第4話 Lapis-Lazuli
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by.
その日俺はいつものように外来で仕事をしていた。
午前の最後の患者を診終わって、ホッと一息ついた時だった。
胸ポケットに入れていたスマホが振動した。
「はい、中川です。」
「俺だ、蒼だ!
女が意識がなく倒れていた。
このまま、お前の病院に運ぶから診てくれ!」
「ハッ!どういう事だ。女!?意識がない!?」
「もう直ぐ着く。何処に行けば良い。」
「裏の救急外来に来てくれ!」
「分かった。」
そう言うとブチっと電話は切れてしまった。
電話の相手は、友人の
診てくれという。
分からないことだらけだが、一先ず救急外来に氷室が来る旨を伝え俺も
すぐさま向かった。
俺が救急外来について5分後、蒼がコートに包まれた女を抱えて飛び込んで来た。
普段、全く感情を出さず、何にも関心がなさそうに冷めた表情をするこの男が、
焦った様子で女を抱えている姿に俺は驚きが隠せなかった。
「ど、どうしたんだ!」
「女が倒れて意識がない。
脈はあるが、弱い気がする。」
女を見ると一見してあまり状態が良くないのが分かる。
「分かった。俺に任せろ。」
「頼む。」
蒼は俺に頭を下げて、待合室に向かった。
女を診ると外傷はない、身体的な問題は特に見当たらない。
ただ、意識が戻らなければなんとも言えないが、衰弱している事は
ハッキリしているので、点滴で様子を見ることにした。
処置を終え、女の病室が決まると蒼を探す。
待合室を見回しても蒼の姿は何処にもなかった。
“外か・・・?”
俺は中庭に向かった。
中庭を見渡すとベンチに腰掛け川沿いの桜を見ている蒼がいた。
「蒼、こんな所にいたのか、探したぞ。」
俺は手に持っていた缶コーヒーを蒼に渡しながら女の状態を説明した。
今まで浮いた話のひとつもない蒼に女!
きっと大事な存在なのだろうと思っていれば、俺の説明にもいまいち反応が薄い?
「ところで、彼女とはどういう関係なんだ?」
「関係なんて無い。初対面だ。」
「ハ~!?初対面ってどういう事だよ。」
「海を散歩してて倒れているのを見つけただけだ。
俺も初めて見る顔なんだ。」
「そ、そうなのか・・・。」
蒼は全く関係のない赤の他人だと言うが、この時の俺には、この二人の出会いが
蒼を変えてくれるかもしれないという予感めいたものがあった。
だから、蒼に女の病室に寄ってから帰ることをすすめた。
次の日、俺は何も言ってないのに蒼は病室に顔を出していた。
そして、彼女が目を覚ました。
蒼を病室に残し診察していくと彼女には記憶がなかった。
俺は彼女に一つの提案をした。
「あなたの状態ですが、外傷などはありません。
声は時間と共に元に戻るでしょう。
問題は体の衰弱が激しいのと、記憶を失っていることです。
何も分からない中、一人は不安でしょう。」
俺の言葉に彼女は泣きそうな顔を俺に向けた。
「先程、あなたの病室にいた男は私の友人で、あなたが海で倒れている
のを発見して助けたものです。
多分、あいつはあなたの助けになるような気がします。
今の状況をあいつにも話して協力してもらうのは、どうでしょう?」
女は頭をコクンと下げ同意の意思表示をした。
病室に戻り待っていた蒼に今の状況を話すと、俺の予想通り彼女の力になって
くれるという。
やはり、今までの蒼とは何か違う。
人を寄せ付けないように過ごしていたのに、彼女に対しては自然と受け入れている。
そして、蒼自身はそんな自分の変化に気づいていないようだった。
やはりこの二人の出会いは、蒼を心の闇から救う希望なのかもしれない。
俺はこの名も知らぬ彼女にいちるの望みを託した。
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