第16話  俺とアイ

 みんなは好きな食べ物はあるかな? と突然思う。


 ちなみに、俺はゼリーと野菜とお菓子くらいしか食べないので、必然的にお菓子が好きな物になる。


 ……いや、前メイドさんが作ってくれた唐揚げは美味かった。うん、美味しかった。


 やはり食は最高の娯楽だと俺は思う。と、俺はメイドさんへ感謝をしながら頷いた。


「……ん?」


 ハテナが頭の中に浮かぶ。俺の意識はすこぶる荒ぶっていた。


「……へ!?」


 俺は目を見開いた。知らない場所だった。


「ここは?」


 つい、そう呟いた。ここに来てから、こんなことばっかり言っている気がする。

 

 俺は背中をさすった。どうやら背中から落とされたらしい。


 そんなふうに思っていると、突然声が聞こえた。


「あー、あー。こんにちは」


「……?」


 振り返って声の聞こえる方向を向いた。そこには床につくほどの長い銀髪の少女がいた。背丈はメイドさんよりも少し小さい。特徴がない白いワンピースを着ていた。

 

 少女は慣れない透き通った声で言った。


「——さっきは、ごめん……」


「……?」


 少女が何を言っているのか分からなかった。


 そんな実咲をほっておいて、少女はこう続ける。


「……ここはフュージョンワールド。……まあ、私が勝手にそう呼んでいるんだけなんだけど……。でも、ここの存在意義は分かる。ここはあなたと私が交わる場所……。だからその名をつけた……」


 実咲はよくわからないまま、脊髄反射せきずいはんしゃで訊いた。


「……交わる場所? それにフュージョンワールド? 音楽か何か?」


 実咲は直感で、『フュージョンワールド』という名前が音楽の名前っぽいと思った。


 そのわけわからなさ故に、少女は困惑した。


「……おん、がく? なに……それ……?」


 困惑する少女を見て、実咲は自分の言葉を悔いた。


 せめてもの償いだと思い、実咲は言う。


「……音楽は、そうだなあ。……奏でるもの、かな?」


 我ながら情けないと思う。なに? と聞かれて〇〇かな? と疑問系で答えるのは無知を晒すようで恥ずかしいのだ。


 お生憎様、俺は楽器どころか歌もあんまり歌わないのだ! 知識がないのはしょうがない。と、広く浅く知識を得ていると思っていた自分をバッシングする。


 そんな俺が、音楽のいい所を答えれるわけがなく。


「ごめん、よくわからない」


 会話が止まってしまう。


 お互い、奥手だからこそ、こういう時に話が始まらない。俺は根本的に、ネガティブな人間なのだろう。


 俺はそんなことを考えながら、少女を観察した。


 特徴といえば長い銀髪くらいの少女だが、強引にあげるとするなら、靴を履いていない、ということくらいだろう。


 とどのつまり、裸足なのだ。


 周りを見回すと、先程までいた場所と同じ、神聖な雰囲気の場所だった。

 

 俺は怖くなったので一つ訊いてみることにした。


「あの、ここって靴脱いだほうがいいですかね?」


 話が詰まって第一声がこれとは。としょんぼりする。だが少女は、そんな俺とは違い、笑顔でこう言った。


「別にいいよ……それより、おはなし続きしよ……」


「……?」


 俺はなんのことだか分からず、こう訊いた。


「……話の続き?」


「……わからないの?」


 記憶を遡ってみるが、わかりそうにない。というか、この子とは初対面のはずだが?


