003 リリアーナお嬢様

#003 リリアーナお嬢様


 朝食は普通にサンドイッチだった。フレンチとかじゃなくてよかった。


 その後、庭などを案内されたが気持ちいい風が吹いていて体を動かすには最適じゃないだろうか。最近、と言うかここ十年ほどまともに体を動かしてないから余計にそう思う。


「御用がなければあちらでお茶でもいかがですか?」


 クレアの提案は庭の隅っこにある屋根のあるちょっとしたステージだっが。大きさはそれほどでもないが、四人くらいでテーブルを囲んでお茶をするにはいいかもしれない。


「俺ってする事ないんですか?」


「はい、お嬢様がお帰りになられるまでは特にする事はありません。強いて言えば、この家から出るのは禁止されております。

 状況の説明もないまま外に出て危険ですので」


 そうか外は危険なのか。どこかの後進国とかかな?まあそれでもおかしいんだけどね。俺日本から出た覚えないから。


 クレアがお茶を用意してくれたのは良いんだけど、ずっと俺の斜め後ろに立っているのだ。非常に落ち着かない。


「あの、一緒に座りませんか?」


「いえ、使用人がお客様と一緒に席を共にするなどあってはならない事です。お気持ちだけいただいておきます」


 はあ、ダメか。なんとなくそんな気はしたんだよね。狭い部屋とは言え専用の待機室とかあるし。


「えっと、クレア?その辺で寝転んでも良いかな?」


「もちろん構いませんが、下に敷く布をお持ちしますので少しお待ちください」


 そう言って返事も聞かずに走って行ってしまった。


 下に敷く布?レジャーシートとかかな。確かに服が汚れちゃったらあの豪華な部屋を汚しちゃうしね。


 布を持ったクレアが戻ってきて、日陰に布を敷こうとしたので、日がガンガン当たっている場所に敷いてもらった。俺は今太陽にあぶられたい気分なのだ。久しぶりの太陽って感じだから全身で感じたい。





「お客様、起きてください。お嬢様がお帰りになられました」


 どうやら眠ってしまっていたようだ。それにしてもお客様って・・・あ、名乗ってないわ。


「すいません、今更ですが、俺は神崎仁です。挨拶が遅くなってすいません」


「カンザキ様ですね。分かりました。改めて私はクレアと申します。よろしくお願いします」


 そう言って90度まで頭を下げてくる。

 ここまで頭を下げられたのって新人君が大きなポカをやらかした時以来じゃないだろうか。


「それではお嬢様がお待ちですのでご案内いたします」


 俺を助けてくれてと言うお嬢様が戻ってきているらしいので、とりあえずお礼を言わないとと思いながらクレアの後をついていく。


 屋敷の1階の部屋だった。

 応接室のようで、ソファーとローテーブルの他にお茶を入れる用のキャスター付きワゴンなどがある。


「ようこそ異世界の方、私はリリアーナと申します。説明などは私の方からさせていただきますのでしばらくお時間をいただきたいと思います」


「あ、神崎仁です。あの、怪我を直していただいたそうでありがとうございました」


 一晩くらいしか経ってないのに、昨日のあの激痛がなくなってるんだよね。もしかして麻酔でも点滴されたのかもしれない。


「怪我は大した事なかったようですが、体に痺れとかは残ってませんか?一応治せたようですが、後遺症の可能性も指摘されていたので」


 一応体を動かしてみるが特におかしな所はない。


「大丈夫みたいです」


「それは良かったです。

 ではとりあえずお座りください。現状の説明から入らせていただきます」


 うん、ようやく俺の疑問に答えが出るな。


「まず、この世界はアタラクシアという女神様の加護を得た世界です」


 はい?


「その中でも西の大国と言われているのが当ハンバルニ王国です。ここはその首都のアドミスの街です。

 この屋敷は私の所有する屋敷で、昨日召喚した場所とは別の場所となります」


 ハンバルに王国?召喚?


「混乱されているようですね。

 最初に言っておくのを忘れていました。

 ここはカンザキ様のいた世界とは別の世界となります。昨日召喚魔法によってこの世界に来ていただきました」


 異世界?

 なんかもう色々あり過ぎてお腹がいっぱいなんだけど。異世界召喚ってあれ?小説なんかであるやつ?

 たまの休みに無料の1巻を読んだりしていたので意味自体はわかるのだが、訳がわかならい。


「この世界は魔王の脅威に脅かされています。それに対抗するために勇者召喚の魔法を使いました。

 異世界の方は誰でもが大変強力な力を持っていると言われており、魔王に対する最終兵器として頼らせていただきました」


 魔王?ってそれ大変じゃん!っていうか兵器って言ったよ、この人。戦争に使う気満々じゃん!って魔王との戦争のために召喚したんだっけ。


「一緒に召喚された3名の男性は勇者として魔王と戦うことを了承していただけました。あとはカンザキ様だけなんですが、まだお体が本調子ではないようですね。日を改めた方が良いでしょうか?」


「いや、気になるんで一気にお願いします。このままでは気になって寝れそうにありません」


「そうですか。わかりました。

 では話を続けますが、魔王は既に東の大陸を蹂躙しました。大陸にあった国も滅びたそうですので次はこの大陸を狙ってくるでしょう。

 魔王は非常に強力でこの世界の人間では相手にならないと言われています。実際東の大陸が滅びたんですからそうなのでしょう。東の大陸にも実力者はいましたからね。


 そこで重要になるのが異世界人です。カンザキ様の事ですね。この世界にはない力を持っていると言われています。

 ご自分でどんな力があるかは分かりますか?」


 そう言われてもな。久しぶりにぐっすり寝たせいか体が軽いくらいだ。


「特には感じませんが、何か感じるものなんでしょうか?」


「そうですね。他の三人は強力な魔法が使えたり力が強かったりとかしたようです。確認は騎士団の方で行ったので私は報告でしか知りませんが。


 何か頭に浮かぶとか、力が溢れてるとか、知らなかった力を感知できるとかありませんか?」


 そんな事あったら真っ先に確認してるよ。


「特にないですね。強いて言えばよく寝て体が軽いことくらいでしょうか」


「うーん、困りましたね。異世界人で召喚されて以上は何らかの力を持っているはずなんですが。

 まあそれは明日神殿に行って確認しましょう。今日のところは全体的な話だけにしておきましょう。


 説明の続きですが、カンザキ様は今のところ勇者候補です。なんらかの力が期待されていますので確認され次第、勇者となります。

 問題はカンザキ様の気持ちの方なんですが」


 勇者って言われてもね。俺って悲しいくらい喧嘩に弱いのよね。流石に小学生には負けないだろうけど、中学生のヤンキーになら負けれるかもしれない。


「俺って今まで喧嘩すらしたことがないんで、戦いとか言われても困るんですけど」


「えっと、つまり戦闘力がないということでしょうか?」


「そうですね。そういう表現もできると思います」


「では魔法は?体の中に不思議な力を感じるとか、何かの囁き声が聞こえるとか?」


「さっきも聞かれましたけど、そういうのは何もないです。正直この世界?に来て変わった事は何一つないです」


 リリアーナお嬢様は段々と顔を青くしていき、ぶつぶつと呟き出した。


「もしかして誤召喚?いえ、術式に間違いはなかったはず。では巻き込んだ?いえ、女神様からいただいた召喚術式ですそんなはずは・・・」


 何やら予定外のようだが、俺は悪くないと思う。




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