第17話 Bleu Myosotis
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by. 江波 圭太
「江波さん、何か暗いですよ。」
安藤が俺の顔を覗き込みながら心配そうに言う。
「そ、そんな事ないぞ?」
「そうですか?あの、今日は特に大きな事件もありませんでしたし、パッと飲み
に行きませんか?」
「ハッ!?お前とか~?」
「良いじゃないですか!
もう、江波さんには拒否権ありませんから!行きますよ!」
安藤はそう言って、勢いよく俺の背中をバンッと叩くと肩までのボブを揺らし
ながらスタスタ歩いて行く。
その後姿を見ながら、俺は数日前の事を思い出していた。
3月25日の碧さんの誕生日から3日経った日、俺のスマホには一通のメールが
届いた。
それは、碧さんからのものだった。
『ご無沙汰しています。
江波さん、お元気ですか?
先日、私の誕生日がきました。
嘘のようですが、私の願いが叶いました。
このまま蒼さんと一緒に暮らしていきます。
江波さんには、色々支えて頂きありがとうございました。
江波さんにも、幸せが訪れることを祈っています。』
俺は1%の可能性が消えたことを悟った。
『碧さん、おめでとう。お幸せに!』
俺からの最後のメールを送った。
俺は一人部屋の天井を見上げ、年甲斐もなく泣いた。
「江波さん、お店に着きましたよ!」
そこは署から程近い、馴染みの居酒屋だった。
「お、今日は二人かい?何にする?」
「じゃあ、生2つお願いします!」
居酒屋の親父に声をかけられ、俺の分まで安藤は勝手に注文していく。
「おい、俺、ビールなんて言ってないだろ。」
「え~、違うのが良いんですか?」
「イヤ、ビールでいいけど・・・。」
「でしょ!」
全く何なんだ、俺は今そんな元気じゃないんだよ・・・。
俺の気も知らず明るい笑顔の安藤に、ウンザリしながら項垂れた。
「あ!生きましたよ!ハイ、かんぱ~い!」
安藤は勝手に俺のジョッキと乾杯する。
俺は自棄になって、ビールをグイっと喉に流し込んだ。
お通しを口に運びながらビールを煽っていると安藤が小声で言った。
「江波さん、元気出してください。
振られても次の出会いがありますよ。」
「お、お前、なんで・・・・それ・・。」
驚きのまま安藤の顔を見る。
いつもは生意気で、口の減らない安藤が女の顔をしている気がした。
ドキッッ!
「私が江波さんの変化に気づかないわけないじゃないですか!?
だって・・・私は、ずっと江波さんの事見てましたから・・・。」
「エッ!?それって・・・どういう・・・。」
安藤の言ってる事も良く分からないし、何故か今日は安藤が可愛く見える。
どうして良いか戸惑っていると
「私は、江波さんの仕事に一生懸命な姿も、真面目で優しい所も、一途で
恋に不器用なところも全部知っています。
だって、私はそんな江波さんが好きだから。
今はまだ次の恋なんて考えられないかもしれませんが、覚悟して下さい。
私が、江波さんを好きにさせてみますから!」
そう一気に話すと真っ赤な顔をしながらビールをグイっと一気に飲んだ。
俺もつられてビールを一気にカラにする。
今まで同僚としてしか見てなかった安藤が、急に可愛い一人の女に見えて
俺の心臓はドキドキと音を立てていた。
今までの暗く落ち込んでいた気持ちがどっかに吹き飛んでいく感じがした。
二人で焼き鳥とビールを飲みながら、そんな遠くない未来、俺の隣には安藤が
笑顔でいるような予感を感じた。
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