016 馬小屋修理

#016 馬小屋修理


 ちょっと謁見とかで時間を取られたけど、馬小屋の屋根の修理はやっておかないと。やらないならやらないでリリアーナさんにちゃんと言わないといけないからね。


 馬小屋は俺が思ってた以上に立派だった。俺の実家の家なんか軽く入るんじゃないだろうか。中には馬も10頭くらいいるし、近くには馬車が格納されている専用の車庫もある。

 隅っこには多分馬の餌だろうと思われる飼い葉が積まれているし、足元には藁が敷かれている。


「この馬小屋の屋根の修理ね。どこが雨漏りしてるんだろう?」


「おっさん何見てんだ?!」


 およ、後ろから声をかけられた。

 振り向くと、身長は低いが元気そうな娘が立っていた。


「えっと、この馬小屋の屋根を修理してくれって頼まれたんだけど」


「ああ、あんたか。話は聞いてるよ。あたいは馬丁をやってるキャシーってんだ。

穴が空いてるのはあっちの端だよ。下から見たらすぐわかる。こないだの嵐でどっかの枝が飛んできてね。穴を開けちまったのさ。

 隅っこだから大丈夫かと思ってたんだけどね。雨が降ると水が漏れるだろう?そしたらこっちまで水が流れてきてね。どうやらそこの方が地面が高いらしいんだ。

 雨のたんびに水浸しじゃ馬もかわいそうだからね。お嬢様に頼んで修理をしてもらう事にしたんだよ」


 どうやら普段から砕けた話し方をする娘のようだ。でもおっさんはやめて欲しい。いやこの娘の歳からしたらおっさんなんだけどさ。


 俺は指差された場所の下に行き、天井を覗く。すると太陽の明かりが漏れている場所があった。あれが穴のあいた場所か。確かに隅っこだし、普通に考えたら影響がなさそうな場所だな。

 だけど、下を見ると水が流れた跡が残っており、それは馬小屋の中心に向かっていた。確かにこっちの方が地面は高いみたいだ。


 でもまあ空いてる穴はそれほど大きくもないし、穴のあいた部分を木で塞いでやれば良いだろう。これくらいなら俺にでも出来る。


 まずはどの位の木材がいるかを確認してから買い出しに出るか。馬車を出してもらえれば持って帰れるだろう。


「すまないけど、梯子はあるかな?屋根の様子を見たいんだけど」


「それならそこの隅っこのを使っておくれ。一応二つ折りだから屋根まで届くはずだよ」


 あったあった。木でできてるので多少強度に不安は残るが、この世界で鉄の梯子があるかも分からないので我慢するしかないだろう。

 まあ2階程度の高さだし、落ちても打身程度で済むだろう。



 馬小屋の端っこに梯子をかけるとサッと登って周囲を確認する。上から見る分には穴が空いている場所が分からない。

 基本木の板を打ち付けてある形なので、見て分からないって事は板と板の間に割れ目ができたんだと思うんだが。


 面倒だがちょっとずつ確認するか。


 大体の場所の見当をつけて、汗を拭くために用意したタオルをかける。梯子を降りて、馬小屋の中から上を見て確認する。

 まだ光が漏れてるな。

 梯子を上がって、タオルを少し動かしてから再度中から上を確認する。


 何度かやってるとようやく光が陰った。タオルを置いた場所の下に穴があるはずだ。


 タオルの下をよく見ると、ほんの少しだけ穴が空いているのが見つかった。下から見るよりも穴が小さい。念のためタオルを畳んで穴の部分にだけ被せて下から確認すると間違いなくその場所だ。


 とすると、左右の板を取り換えれば良いか。大体3mx50cm位の板が二枚だな。あとは釘が数本と。金槌と釘くらいは屋敷にあるだろうから板だけで良いか。


 キャシーに馬車を用意してもらい、ついでに御者も頼む。言葉遣いからは考えられないほど親切に対応してくれた。根はいいやつなんだろう。


 木材を取り扱っていると言う商会に行き、板を二枚買う。念のため釘も買っておこう。金槌はまずあるだろうけど、釘はちょうどいいサイズがないかもしれないからね。

 板を馬車に乗せて戻る事10分。屋敷に戻ってきた。


「クレア、金槌と釘抜きを貸してくれ」


「金槌はございますが、釘抜きですか?なんでしょうか?」


「え、釘抜きないの?」


「聞いたこともありません」


 なんてこった。あんな単純な構造の釘抜きがないなんて。大工さんは工事する時どうしてるんだ?


 とにかく板を剥がせればいいので、丈夫なナイフを借りる。まあ折れたら買って返せばいいだろう。


 天井板は端っこを4箇所止めてるだけの手抜きだったので簡単に外れた。普通真ん中くらい止めない?

 だけど剥がしてみて分かった。真ん中の部分に柱がないのだ。馬小屋の構造自体が簡単なので縦にはたくさん柱があるのだが、横向きの柱が端と一番上にしかないのだ。構造的にどうかとは思うが、公爵家の馬小屋が手抜き工事とも思えないのでこの世界の馬小屋はこんなもんなんだろう。


 ただ、板は2重になっていたようで、一応上に乗っても折れないようには気を使っていたらしい。板を二枚しか買ってないんだが・・・。


 まあ外側だけでも直せば雨漏りは止まるだろう。問題は、板の間に挟まっていた魔物の毛皮だ。薄い毛皮なんだけど、多分撥水加工されてるんだろう。板と板の間に全面に張り巡らされている。そこに穴が空いてるのだ。

 これでは板を取り替えても雨漏りは直らない。


 この程度のサイズなら養生テーブでも十分なんだが、この世界にそんなものはない。下手すると全面板を剥がして魔物の皮を貼りなおさないといけないぞ。


 屋敷に戻ってクレアに状況を説明する。撥水性の魔物の皮は商会に行けば売っているそうだが、全面やり変えるなら職人を呼ぶから元に戻しておくように言われた。


 せっかく始めたから応急手当てくらいはしておきたいんだが。


 何か上を塞ぐ物でもあればしばらくは保つと思うんだけどな。


 ・・・やっぱりか。屋根に貼り付けられているのと多分同じ皮が30cmx30cmのサイズで目の前に置かれていた。


 うん、そんな気はしたんだ。多分直してって思えば大工仕事なんかしなくても直ったような気はするんだよね。ただそれだと俺がする事がなくなってしまうからあえて考えなかっただけで。


 穴のあいた皮の部分に小さな皮を当ててにかわでくっつける。本当は乾いてから水を通さないのを確認したいけど、そんな事をしたたら暗くなってしまう。

 なので失敗してたら謝ろうと思いながら新しい板を打ち付ける。


 バケツで水を汲んで上からかけてみる。下から確認したが一応漏れてはいなかった。大雨が降った場合は分からないが、応急処置としてはいいんじゃないだろうか。


 キャシーに応急処置程度の対応しか出来なかった事を謝って、後日ちゃんとした職人を読んでもらう事にした。




「お疲れ様でした。どうでしたか?気分転換にはなりましたか?」


 リリアーナさんが俺に結果を聞いてきた。


「ええ、まあ大して役には立てませんでしたけど、気分転換にはなったと思います」


「それは良かったです。補修は職人さんに依頼するので大丈夫ですよ。当座の雨漏りが防げるだけでも十分です」


 リリアーナさんの気遣いが心苦しい。


「次にも何かあったらお願いしますね」


 これはもうするなって言う事なんだろうな。俺は言葉の裏が読める社会人なんだよ。暗喩って理解してないと痛い目を見るからね。「前向きに検討します」なんて信じちゃダメなんだよ。


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