった図書館。そこで今、
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