図書館編

第7話  図書館

(はー、不幸だった)


 俺は某主人公のように嘆いてみた。


 ——俺が犬に追われた後、星奈せいなちゃんが家にポチと一緒に帰った。後から来ると言っていたが家は図書館の真反対だから相当遅れると思う。


「——浮かない顔ね」


「……さっきあんなことがありましたから」


「まああれはドンマイとしか言えないわね」


 俺たちの足は今図書館へ向かっている。その時、先輩が話しかけてくれたのだ。


「そういえば先輩。あの時の助けてくれてありがとうございます」


 あの時とは星奈ちゃんに能力の質問をされた時のことだ。


「お礼なんていらないわよ。実咲みさきは笑っているのが一番可愛いから」


 俺は男だ。だが可愛いと言われるのも悪くないかもしれない。


「ありがとうございます」


「それに私たちもう三年以上の付き合いだからねー」


 先輩は手を伸ばしてストレッチをしている。


 懐かしいな……俺が先輩と会ったのが中学一年生の頃だった。その時から先輩のわがままに付き合わされていたな……。


 俺は静かに涙を流した。


 そういえば、中学生の頃……俺いじめられていたな。理由は言わずもがな、俺一人だけ能力がないからだ。 


 今思えばなんと馬鹿らしいことだろう。……あの時は先輩と晴人はるとが支えてくれなければ俺は耐えられなくなっていた。


(先輩には感謝している)


「先輩」


「ん?」


「本当にありがとうございます」


「もう! いいって言ってんのに、こちらこそ、いつも隣にいてくれてありがとう!」


 照れ隠しをする懐愛なつめ


 近くにいた実咲の口角は上がっていた。


「ほらその顔! やっぱり笑顔が一番よ!」


「そうですかね」


「そうそう!」

(先輩がそう言うならそうなのだろう)


 俺は納得した。


 そして俺たちは曲がり角を曲がり、信号で止まる。


「……」


「……」


 沈黙が続く。


 俺は気まずく思い、話題を提示した。


「先輩って本あんまり読まないんですよね?」


「たしかに……読まないわね。——あ、そうだ。実咲は読書好きだったよね? 図書館でオススメの本教えてよ」


 まるで恋人に接するかのように、懐愛は実咲にボディタッチした。


(ちょっ!)


 俺も年頃の男であるから、反応はする。だが、先輩は下心なしでそれをしたのだ。


 俺も反応するのは悪いと思い、我慢する事にした。


(……オススメの本か)


 思いつかない。


 俺は人に物を勧めるのが苦手らしい。もしくは、この状況だからもあるかもしれないが……。


「……わかりました。図書館に着いたら紹介しますよ。けどあまり期待しないでくださいね」


「オッケー。……ありがとね、実咲!」


(——先輩が笑った)


 やっぱり、俺も先輩の笑顔好きだな。同類ってこういうことをいうんだな。


 俺にとって今日は年に一度あるかないかの幸せの日なのかもしれない。


 俺たちは横断歩道を渡りきった。


 □◼︎□◼︎□


 本が散りばめられた場所で、独特の服を着た女は小さな椅子に座りながら書物を読む。


「ふむ、非常に面白い書物ですね」

 

(図書館にはこんなにも面白い物があるのですね!)


 女は本を閉じた。


 そして、男が目の前に現れた。


「——バァァァァァァ!」


「うひゃっ!」


(何? 何なの? 怖いよぉ)

 

「うー」


 女は驚き、つい威嚇してしまう。


「おいおい、そこまでうずくまることでもないだろ。」

 

 威嚇した女だったが、男には怯えているようにしか見えなかったらしい。


「——あっ! リオン! 私を驚かせないでって何度も言ってるじゃないですか! もう!」


 女は怒る。


「悪りぃ悪りぃ。それでここの奴ら皆殺しにしたか?」


 男は話題をずらす。


 そして、女は目を逸らした。


「……皆んな逃した」

 と女は口籠もった言い方で呟いた。


「はあ?」


「別にいなくなれば計画は実行できるでしょう?」


 女は冷静を装った。


「……確かにそうだけどよ。殺した方が面白くねぇか?」


(まったく、リオンはいつも野蛮です)


「あなたの考えが全てではないですよ」


「そうかねー」


 そうです。


(ん?)


 ……外に誰かいる。私の熱感知がそう言っている。


 まさか、図書館の利用者? それなら休みの紙を見て離れてくれるだろうけど。……いや、まだいる。まさか、計画がバレたのか? 


(……あんまり殺しはしたくないけど)


 もし強かったら、殺しも手段に入れないとね。


 □◼︎□◼︎□ 


 一方その頃、図書館前では。


「やっと着いたわね」


「そうですね」


 実咲と懐愛なつめはお互いに不信感を抱いていた。


 なにせ、『休館日』と書いてある紙が自動ドア全体に貼られていたのだから。


 ざっと数えても五十はあるだろう貼られた紙。


(でもまあ大丈夫だろう)


「——痛っ!」


 突然脳天に激痛が走った。


「どうかしたの?」


 実咲の耳に懐愛の声は届かなかった。


(は? 何で? 形が全て同じなんだが……)


 おいおい嘘だろ。


うち?」


 本当に何故空から降ってきたんだ?

 

 俺は当たり前の疑問を抱く、そして一つの答えに行き着いた。


(勘違いを祈ろう)


 頼むぞ。



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