005 女神様

#005 女神様


 異世界に転移した翌日、教会に来ていた。王都にある教会だけあって大聖堂というのがぴったりな豪勢な建物だった。もう城でいいんじゃないかな?


 入り口で司教様への訪問だと告げると話が通っていたようで奥に通される。


「リリアーナ王女、いえ今はリリアーナ公爵でしたな。ご無沙汰しております」


「いえ、アウグスタ司教様もお元気そうで何よりです」


「それで今日は異世界人の方の加護の確認だとか。聖女様にも待機していただいていますので奥殿にいきましょう」


 奥殿というのは本当に奥にある神殿の事で、参拝客用ではなく、本当の意味での女神様関係の儀式をする場所らしい。


 何度も角を曲がり、階段を上り下りして、奥殿と言われる場所に出る。一応同じ建物内のようだ。こんなに行きにくい場所にあるなんてどういう構造してるんだろうか。


 部屋に入るとすでに女性が待機していた。恐らくこの人が聖女様なんだろう。何だか人間離れした美貌で、人形のように笑顔を貼り付けている。


「ようこそ、奥殿へ。聖女を努めています、アルテナと申します」


 そう言って頭を下げてくるが、一般人の俺に頭を下げないでください。聖女って偉いんでしょ?


「聖女様、お初にお目にかかります。公爵位を賜っておりますリリアーナと申します。よろしくお願いします」


 ここは俺も挨拶するべきか。


「俺は・・・」


「では早速ですが、加護の検査を始めましょうか。こちらに来てください」


 そうですか。俺の挨拶は不要ですか。ちょっと寂しい。


 俺は導かれるまま奥にある神像の前に座らされる。


「女神様に祈りを捧げてください。神像が光れば加護がある事になります」


 祈りってどうやって捧げるのかな。やっぱり跪いて手を合わせるのかな。


 とりあえず作法がわからないので、思った通りにやってみる。


 ふっと一瞬で視界が切り替わった。






「ようこそ神界へ、神崎仁さん。お待ちしていましたよ」


 聖女様も人形のように顔が整っていると思ったがこの人はそれどころじゃない。空気からして違う。何というか神聖な感じがする。思わず背中を伸ばしてしまうような、神社の境内に入ったような、そんな感じだ。


「えっと、どなたでしょうか?」


「申し遅れました。私はイングリッド、この世界で女神をやらせていただいています。気軽にイングリッドちゃんと呼んでもらっても良いですよ」


 流石に冗談だろう。ちょっと俺の緊張をほぐしてくれようとしてるんだろう。


「それで神崎さんには謝らなくてはいけません。

 本当はあの三人のヤンキー、いえ三人の勇者だけを呼ぶはずだったのですが、あなたが接触していたので一緒に召喚に巻き込んでしまいました。

 そのせいで魔力が余分に必要になって魔術師が魔力欠乏で倒れたようですが。

 でもまあ魔力が足りて良かったです。足りてなかったらあたなは次元の狭間で永遠に彷徨っていたでしょうから」


 怖いな。次元の狭間ってのがどんな場所かは知らないけど、永遠ってのが怖い。


「それで俺はどうなるんでしょうか?」


 そう、これが一番大事な部分だ。リリアーナさんは帰れない可能性があると言っていたが、女神様なら答えれるだろう。


「元の世界に帰るのは可能です。ですが、魔法陣に力をためるのに数年はかかると思います。人の魔力だけでは世界の壁を破れませんからね。それと戻ったときの時間軸がずれる可能性があります。

 直後に戻れることもありますし、百年後になるかもしれません。星の配置や魔術師の能力など様々なことが関係してきますので正確な事は言えません」


 いや、女神様パワーとかで戻してもらっても良いんですよ?