 俺はそんなことを思いながら言った。


「ごめんさっぱりわからない。教えて欲しい」


「……恥ずかしいから、一回しか言わないからね……」


 俺は頷く。


 俺がそう答えると少女は顔を背けてこう言った。


「あの時、言ってくれたよね……。なんで侵略するのって……。あの時必死にわたしのことを考えてくれてたんだよね……。わたし、嬉しかったの……だからもう一度したい。あの、話の続き……」


 最初は理解できなかった。そうかもしれないと思ったのは、侵略者が俺の中に入った時と同じ雰囲気をセリフの途中で感じたからだ。


 俺はもう一度少女を見た。


 すっかり、人間になっていた。この子が侵略者だとわかる人はいないんじゃないかと思うくらい、人間だった。


 隅々まで確認すればボロは出るかもしれないが、そこまでして「お前は侵略者だ」と言いたくはないから、それはやめる。

 

 俺はある種の感動を覚えていた。


 教科書で見ただけの知識が、実物となって目に映る。侵略者は地球に長くいることで、人の姿になる。たったそれだけなのに、素晴らしいことだと実咲は感じた。


 それと同時に、(侵略者ってすげー)と心の中で俗的な感想も浮かべていた。


 だが、それ以上に、実咲は誰かに求められていたという事実に喜んでいた。


 だからこそ、実咲は陽気にこう言える。


「ああ、しよう! 話の続き! 俺も楽しみにしてたんだ!」


 実咲がそう言うと、少女は微笑み、言った。


「ありがとう……」


 それはそうと。実咲はずっと思ってた疑問を投げかける。


「君、名前なんて言うの?」


 俺がそう問うと彼女は笑ってこう答えてくれた。


「わたしはアイ……ただのアイだよ……えっと、あなたの名前は……」


「あっ、名乗り忘れてた。俺の名前は酉乃実咲とりのみさき。気軽に実咲でいいよ」


「うん、わかった……。よろしくお願いします、実咲」


「こちらこそ、よろしく。アイ……ちゃん?」


「アイでいいよ……」


 俺は頷いた。


 可愛い。つい、そう思ってしまった。アイがよろしくと言った時、同時にアイは九十度の角度でお辞儀した。


 その姿が可愛すぎたのだ。甥を見つめるような目つきで、実咲はアイを見た。


 ちなみに、俺はロリコンではない。


 高揚する気分を抑えながら、俺は呟いた。


「ふう、ふう。落ち着け、俺」


 どうやら、この可愛いと思う気持ちはおさまらないらしい。


 気を抜くと、つい微笑んでしまいそうだ。だが、このままでは話が進まない。俺は強引に高揚感を殺した。


 俺はアイのキョトンとしてる顔を見ながら言った。


「——じゃあ。アイ、話を始めようか」


 俺の一言が、二人の間に緊迫感を走らせる。俺とアイはお互い深呼吸をした。


 最初に口を開いたのは、アイだった。


「……実咲を襲った時、私の意識は消えかけていたの……。自分でも何をしてるのかわからなかった、だから、ごめんなさい。言い訳になるけど、知っておいてほしかったから……」


