033 準備
#033 準備
上の階の資料庫に入ると、埃っぽい匂いとインクの匂いが混ざり合って嫌な匂いになっている。
「きちんと掃除されてませんね。せめて毎日換気していればここまで酷いことにはならないのに」
クレアの指摘通りだとは思うが、この資料庫、普段使う人はいないらしい。年に数回も使われれば良い方なので管理もされてないとか。
「滅多に使われないらしいしね。薬草の特徴を調べたら俺たちも来ないだろうし」
「そうですね。ただ魔物の情報などはここが一番充実してそうですので、本格的に冒険者をやるならある程度使いそうではありますけど」
「え、それじゃあ普段使われてないってのはどう言うこと?」
「さあ?大して調べもせずに討伐に向かうんじゃないですか?冒険者は結構良い加減なようですから」
「それじゃあ事前準備とかどうするの?」
「どうでしょう?さすがに毒があるかくらいは調べるでしょうけど、その辺は受付嬢が教えてくれるでしょうし。そもそも文字が読めない冒険者も少なくないですからね」
ああ、識字率の問題もあったか。
「おっと、この辺が薬草の資料かな。
葉っぱに特徴があるな。これ結構貴重な資料なんじゃ?紙持ってきて写そうかな?」
・・・目の前に全く同じ本が。
ご丁寧に古さまで同じくらいになっている。いや、まあ助かるんだけどね。薬草が現れないだけ良かったのかもしれないね。
資料の本を持ってギルドを出る。
さすがに何の装備も持たずに森に向かうわけにも行かないので武器と防具、念のために保存食を買っておくことにする。
「よければお弁当を用意しますが?」
「いや、今日行きたいから良いよ。皮の鎧があるから適当に採取用のナイフとか買えば良いかな。保存食ってどんなのがあるの?」
「どんなのと言われましても。肉を塩漬けにして乾燥させたものです。オーク肉が多いですが、謎肉も多いです。ちゃんとした物を買おうと思ったら、やはり大手の商会で買うのがよろしいかと思います」
謎肉って。まさかその辺のネズミとかじゃないだろうな。猪とかそんなのだよね?
ナイフは武器屋で採取用って言ったら一種類しかないって言うから迷うことなく買えた。解体用ナイフなら種類が色々あるらしい。まあ魔物倒す予定はないから買わなかったけどね。採取用は切れるけど細く軽いし、解体用は丈夫で思ったよりも重い。
採取用のナイフを腰の後ろの部分にくくりつけて雑貨屋に向かう。普通の冒険者は剣も装備する関係上、ナイフは腰の後ろにくくりつけておくのが一般的らしい。いざと言うときのサブ武器扱いみたいだし。
保存食を買う雑貨屋は大手を選んだ。品数も多く、変なものは扱ってないらしいので安心して買える。その代わり値下げなんかは期待できないらしいけど。
「こんにちは〜」
雑貨屋に入ると、左右に棚が並んでいていろんなものが陳列されている。
「採取のために西の森に行くんですけど、保存食とかありますか?」
「もちろんございます。オーク肉でよろしですか?」
「あ、はい。
他に採取に必要なものってなんでしょうか?」
「あ、初心者の方ですね。でしたら採取した物を入れる袋などでしょうか。どの位の量を採取する予定ですか?」
「えっと全部で40本ですね。3種類です」
「でしたらこちらの小袋を三枚と全部まとめて入れれる中袋を一つで大丈夫だと思います。バッグなどお持ちでないようですが、もしかついで行かれるのでしたら、中袋よりも大きめのバッグのほうが良いかもしれません」
採取した後のこと全然考えてなかったな。確かに薬草40本抱えて戻ってくるのは間抜けだな。
「じゃあそれでお願いします」
「他にも手袋などはお持ちですか?植物によっては指を切ってしまったりするのもありますし、毒を持ってる物だと直接触ると不味いものもありますよ」
おお、もっともだ。
「じゃあ、それもお願いします」
「あと、水袋やコップなどもお持ちでないようですが、水魔法でも使われるんでしょうか?今の季節はそれほど暑くもありませんが、水は必須ですよ」
おお、完全に頭の外だったわ。確かに森の中に水道があるわけないしね。現代日本人の感覚だと喉が乾いたら自販機って感じだからね。
「じゃあ、それもお願いします」
指摘されてから改めて考えると、俺が何も考えずに依頼に向かおうとしていたのが良くわかる。これはもっとちゃんと道具を揃える必要があるだろうか。
「あの、その辺の一通り揃えてもらえますか?日帰りの予定ですのでそんな感じで」
「わかりました。初心者セットってやつですね。
ちゃんとした長く使えるのと、安いけど早々に買い換えないといけないものがありますがどうされますか?予算がないようなら安い方で揃えますが」
「ちゃんとした方はいくらくらいですか?」
「銀貨四枚くらいでしょうか。正確にはこれから計算しますが」
「ならちゃんとした方でお願いします」
高いって言うからよっぽど高いのかと心配になったよ。
「ジン様、一般的に冒険者で初心者となると村から出てきたばかりのお金のない人がほとんどです。それこそナイフを買うお金もないくらいに。
その辺の木で薬草を掘って、手に抱えて戻ってくるのです。それを繰り返してお金をためてようやく装備を整えるんです」
なるほど。そう考えると確かに銀貨四枚は高いか。4万Rだしな。日本でも4万円で揃えるかって言われたら悩んだだろうし。
「こちらでいかがでしょうか。銀貨四枚と大銅貨二枚になります」
竹みたいなので出来た水筒と布の袋が数枚、手袋に脛当てなどが並んでいる。
脛当ては防具ではなく、膝下にまく布って感じだ。森の中は道があるわけではないので結構下草が生えている。それでズボンが汚れるのを防止するためらしい。
普通の冒険者はそんなこと気にしないが、俺の服が上等なものだから用意してくれようだ。
「それで結構です。
クレア、他に必要なものはないか?」
クレアは冒険に出るのを聞いていたので水筒などの必需品は持っていきたようだ。俺より準備がいいって。いやこの世界の常識なのかな。
「じゃあ、これでお願いします」
支払いを済ませてバッグを肩にかつぐ。なんかそれだけで冒険者になったような気分になれるから不思議だ。
ちなみに俺は現金を持ち歩いていない。クレアに任せている。俺が支払いをしようとすると、現金を取り出す前にカウンターに現金が出現するからだ。
今度会ったらちゃんと加減するように言っておかないと。あ、でも奥殿からしか会えないか。あそこに行くと聖者とか色々言われるから行きたくないんだよな。
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