「下級神ならともかく私が直接力を振るう事はありません。

 人間の営みは人間で型をつけるのが基本です。今回の召喚を人間に任せたのもそれが理由です」


「えっと、俺の誤召喚も人側が何か間違っていたという事でしょうか?」


「そうですね。時間が5分ほどずれていました。時間は指定したはずですが、何かトラブルがあったのか時間がずれたようですね」


「それで俺は数年後に戻れるとして、勇者をやる事になるんでしょうか?」


「それは人間がどうするかによりますが、私もあなたの扱いに困っています。今のところ加護は与えていませんが、この世界で生きていくためには加護は必須と言っても良いです。

 別に加護がないからと言ってすぐに死ぬわけではありませんが、未知の病気にかかったり、負の感情に晒されると呪いとなっって体を蝕んだりと普通のこの世界の人間には起きない不幸が訪れるでしょう」


 何それ怖い。じゃあ加護貰わないと問題があるんじゃ・・・。


「私が加護を与えるのに問題はありませんが、加護を与えるとあなたも勇者となり、魔王と戦うことになりますよ?

 魔王と戦うのには三人で十分だと予想していますし、あなたが一緒に旅をしても不和の種になるだけだと思っていますので、あまりオススメはしません。

 それを含めて聞きますが、加護は欲しいですか?」


 難しい問題だな。まず勇者になって戦うのは論外だ。だけど病気とかは怖い。未知の病気って事は直す方法もわからないって事だからな。


「加護は欲しいけど勇者にならないって方法はないんですか?」


「そうですね。神像を光らせないと言うのはどうでしょうか?分かりやすく光らせていますが、別に必須というわけではありませんので」


「あ、それはありがたいです。それでお願いします」


「それとあなたには私の加護をつけますが、勇者についているのは下級神の加護です。人間には判別できないでしょうが、効果が全く異なるのでご注意ください」


え、何か不安になるような言い方したよね?


「下級神の加護はそれぞれの権能ごとに効果が違います。ですが私の加護は全ての上位互換ですので全体的に効果がありますよ。他にも違いはありますが、まあ人間には関係ないので構わないでしょう」


まあ病気さえ掛からなければ何でも良いんだけどね。


「では元の場所に戻しますね。良い人生を」




ーーーーー


「ふふふ、世界の時間を5分ずらした甲斐がありましたね。ちゃんと彼も召喚されたようですし。しばらくは下級神に任せておきますか。私は私でしないといけない事がありますし」


ーーーーー





 ふと気を取り直すと、俺は女神像の前で祈りの姿勢をとっていた。


「女神像が光りませんでしたね。こちらの異世界人は女神様の加護を持っておられないようです。

 つまり勇者ではない、誤召喚ですね。リリアーナ様、女神様からの神託通りに召喚を実行しましたか?」


「ええ、間違いなく言葉通りにしたはずですが、現在何が悪かったのか調査中です」


「結果が出たら教会にも報告してください。では私はこれで失礼します」


 聖女様は仕事は終わったとばかりに部屋を出て行ってしまった。忙しいのかな?


「リリアーナ様、これは由々しき事態ですぞ。女神様の召喚の術式で間違いが起きるなど。責任問題ですぞ」


「承知しております。陛下と相談して私に何らかの罰が降るでしょう。

 それよりもカンザキ様の事ですが、教会としてはどうされるおつもりですか?」


「異世界から召喚されたとは言え、加護を持たない一般人であれば私どもの管轄ではないと考えます。国の方で扱いを考えていただきたいです」


「わかりました。私への処分も含めて検討させていただきます」


「あ、あの!」


 話が終わりそうだったので、俺は大事な話をしておくことにした。


「この教会に祀られている女神様の名前はなんというんでしょうか?」


「女神リスモット様です」


 やっぱりあの女神様じゃなかった。多分下級神とかだな。


「それは女神教の主神でしょうか?」


「そうです。女神は全ての者に加護をお与えくださります。まあ、異世界人殿にはなかったようですが」


 この司教様一言多いな。そんなに加護がないのが気に入らないのか。


 司教様に教会の出口まで案内されるとリリアーナさんと一緒に屋敷に戻った。




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