「そんなこと、俺は気にしてないよ。だって、俺が来いって言ったんだもん」


「……ありがとう。じゃあ、私も気にしないことにする……」


 実咲は相槌を打った。それが始まりとなり、アイは語り始めた。


「……実咲は私を見た時どう思った?」


「……アイを見た時?」


 俺は少し考えた。侵略者が来たと思った、と素直に答えてしまうのもよかったが、今大切なのは本音を言うことじゃなくて、アイと話すことだから。


 俺は本音ではなく、違和感を感じた時のことを言うことにした。


「アイを見た時は、他とは違う、何か焦ってるって感じの印象だった」


 俺がそう言うと、アイは相槌を打ってくれた。


「……私も、あの時は冷静じゃなかったから、そう見えたのかもしれない……突然暗くなるし、知らない場所にいたから……」


「……知らない場所?」


「うん……。私、なにも覚えてないの」


 俺はその言葉を聞き、すぐにメイドさんを思い浮かべた。だがそれは、すぐに撤回することになった。


「親も、友達も、兄弟だっていたかどうか覚えてない。もちろん地元だって覚えていない……。って、


「……え?」


「考えてみれば、そもそも私には記憶自体がないのかもしれない……。そんな風に、感じたの……」


「……?」


 すぐには理解できなかった。アイが何を言っているのか、何を伝えたかったのか……。


 だけど、考えてみれば少しわかった気がする。


 そもそも、侵略者はどこからくるのか。これは、二〇年経っても判明していない。


 捕まえた侵略者は口を揃えて、気づいたからここにいた、と言っていたらしい。


 もしかしたらアイもこれかもしれないと思った。


 しかし違うと、すぐに分かった。どこかで聞いただけだが、その侵略者でも、故郷の記憶はあるらしい。だからアイはこの例に当てはまらない。


 実咲は意味がわからず沈黙した。


 そんな実咲を見かねたのか、アイは口を開いた。


「……私は何も知らない。そもそも、私が誰なのか、なぜここにいたのか。ただ頭の中にあったのは、敵を襲え。それだけだった」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の背筋は凍った。


 理解したのだ。アイが、何を伝えたいのかを。


 記憶がそもそもない。そして、何も知らない。これらが証明するのはただ一つ、


 俺は聞いていい内容なのか一瞬戸惑ったが、すぐにこれは会話だと思い出し、言わないことにした。


「……そうだったんだ」


 俺は素直に相槌を打った。


 アイは言う。


「……ここに来てから、そんなことばかり考えてるの……。私はどこから来たのか、何者なのか。これからどうすればいいのか……。なにもわからないの。唯一あった役目、『敵を襲え』も、今はどういう意味なのかわからない……。ねえ、実咲……これから私は、どうすればいいのかな……?」


 俺が考える隙も与えず、アイはこう続ける。アイの声は少しずつ大きくなる。


「私は一体、なにを目的に生きたらいいのかな……? 実咲……!」


 俺は知っている。アイの、このなんとも言えない不安な気持ちを。


 人生は選択の連続だ。今日だけで、たくさんの選択をした。


 アイが言いたいのは、とどのつまり、将来への不安。俺が中三の時、嫌と言うほど抱えた不安と同じだ。


 だからこそ、俺にとっては考えるまでもないことだった。


「これから、生きる目的を探せばいいよ。生きてれば嫌なことだって沢山ある。だけどそれと同じくらい、いいこともあるんだ」


 俺の脳裏のうりに中学時代のイジメがよぎる。それと同時に、晴人はると懐愛なつめ先輩との、放課後の思い出もよぎった。


「たくさん悩んで、たくさん失敗して。それでも頑張って立ち上がる。そうやって、自分を作っていく。だってそれが生きるってことだろ!」


 俺の脳裏に小さい頃に犯した罪がよぎる。


 ほんの少し、嫌な気分になったが、今は考えないことにした。


 俺はアイを見た。


 アイは涙を流していた。


「……わからないよ……。生きる目的を作るって、どうやって作ればいいの……? 何をしたら作れるの……?」


 俺は、昔に散々悩んだ者として、アイにこう助言する。


「アイはどうしたいんだ?」


「わからない……」


「……じゃあ。俺の話を聞いて欲しい」


 実咲は一呼吸置いた。


 亜衣坂御冬あいさかみふゆ。彼女の顔が、頭から離れない。何故、俺は忘れていたのだろう。


 あんなことがあったのに。


 俺はアイを見て言う。


「——俺は、取り返しの付かない失敗をしたことがある。どうしようか迷ったよ。子どもっぽく、泣きじゃくった。だけどそんな時、ある人が言ってくれたんだ、「強くあれ」って。その人は、俺が将来に悩んでいるときにも、同じセリフを言ってくれた」


 実咲は母のことを思い出していた。


「——だから俺はここにいる。その人がいたから、次に何をすればいいのか分かった。……なあ、アイはどう思う? 未来の自分の生きる目的じゃない。今、ここでアイが思っている。生きる意味。なにも迷わなくていい。今ここで思っていることを俺に教えてくれ!」


「……わたしは……何も、思わない……」


 アイは下を向く。そんなアイに、俺は追撃を加える。


「生きる意味なんて素晴らしいものじゃなくてもいい。今ここでやりたいって思えるものでいいんだ」


 それでもアイは黙っている。


 俺は思った。


(言っていいのかわからないが……言わなきゃ、アイは黙ったままだ)


