第13話  侵略の先

 一分ほど前。俺は侵略された。


「わたしが! あなたの悩みを解決してあげる。だから私を受け入れて……私を、見て」


 俺は糸状の……よくカマキリなどから発見される寄生虫を模したかのような見た目の侵略者に侵略された。色は白く、言動はチグハグな侵略者だった。


 それにアイツは、心の矛盾を抱えていた。


 俺が侵略された時。いや、言葉を変えよう。俺がアイツと一体化した時、それを知ってしまった。


 黒いモヤの奥にある白く輝くアイツの本音。俺は、それを知りたい。


 だから、侵略された。


「……なのに」


(なんだ? ここは)

 

 不思議な感覚がする。まるで水の中にいるような。だが冷たくなく。しかも足を動かそうとしても動かない。


 そう、まるで夢を見ているような。

 

「……それに」


 気持ちいい……。まるで、体が浄化されていくような感覚だ。


(勉強。コンプレックス。不幸。金欠。メイド。彼女がいない。嫌われている。将来。親父。弟に妹。落ちこぼれ。……イジメ)


 そして、


 あらゆるネガティブが、息をするごとに頭に浮かぶ。


「……っ!」


 痛い。突然頭に激痛が……。


「え?」


 実咲の頭の中に、知らない記憶が流れ込む。


(血、死、侵略?)


「うっ!」


(亜衣坂あいさか? 亜衣坂、亜衣坂。……御冬みふゆ?)


「ねー!! ねー!! ねーってば!!」


 突然、声が聞こえた。少女の声が。


「おきてよーみさきくーん!!」


 可愛らしい声の裏に、ノイズのような声が混じる。


「逃げて……」


「血血血血血血血血血血血血血???」


 俺は、自分でも気づかないうちに言っていた。

 

御冬みふゆちゃん?……違う。あれは御冬ちゃんじゃない。違う! 違う! 違う!!!」


(あ、あぎ? あ、あ、あがぎくけ!?!??)


 実咲の脳は、少しずつ溶けてゆく。


「ちがう……あれはおれのせいじゃない」


 実咲は頭を抱える。


「ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう!!!」


 実咲は、泣いて呟く。


「俺の、せいなのか?」


(俺の……せいで……)


 実咲は、目を閉じた。そして、少しずつ、思い出していく。あの子のことを。


「みさきくーん! おきてよー……。あ、おきた!」


 御冬と呼ばれる少女は、成長しながら実咲に語りかける。


「私好きだよ、実咲のモットー! だから大切にして。他人だけじゃなく、自分も……もちろん私もよ! だから、早くおきなさいよ! バカやろー!」


 実咲はその言葉を聞き、泣いた。不思議と意味は分からなかった。


 実咲は分からないまま、言った。


「——ありがとう御冬。いつまでも俺を助けてくれて」


 実咲は目を開いた。そして実咲は、その場を去ろうとする。


 その時、少女の御冬は言った。


「みーさーきーくーん!!」


 御冬は大きく空気を吸い、こう続けた。


「なつめをよろしくぅー!」


 実咲は頷いた。そして誓う。


(せめて先輩だけは、絶対にこぼれ落とさない)


 実咲は呟いた。


「俺には俺の信条がある。だから!」


 俺は、お前と対話する。


 実咲は立つ。自身のけがれと罪から目を離さないための、みそぎ。それがあれだった。実咲はそれを、直感で理解した。


 そして言った。


「……ここは、どこ?」


 水の中のような感覚は消え、真上には大きな丸い何かがあった。


 □◼︎□◼︎□


 一方その頃、エレベーター前では。


「しんりゃくぅぅぅぅ!」


 仮称酉乃実咲は全力で実流黒みるくを襲う。実流黒は叫ぶ。


「うわぁぁぁぁあ! 怖い怖い! おとうさぁぁぁぁあん!!!」


「しーんりゃくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


「マジキモいよぉぉぉぉぉ!」


 阿吽の呼吸。仮称酉乃実咲と成未実流黒なるみみるくはそう呼ぶにふさわしい行動をした。

 

 後ろから現れたのだ。自分達よりもっと強い奴らが。


「キモい——って! え!?」

「しんりゃ……ギェピィィィィィィィ!?」


 亜衣坂懐愛とリオンが拳を交えながら実流黒と仮称酉乃実咲に近づいた。


亜衣坂懐愛あいさかなつめ! 本当お前愉快なやつだな!!!」


「それはどうも!!」


 二人の鬼神を前に、赤子同然の二人。

 

 二人は涙目になり、言った。


「「たすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」


 二人は協力して、その場を去った。

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