042 村祭

#042 村祭


 近くの村でお祭りが開かれると聞いた。村開拓何十周年とからしい。王都の近くだけあってそこまで貧しい村じゃないからできる事だろう。


 そこに俺はお邪魔する事にした。


 元の世界に戻れるようになるまで数年、出来ればこの世界を少しでも見たいと思っている俺は、まずは近くの村まで行ってみようと考えたのだ。


 だけどちょっと早まったかもしれない。




「リリアーナさん、近くの村で村祭が行われるって聞いたんで見に行こうかと思うんですが」


「王都から出られるんですか?」


「ええ、村まで歩きで1日程度らしいので一泊で行って来ようかと思っています」


「わかりました。私の方でも準備しておきますね」


 うん?リリアーナさんが準備?一緒にくるのかな?



 出発当日、屋敷の前庭には女性兵士が6人と冒険者が3人いた。馬車は1台だ。


「リリアーナさん?これは?」


「護衛ですよ。近くの村とはいえ魔物が出る可能性もありますし、盗賊などが出る可能性もあります。日帰りならともかく泊まりがけなら護衛は必須です」


 いや、でもこれほど厳重にする必要は無くない?

 俺的にはクレアとリズの二人を連れていくだけだと思ってたんだけど。


「ダメです。以前にも言いましたが、ジン様の命は私の責任でもあるのです。西の森の端っことは違うんです。あそこはあそこで危険ですが、街道は街道で危険があるんです。

 ジン様はお人好しですからころっと騙されて奴隷にされてしまいますよ」


 流石にそんな事はないと思うんだが。


「ジン様、野盗に女性が追われていたらどうしますか?」


「助けますね」


「ではその後は放置しますか?」


「いや、次の街まで一緒にいきますね」


「その日の晩は見張りをおきますか?」


「うーん、どうでしょうか」


「半分くらいの確率でその女性は野党の一味です。そうやって油断したところでお金になりそうな物を奪って逃げるんです」


 美人局的な?


「王都の近くですので、純粋に武力で襲って強盗する野盗は少ないです。ですが、そう言った感じでの盗み的なのは普通にあります。

 女性でも野盗に追われていても身内以外は信用してはいけないのがこの世界です」


 うーん、そう言われると辛いな。確かに寝てるうちに財布とか盗られてそうだ。


「なので護衛をつけます。さらに移動は馬車で行ってもらいます。まあ一日歩きたいというなら止めませんが。ちなみに1日というのは日が昇ってから日が暮れるまでですからね」


 ありゃ、9時5時とかじゃないのね。


「日の高い間だけの移動で行ける距離は知れてます。普通歩きで1日と言ったら日の出から日の入りまで歩いての時間です」


 あー、馬車をお願いしよう。うん、そうしよう。俺は旅はしてみたいが別に苦労がしたい訳じゃない。1時間くらいなら歩くのも楽しそうだけど。


「クレア、身の回りの品はちゃんと準備できていますね?」


「はい、先ほど確認しました。1泊二日なら問題ありません」


「よろしい。ではジン様、村祭を楽しんできてくださいね」


 なんだか一緒に行ってもらう人たちに申し訳ない感じがしてきたな。

 冒険者は先頭で警戒している。俺の馬車が真ん中で護衛が後ろだ。





 夕方には村についた。途中は何もなく進んだので、何度か休憩を挟んだだけですんだ。


 祭りは昼から始まっていたのか、すでに酔っ払っている人もいるくらいで、村長に挨拶も出来ない。リリアーナさんからは最初に村長に挨拶するように言われてたんだけどな。一応外部の人が参加するときは村長に顔通しするのが礼儀だそうな。

 近所の村ならみんな知り合いだからそんな必要はないんだけどね。


 村の中では中央に大きな焚き火が焚かれていて、脇には大樽がどんと置いてあって、そこから好きに酒を取って飲むようだ。


 焚き火の周りでは若い男女が踊ってたりして楽しそうだ。


 祭りとは不思議なもので、一緒に酒を飲んでるわけでもなく、話をしてるわけでもないのに、その場にいるだけで参加してる気になってくる。


 雰囲気を楽しんでいると、酒がなくなったのか、お開きになったようだ。


 護衛が用意してくれていたテントで一夜を明かす。キャンプみたいでちょっと楽しい。いやこれもキャンプなんだけどね。全部用意してくれるからキャンプしてる気分がないっていうか。


 夜番も護衛と冒険者がそれぞれ人を出して警戒してくれていたようで、何事もなく一夜が開けた。地面が硬いせいかちょっと体が強張っている。寝不足気味だし、帰りは馬車の中で寝てよう。


 もう用事は済んだのでとっとと馬車で帰る。昼過ぎには王都に戻ってきた。



「どうでしたか?ジン様」


「うーん、普通の祭りでしたね。別に屋台が出てるわけでもなく、ただ酒とつまみがあるだけというか」


「村祭りでしたらその程度でしょうね。大きな街の収穫祭とかならもうちょっと何かあると思いますが」


「もしかして知ってて言いませんでした?」


「ええ、ジン様はご自身で見ないと納得されないようですから」


 まあそうだな。言われてても一度は見たいと言って行ったかも知れない。


「とにかく街を移動する際には護衛とか野営の準備とか結構大変なんです。ジン様もその辺理解してくださいね」


 つまりあまり街から出るなと。暗喩のわかる大人な俺はちゃんと気配りも出来るさ。


 真面目に旅をする気になるまでは出来るだけ街からは出ないようにしよう。

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