008 商店街

#008 商店街


 ここは王都なので商人も多い。当然店も多く、当たり外れも多い。ぼったくりもあれば庶民の味方などもある。


 表通りは高い店が多いらしいので裏通りに向かう。


 裏通りと言っても路地みたいな道ではなく、ちゃんと馬車がすれ違える程度には広い。大通りがデカすぎるだけだ。

 大通りは軍のパレードなんかをやったりもするので広く作られているとか。パレートとか言ってるけど、実際は軍事行動のためなんだろうね。


 適当に見つけた雑貨屋を覗くと、ちゃんと薬草も売っていた。ただ、乾燥した状態で。

 クレアの方を見て、何故?と言う顔をしてみたが、彼女も不思議そうな顔をしていた。


「あの、この乾燥したのじゃなくて生のを欲しいんですけど」


 俺が店員さんに声をかけると、あっさりと無いと言われた。生が欲しいなら表通りの大きな商会に行けと。

 こう言う小さな店では毎日客が来る分けじゃないので乾燥したものしか扱ってないそうだ。薬草にもよるが、一般的に薬草と呼ばれているのは乾燥させたものを使うので生は大手の商会が少し扱っている程度らしい。


「申し訳ありません。調査不足でした」


 クレアが謝ってくるが、これは仕方ない。多分公爵家が買い物するのなんて表通りなんだろうし。


「じゃあ表通りに行ってみますね」


「ああ、待った!お客様にはお勧めが!」


 ん、生の薬草がないなら用はないんだけど。


「この王都観光マップはいかがですか?!なんと人気の喫茶店からサービスの良い宿屋まで網羅しています!今なら各地区ごとに大銅貨5枚です!」


「安いの?」


「どうでしょうか?私どもは決まった商会としか取引しませんのでどの程度かは分かりかねます」


 まあそうか。でも俺お金持ってなかったな。薬草はクレアが買ってくれそうな事言ってたから気にして無かったけど。

 俺がお金をない事を示そうと掌を上にして手をあげると、ふっと光ったかと思うと、銀貨が一枚乗っていた。


 あれ?お金なんて持ってなかったはずなんだけど。クレアが置いてくれたのかな?


 クレアと見ると彼女も驚いて目を見張っていた。


「な、何が・・・」


 俺が聞きたい。


「マイどー、王都の概略マップと商店街の2枚お買い上げー」


 いや、買うって言ったつもりは・・・うん、結構詳しく載ってるな。どこから現れたのか分からないけど、ほとんどタダでもらえたようなもんだ。もらっておくか。




 雑貨屋から出てから馬車に乗って、さっきの現象について聞いてみたが、クレアにも何が起こったのか分からないらしい。魔法にも何もない場所から出現するような魔法はないそうだ。

 唯一可能性があるのはマジックバッグと呼ばれる魔道具でカバンの形をしているが、外見とは合わないほどに多くのものが入るらしい。それの出現の仕方は何も無かった場所に現れると言う感じで一見俺に起きた現場に似ていると言えば似ている。


 だけど俺はマジックバッグなんて持ってないし、そもそもお金自体を持ってなかった。ならあの店員が?いやまさか。地図を売ろうとした相手にお金を渡すとか意味がわからない。


「とりあえず戻ったらお嬢様に報告しておきます」


 訳が分からないのでとりあえず置いておこうと言う事になった。お金が現れると言うのは初めて聞いたらしいが、不思議なことが起きることは稀にあるらしいし。

 良い事なら女神様のおかげ、悪い事なら魔族のせい、と言う事になるそうな。魔族悲惨だな。



 そして大通りに出て、確実にあると言う、公爵家と付き合いのある商会にきた。大商会らしく、入り口に剣を装備した護衛が立っていた。防犯用だろう。


 その護衛が俺たちの馬車を見た途端に中に入っていった。職務放棄はダメだよ?


 俺たちが降りる頃には中からはさっきの護衛と、つるっぱげのおっさんが出て来た。降りて来たのが俺だとわかると後ろから降りてくるのを期待しているようだが、残念ながら先に降りたクレアと俺だけだ。


「あの、王女殿下は?」


「今日は俺だけです。リリアーナさんはお仕事です」


「そうですか。残念ですな。まあせっかく来られたのです。店をのぞいて行ってください」


 どうやらこの商会の会長だったようで、リリアーナさんが来たと勘違いして急いで出迎えに出て来たらしい。ちょっと悪いことしたな。

 馬車にデカデカと紋章が描かれてるのが悪い。今度来るときは歩いてくるとしよう。


 店の中はいくつかの場所に分かれており、薬草は1カ所にまとめられていた。

 生の薬草もあったので必要数購入しようとしたら、お金を置く盆が光ったかと思うとお金が置かれていた。


「クレア、俺にはお金があるように見えるのですけど」


「不思議ですね。私にもそう見えます」


 店員さんはちょっと光ったのに驚いてはいたが、お金が置いてあるのを見て、それで会計してくれた。


「クレア、早急にリリアーナさんに相談する必要があるように思うんだけど」


「私もそう思います。寄り道せずに戻りましょう」


 1度目は何か不思議な現象で片付けてしまおうと思ったが、2度目となるとそうも言っていられない。これは俺の保護者であるリリアーナさんに報告しないと。

 薬草はもしかしたら萎れちゃって納品できなかもしれないけど、これはもっと深刻な話のような気がする。

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