第7話

何回イッても下半身に埋められた振動は止められなくて喘ぎ続けるぼく。


口元をだらりと開けて、よだれが出そうになる……これが恍惚なのかな。


ヒサメはキャンバスに鉛筆を走らせながら、チラリとぼくを見てくる。


「めっちゃいいわ」


ふふふと楽しそうに笑うヒサメ。


「ぼくちんも楽しいでしゅ……もっともっといじめて?」


えくぼを浮かべてふにゃりと笑うと、ヒサメはぼくに近づいてきた。



「あの名前は羽鳥霈はとりひさめって言って、雲叢の息子なんだけど……覚えてないんだぁね」


目の前でメガネを外したヒサメの顔を見たら、思い出した。



『こんにちは、羽鳥霈です。父がお世話になってます』


『父とは違って油絵やペン画を描いてます……たまに賞をいただいたりはしますが、まだまだです』


雲叢さんの展覧会に来てくれた息子さん……ボックスボブの髪型が印象的な20歳の男性だったはず。



「霈くん……なの?」


ビクビク身体を震わせながら言ったものだから、ヒサメはクスクスと笑った後、バイブの電源をやっと切ってくれた。


「展覧会のデザインをやって欲しくて、頑張ってたくさん認められた絵を描いて頼もうと思ったら、辞めてるんだもん……ショックだったなぁ」


優しく頬を撫でながら、高い声で穏やかに言うヒサメ。


「別れがあれば、出会いがあるって本当なんだぁね」


ヒサメはふわふわな笑みに変わった。



「もう離さないから……覚悟してな」


抱きしめられると、チューベローズの香りがまたしたけど、今度はちゃんとヒサメだと認識出来た。


「ぼくのこと、捨てましぇんか?」


ヒサメにまで嫌われたら、ぼくは生きている価値はない。


「ボロボロになっても、一緒にいようなぁ」


それを聞いたら、もう力が入らなくなった。


「はひぃ」


ぼくちんは力なく言って、ゆっくりと目を閉じた。



ああ、幸せがぼくちんに降ってきたんだ。

「……ツ、ミツ……起きてぇ」


頭がふわふわする中、意識が浮き上がってくる。


ペチペチと小さな手でぼくの頬を叩くのは愛しの君だと、声だけでわかる。


「はひぃ」


気の抜けた返事をしながら目を開けると、茶髪のボブで覆うものがないアーモンドの瞳をぼくに向けるヒサメがいた。


「だいじょうぶぅ?」


ヒサメは高い声で柔らかな口調で言いつつ、ぼくの頭を優しく撫でる。


「気持ち良かったでしゅ」


ヘラリと笑って言うと、ふふふと笑ってくれた。



「夢の中で他のヤツに犯されたからってわけじゃないよな?」


突如、低い声で言い出すヒサメ。


「ヒサメと初めてシた時を思い出してたんでしゅ……もっともっとイジメて欲しかったなぁって」


えくぼが浮き出るくらいの笑顔を見せて言ったら、頬を掴まれて唇を塞がれる。


暴れ回る舌に相変わらずついていけなくて息が苦しいけど、一生繋がっていたいと思う。


勢いよく離されると、どっちのものかわからない唾液がぼくの口の端から垂れる。


「ミツ、下手くそだぁね」


ヒサメは左の口角を釣り上げたまま、右の人差し指で絡め取り、舐めた。



「ぼくちんの身体って、全部ヒサメで出来てるんでしゅね」


心から思ったから、素直に言ったぼくちん。


「…オレ、今お前に殺されかけた……」


俯いたヒサメは顔を上げた瞬間、ニヤリと微笑む。


「終わりにしようと思ったけど、もう1ラウンドだぁね♪」


楽しそうに言って、ぼくを敷くヒサメ。


「ぼくちん、明日腰立たにゃい……」


ヒサメは抵抗するぼくちんの顔に触れて、突き刺さるような瞳で見つめてくる。


「だいじょうぶ! あがちゃあんと介抱するからぁね」


ふふふと不敵に笑うヒサメに変わらないなと思って、ちょっと安心した。



 「はひぃ」


霈に打たれたぼくちんは満たされる。


あの日も

今も

これからも。


「ぼくには……君だけでしゅよ」


小さい声で言ったから、ヒサメは首を傾げたけど……妖しく笑って口づけをしてくれた。


<終わり>

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霈に打たれたぼくちんは満たされる 斎藤遥 @haruyo-koi

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