 俺は勇気を絞り、こう一言。


「アイは、俺を……侵略したいって思わないのか?」


 俺がそう訊くと、アイは怒ったように顔を上げた。


「なんでそんなこと言うの……! わたしはもう侵略したくないの! きもち悪いの! 誰かわからない、誰かの気持ちがわたしを支配しているようで、きもちわるいの! なのになんで、そんなこと言うの……!?」


 アイは一歩ずつ、実咲に近づく。


「私はもう、侵略したくない。……なのに心の奥底では侵略したいと思っている。——私が、侵略者だから。……侵略する私を、受け入れてくれる人なんて、いないから……! 私はもう、侵略者したくないの……!!」


 俺は悟った。ここに来てから聞いた、気が滅入るような言葉の数々。あれは全て、アイの心の声だったのかもしれない、と。侵略された時に感じた伝播でんぱするネガティブも全て、アイの心理状態だったのかもしれない。


 俺は目を閉じる。今まで聞いてきた声。それら全てが、アイの生きる希望と表裏一体だと、俺は思うから。


「アイはアイだ。侵略者だったとしても、人間だったとしても、それは変わらない」


 俺はアイを見る。どこから見ても、人間だ。


「アイを恐れる人なんていないよ。アイは可愛いから」


「ほんと……?」


「ああ」


 アイは涙を流した。俺まで、涙が溢れる。どうやらここは、気持ちが伝播しやすいらしい。


 俺はアイにもう一度、問う。


「アイ、したいことはないの?」


 アイはかぶりを振る。


「ある。あるよ、実咲。私、したいことがある……!」


 俺は相槌を打った。


「な! 誰にでもあるんだよ、やりたいことは!」


 実咲は達観してこう語る。


「みんな、それを隠してるだけ。憧れがない人はいない。現実的に無理だとか、俺にはできないとか、人はよくそう言うけど、俺はそうは思わない。もし成功しなくても、やらないよりはマシなんだ。ゼロが一に増えるだけでも、成長なんだから」


 アイは相槌を打った。


「うん……! そうだね、実咲……!」


 アイはクルンと体ごと後ろを向いて、実咲から目を逸らす。


「実咲、ありがとう。話を聞いてくれて……」


 アイは実咲を見た。満面の笑みで。


 それにつられて実咲も笑顔になる。


 実咲はこんなことを訊いた。


「こちらこそありがとう。アイのおかげで大切なことを思い出した。……それで、どんな生きがいを見つけたの?」


 俺がそう訊くと、アイは屈託のない笑顔でこう言った。


「ひみつ……!」


「……これまたなんで?」


 アイは赤面して言った。


「——恥ずかしいから……」


 生きがいを人に話すのは、確かに恥ずかしい。俺は納得した。


 俺はアイを見た。


 ここまで色々あったけど、アイが元気そうで何よりだ。結果よければ全てよし。話をするという当初の目的は達成できたしな。


「じゃ、帰ろっか」


 俺がそう言うと、アイはポカンとした顔になった。


「え……?」


 とても嫌な予感がした。

 

 いやいや待て。まさか、そんなことあるはずがない。と焦る気持ちを抑える。


 背中あたりから気持ちの悪い汗が流れた。

 

 俺は返事を促すようにアイを見た。


 アイは言った。まるで、羊の皮を被った死神のように。


「……実咲。どうやって帰ればいいの……?」


 スーと俺は息を吸った。賢明な皆様ならもうお分かりだろう。


 俺はすべての感情を込めて一言。


「最悪だぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!」


 と叫んだ。膝を落とし、俺は涙を流した。


 ここまできて、帰れないなんて。自分の浅はかさを恨む。


 俺が泣いている横で、アイが何かの紙を取り出した。


「えーと……取り扱い説明書によると、侵略しなきゃ出れないんだって……どうしよう……」


 困っているアイを見て、俺は一つ思った。


(説明書? なぜ、説明書があるんだ?)


