045 お説教

#045 お説教


「ジン様、どういう事ですの?」


 いや、そう言われても困るんだけど。


 俺は今リリアーナさんから詰問されていた。どうやらロザリア王国に行くと言ったのが問題らしい。


「ジン様の世話は私に任されています。それはジン様の生命財産の保障も含まれています。国内であれば騎士団を動かしてでも守って見せますが、他国ですとそう言う訳にもいきません」


 あれ、行くの確定してるの?リリアーナさんが承知すればって話にしたはずなんだけど。海外に行かせたくなければ断ればよかったんじゃ。


「ジン様ご自身が行く事を希望されたと言われたら断れません。特に今回は国からの招待です。公私に関係なくロザリア王国が安全を保障すると言われたら私には断れません。

 私はジン様の安全に関しての理由でなら断れますが、その安全をロザリア王国が保障すると言われては断れません。ロザリア王国を信用してないと言ってるような物ですからね」


 ありゃ、本気でリリアーナさんの判断に委ねるつもりだったんだけどな。政治的に見るとそうなるのか。これは事前に相談してからの方が良かったのかね。


「こう言う場合はその場で返事せずに一度保留にして相談してください。話の流れによっては私の騎士団を同行させる事も可能だったかもしれません。

 今回の場合、先にジン様の訪問の了承が得られてるので私の方に交渉のカードはありませんでした。国境までは騎士団に警護させますが、国境で身柄を引き渡す事になります」


 ちょっと、何か犯罪者の引き渡しみたいな口調になってるよ?


「ロザリア王国を信用しないわけではありませんが、どの国にも不届き物というのはいる物です。もちろん盗賊なども問題ですし、下手すると暗殺者と言う可能性もあります」


 え、そんな物騒な話なの?


「ジン様にご自覚はないでしょうが、異世界からの召喚者=勇者と認識されています。実際は誤召喚ですが、同等の力を持ってると信じてるものもいるでしょう。

 さらに言えば、ジン様に加護がないのも問題です。我が国の教会はジン様の保護の方向で動いてくれていますが、他国の、それも少数過激派などは加護がない事を理由に暗殺に動く可能性もあります」


 あ、宗教ね。あ、でも奥殿では神像が光ったんだよね。リスモット様が光らせたんだけど、他の国の神像だとどうなるんだろうね。

 それに加護があったらあったで俺も勇者だろうと言われかねないし。難しいもんだ。


「わ、わかりましたって。次からはちゃんと相談しますから」


「わかってませんね。一国からの招待を受けてしまったんですよ?他からの招待があった時に断れません。少なくとも他の2国も招待しようとするでしょう」


 あー、なるほど。連鎖的に決まってくやつね。


「はあ。ただ最初が東のロザリア王国だったのは幸いかもしれません。今の時期だとまだ魔王はこちらに戦力を向けてませんから今のうちにロザリア王国に訪問しておかないと、戦争が始まってからではいけなくなります。

 まあそれも考慮して急いで招待したんでしょうけど。陛下も分かっててあなたの判断に任せたんだと思いますし」


 いや、なんかもっと軽〜く考えてたように見えたけど。あれも演技か?


「とにかく次からは先に相談してください」


「は、はいっ」


 まだ怒りは収まらないようで、その後2時間ほど説教されてしまった。俺の昼飯・・・。





 翌日、陛下から再度呼び出しがあって、使者の伯爵様と相談した結果、異世界人であることは伏せて訪問する事になったらしい。

 国や貴族は異世界人であることは既に知ってるだろうけど、一般市民はそうではない。そして異世界人=勇者が一般的だ。なので異世界人と言う事を伏せておいた方が良いと言う判断だ。


 まあその方が俺的にも良いね。俺が勇者だと言われても困るし。多分俺が魔王に最後のとどめを入れてもそのうち魔王が復活するんじゃないか?勇者としての力を与えられたのはあくまであの3人だからね。


「私的な訪問ゆえに護衛もロザリア王国使者殿の護衛という名目になる。

 お主の立場は公式には使者殿の従者という扱いになる。もちろん実際にはそんな扱いはさせんし、しようともしないだろうが、何か聞かれたらそういう事で話を通してほしい」


 つまり公には誰も連れて帰ってないって事にするわけね。


 でも俺的にはその方が嬉しいかもしれない。国王との私的な謁見はあるだろうけど、式典みたいなのは無いだろうし、向こうでも自由に動けそうだ。やっぱり旅行するならあちこち行ってみたいよね。

 社畜時代は旅行なんてする暇なかったし、大学の頃はバイトで忙しかったしね。まともな旅行は初めてじゃないだろうか?


 仮にも国の招聘を受けておいて自由にあちこち行けるわけがないのだが、そんな事は頭にもなく色々と妄想するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る