018 パーティー?

#018 パーティー?


 冒険者ギルドの裏に回って訓練場を見渡す。


 確かに何人もが剣を振り回しても十分な広さがある。

 木の塀を挟んで反対側にもスペースがあるが、あっちが魔法と弓の練習場だろう。


 剣を振っているのは2人いた。

 全員若い子でまだ駆け出しという感じだった。うん、これはチャンスだ。Fランクの俺と組んでくれるのは駆け出しだけだろうしね。


 訓練場の隅に置いてある練習用の剣を適当に取って俺も素振りをする。


 ちゃんと俺も冒険者だって事を見せないとね。


 しばらくして一人が休憩に入った。これはグッドなタイミングではないだろうか。

 俺も休憩するふりをして近付き声をかけた。


「やあ、頑張ってるね。剣の訓練かい?」


「ああそうだよ。あんたもか?」


「そうだよ。体を動かしてないと落ち着かなくてね」


 嘘です。剣は教えてもらってるけど、あんまり熱心じゃありません。


「そうか。俺はジョン。Fランクの駆け出しだ」


「俺はジン、俺もFランクだよ。実は一緒に依頼を受けるパーティーを探しててね。結構剣を振れるみたいだから声をかけさせてもらったんだ。どうだい?俺と一度パーティーを組んでみない?」


 俺的には頑張って誘ったと思う。いきなりすぎて戸惑っているようだが許してほしい。


「えっと、ごめん、幼なじみと一緒にパーティー組む事になってるから。あんまり人数増やすと報酬が減って生活が苦しくなるから増やす予定はないんだ。他をあたってほしい」


 ありゃ、もうパーティーが固定されてるのか。残念だけど仕方がないな。

 多分だけど田舎から一緒に出てきて一緒に冒険者になったんだろう。最初は仲間内だけって感じかな。Fランクの依頼を見てても報酬の高い依頼はなかったからね。

 パーティーの報酬の分け方は知らないけど、多分あの報酬じゃ宿を取るのが精一杯だと思うしね。


 でもまだ一人いるんだ。焦ることはない。


 もう一人の方はビュンビュン剣を振っていた。かなり出来るんじゃないだろうか。力が有り余ってる感じでひたすら素振りを繰り返している。


「すいません」


 声をかけてみるけど素振りを止める様子はない。


「すいませんっ」


「うん?俺か?何の用だ?」


「よければパーティーを組んでもらないかと思って」


「ランクは?」


「Fです」


「他をあたりな。俺はDだ。新人と遊んでる暇はねえ」


 Dランクのお方でしたか。確かに剣の振りからしても実力を感じる。別にランクが分かったから言ってるんじゃないよ?最初から実力者だとは思ってたよ?


「そうですか。邪魔してすいませんでした」


 戦士組はダメだったか。


 いや、まだ魔術師組がいるはずだ。弓使いでも良い。とにかく友達を、いやパーティーを組むんだ。


 魔法の練習場に行くと、弓を練習している男がいた。魔術師は国でも少ないって言ってたしな。魔法の練習場とは言え魔術師が練習している確率は低いか。


 弓を練習している様子を見ると、バンバン的に当てている。これは相当な使い手じゃないだろうか?


「すいません」


 集中しているところを悪いとは思ったが、これだけの実力者だ。早く勧誘したい。


「うん?君も弓の練習をするのかい?ここの練習場の弓はあまり質がよくないから自分の慣れてるのを使った方がいいよ?」


 なんか俺も練習に来てるていで話を振られてしまったが、俺はパーティーメンバーを探してるのだ。一緒にパーティーを組んで仲良くなって友達になるのだ。


「あの、練習に来たんじゃなくてパーティーを組んでくれないかと思って」


「ああ、そういう話ね。君のランクは?」


「Fです」


「じゃあ無理だね。僕はDランクだからね。それにすでにパーティーは組んでるしね」


「そうですか。失礼しました」


 残念。Dランクとかでも訓練場で練習するんだね。剣なら体を鈍らせないようにってのはなんとなく分かるんだけど、弓でも練習するんだ。いや、弓だからこそか?繊細な技術だって聞くから依頼を受けてない時でも感覚を忘れないように練習するのかもしれない。



 だけど、俺の友達になろう計画、もとい、パーティーメンバー募集の計画は破綻した。

 やっぱりFランクだと組んでもらうのが難しいみたいだ。

 まあFランクなんて買った薬草納品するだけでなれるランクだしね。よほど気に入ってくれないとパーティーには入れてくれないだろう。


 そんなこと最初から思いつけって話だよね。



 俺は次の計画に移るべく、剣を返却してギルドの中に戻った。

 酒場に用事があるのだ。


 俺は多分酒には強くないと思うが、酒を一緒に飲めばパーティーは組めずとも仲良くなれる位は出来るかもしれない。



 酒場に入ると酒の匂いがムッとしたが、見渡すと1組の団体さんが何やら話し込んでいる。テーブルの中央には依頼書と思われる紙が置かれてるので作戦でも練っているのだろうか。


 とりあえず隣のテーブルに座って果実水を頼む。


 盗み聞きみたいで心苦しいが、どんな話をしてるかが気になる。


「だから俺がゴブリンを1匹ずつ引き離すからそれをタコ殴りにすればいいって」


「そんなにうまく行くわけないでしょうが。ゴブリンってなかなか1匹にはならないわよ。1匹の気を引いたら絶対に他のも付いてくるわよ」


「そんな事分からないだろう。俺がやれば大丈夫だ」


 どうやらゴブリンを倒す手順を相談しているようだ。


「正面から戦うよりもずっと安全だろう?最悪全部ついて来たって奇襲すれば有利になるのは間違い無いんだからさ」


「だから複数同時に相手するのは無理だって言ってるでしょ。私たちだと1匹がせいぜいよ。何匹にも囲まれたら死ぬしか無いじゃ無いの」


「大丈夫だって。俺も一緒に戦うからさ。お前だけに戦わせたりしないよ。みんなで戦えば怖く無いよ」


「だってジョンだってまだ駆け出しだし、ゴブリンを倒せるか心配よ」


 ジョンってさっき訓練場で剣を振ってた子だよな。幼なじみとパーティー組んでるって話だったけど、この子たちか。


「俺たちは田舎もんだけど、これでも狩で生活してたんだ。弓で弱らせたところで戦ったら大丈夫だって」


「それだとさっきの奇襲の話と矛盾するでしょう。ちゃんと考えてるの?とにかくゴブリン見つけても1匹で無い限りは逃げる。はい、決まり!」


 どうやら女の子の方が発言力が強いらしい。それにゴブリン1匹でないと逃げるって。ゴブリンってそんなに強いのか?


「あの」


 俺は一縷の望みをかけて話しかけてみた。


「なに?」


 女の子が不機嫌だ。


「よければ俺も一緒に依頼受けれないかなと思って」


「あんたランクは?」


「Fだよ」


「せめてEランクになってから来なさい」


「はい、すいません」


 やっぱりダメだったか。でもジョン君はFランクだったし、彼女たちもそうだと思うんだけど。


 とにかく袖にされてしまったのは確かなのでこれ以上ここにいても仕方がない。酒の残り香だけでも酔ってしまいそうだ。


 はあ、友達ってどうやって作るんだろうね?


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