 俺は絶句した。ここは言うなればアイの精神世界のようなものだ。糸に声、この神聖な場所。どこかアイを連想させるものばかりだ。

 

 俺は説明書まで用意するアイの可愛さに落とされた。


「はー」とため息を吐き、俺は微笑んだ。


「アイ、侵略してもいいよ」


「……いいの?」


 俺は頷いた。アイも頷いた。


「……ありがとう……じゃあ」


 アイの手が俺の腹に入る。


 目をつぶると、体が浄化されているような、不思議で知っている感覚に襲われた。


 俺の頭に、アイの感情と記憶が入ってくる。


 少ないピースの中で、一つ、光っているものがあった。


 俺はそれを見て、こう呟いた。


「へー、いいじゃん」


 アイの生きがい。それはとても尊いものだった。


 目をつぶって元の世界に戻る。


 だが実咲は気づかなかった。己の頭から、ピースが欠け落ちたことに。


 そのピースは亜衣坂御冬と遠い昔の記憶だった。


 実咲の脳から二つの記憶が消えた。


 □◼︎□◼︎□


 図書館内部。エレベーターは消えていた。


(戻ってこれた)


 俺は安堵に駆られながらも、周囲を見た。


「アイは……」


 いなかった。だけど、死んだわけじゃない。


 心の中にいる、そう感じた。理由はわからない。だけど直感でわかった。アイは俺の中にいると。


 俺がそんなことを考えていると、どこからともなく声がした。


「酉乃さーん……助けてください」


 声の聞こえる方向を見ると、実流黒みるくちゃんがいた。


「実流黒ちゃん、生きててよかったって! え!? だれ!? 俺そっくりな人がいる!?」


 俺は実流黒ちゃんの後ろにいる、俺に似た人に向けて指をさした。


 すると実流黒ちゃんはこんなことを言った。


「……聞いてくださいよ! 酉乃さんに似ているこいつにストーカーされるんです!」


 つい、フッと笑ってしまった。


「今笑いました!? ひどいですよ!」


 俺は実流黒ちゃんのキャラの変わりように驚いていた。その時、脳内に声が響いた。


「私もひどいと思う……」

 

「……!?」


 驚きから体が固まった。それを見た実流黒ちゃんと俺にの男はハテナの文字を浮かべる。


 すかさずアイがこう付け足してくれた。


「ごめん……伝えてなかった……。私、実咲の中にいるから、こんなこと出来る様になったんだよ……」


(すごいな)と思う。


「すごいでしょー」


 顔は見えないのに、笑っているアイの顔が想像できた。


 俺も脳内で会話をしてみる。


「そうだ! アイ、友達100人! 俺応援してるから」


 俺がそう言うと、しばらく返事はかえってこなくなった。五秒ほど経った頃、アイはこう言った。


「……なんで、しってるの……?」


「え?」


「ん?」


「……?」


 お互い、ハテナを浮かべる。


 アイは気づいたようで、一言。


「……ひどい。それでわかるんだったら、私から言いたかった」


「ごめんね」


「……もういいよ。それより前の人!」


「ああそうだね」


 俺はアイに言われた通り、|前の人を見た。


 しばらく喋らずに立っていた俺を不審がっているのか、実流黒ちゃんはジト目でこう言った。


「酉乃さん! 聞いてます?」


「……ごめん、聞いてなかった」


 俺は気になっていることを訊いた。


「ねえ、実流黒ちゃん喋り方変えた?」


 俺がそう訊くと、実流黒ちゃんは目を逸らしてこう言った。


「……別にいいじゃないですか、そんなこと」


(怖い思いしたから素が出てるなんて言えない)


 と実流黒は思う。


 そんな実流黒を横目に、実咲は図書室の方を見た。


 □◼︎□◼︎□


 一方その頃、図書室では。


 リオンが本の山の上に立ち、えていた。


亜衣坂懐愛あいさかなつめ、強かったな。やっぱおめーサイコーだわ」


 侵略者の高笑いが響く図書館内部。

 そこに彼女の声はない。


「まあそうだな、対戦ありがとうございました。だな!」


 そこには侵略者一人と、敗北した女が一人。いるだけだった………。

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