非常に面白かったです。という感想がまず練り出されます。単純な恋愛小説ではないのだろうな、と作者様の別の作品を呼んだ経験上、思ってしまいました。
物語の視点は、主人公の恋をする視点——これが巧みです。なぜ好きになったのか、なぜ心を彼女が独占してしまうのか。誰でも理解できる文脈にも関わらず、とことん追求しています。非常に人間臭い思考の中で生み出された恋心が、どうなっていくのかを丁寧に描写していく様は圧巻です。
思考にベースラインを置いた物語で、彼の考えは愚直でかつ誰しも青春時代には頭をよぎることなのではないでしょうか。思考の先にある想いに至るまで時間は掛からなかったようです。
最後のシーンはなかなか刺さりますよね。このシーンがあってこそ、生きる物語であり、とても好感が持てます。このシーンに至る前の彼と彼女の心情が混ざるアルフォートのシーンもとても素敵でした。
最後になりますが、全体を通して彼女の魅力が隅々まで行き渡るのです。主人公の思考を通して伝わってくる、その様相に、ラストのシーンで切ない気持ちになりました。
恋をするって良いですね。
読み始めて1話が過ぎた時には、ただ驚いた。
赤裸々に描かれた主人公の想いと行動に驚いたのだが……
だがこれはとても深い話であるとも気付く。
手首に自傷行為の跡。
つまり、彼女は死のうとしたか殺されそうになったことがあるという事だ。
その傷を見てしまった主人公の心には何かが生まれる。
自慰行為は生きる証のようなものだと思う。
彼女の死に近付いた傷から彼は生きる行為に走る。
「死」から感じる「生きる」という事。
鳥肌が立つような思いがした。
最後まで彼女の思いはわからない。
「今は彼はいない」という言葉から、街で出会ったのは家族かもしれない。
でも、彼は何かを失ったと思うのだ。
それは死に近いはずの彼女が、穏やかな笑顔で生きる行為をするのだろう事がわかるからではないだろうか?
彼はもう彼女を自分の中で生かす事ができないという事ではないか?
恐らく、彼の中で彼女を意識しての自慰行為は止まってしまうだろう。
彼女は誰かに生かされるのだから……
そんな気がした。
生と死をこれほどまでに描き切った小説は久しぶりに読んだ気がする。
すべてが素晴らしい。
まさに、このような作品こそが高く評価されて欲しい。
「君の手首に傷を見つけたあの日から、俺の情けない恋は始まった――」というキャッチコピーからもわかるように、主人公の男性が自傷癖のある女性に恋をする様子を描く作品である。
こんなふうに書くと、「メンヘラを馬鹿にしないで!」と怒る人や「精神的な病をネタにするなんて不謹慎だ」と顔をしかめる人もいるかもしれない。
あるいは「そういう題材の話ってどれも似たようなものばかりだよね」とスルーする人もいるかもしれない。
しかし、そのすべてを否定させていただきたい。
主人公目線で描かれた作品ということもあって、作中では主人公の心情や欲望がまっすぐに吐き出されている。
決して隠すことなく、誤魔化すことなく、お茶を濁すでもなく、オブラートに包むことすらせず、ただただ愚直に突き進んでゆく。
その生々しさはあまりにもリアルで、書こうと思って書ける文章ではないとすぐに気付かされる。
そればかりか、味わい深い文学作品を読んだかのような読後感さえある。
――そう、これは一種の文学だ。
また、ヒロインの扱いに対してもある種の敬意や丁寧さを感じた。
たしかに、物語の序盤から中盤にかけては主人公の妄想によってヒロインが徹底的に貶められるシーンが続くが、作品を最後まできちんと読み通せば、ヒロインが一人の人間として尊重されていることがわかる。
……というわけで、こういった題材の作品はスルーしがちな方にも、ぜひ読んでいただきたい作品です。
(ただし性的な描写がガッツリあるので、苦手な人はご注意を。)
さてさて!
堅苦しいことばかり書いちゃったけど、作品自体はとっても「わかりやすく」「読みやすく」しかも「面白い」。
作者である飛鳥休暇さんは、とても文章がうまい。
臨場感や迫力があり、「それでそれで? どうなったの!?」と続きが気になり、グイグイと読まされる文章だ。
ダラダラと無駄な描写をせず中身が濃いという点も魅力的。
物語の冒頭では、地味なヒロインについて描かれている。その描写は「説明」というよりは「観察」と言った方が正しい。
読者としては「なんで地味なキャラをこんなに描写するんだろう? このキャラに何かあるのかな」と気になってしまう。
実際、主人公はヒロインのことを「気になっている」わけだが、最初はやんわりとした興味だったはずなのに、それが徐々に深まり、あげく他愛もないきっかけで落ち、やがては執着するようになってゆく。
その過程は嫌というほどリアリティがあり、目が離せなくなってしまう。
主人公の行動はどこか変態じみている。
妄想をしてみたり、ヒロインにちょっかいを出してみたり、あの手この手で近付こうとしてみたり、進展があったと勝手に思い込んだり。
それなのに、なぜか共感してしまう。
たぶんそれは、自分の中にも「心当たり」があるからだ。
誰しもが、多かれ少なかれ似たようなことをしているのではないだろうか、という気がする。
そして、主人公の脳内妄想での奔放さと、現実での及び腰。
この落差にもまた「心当たり」があり、どうにも共感せずにはいられない。
物語の構成として、個人的には居酒屋のシーンが興味深い。
主人公が友人に、メンヘラについての意見を求めるシーン。
読者からすると「やっぱりメンヘラって一般的にはそう見えるよね」という確認の意味を含んでいるようにも思える。
しかし、なぜか逆方向にスイッチの入る主人公。
ヒートアップする展開に、ますます目が離せなくなる。
そしてタイトルの意味を知ったとき、今まで自分が読んできたものは「まさにタイトル通りの景色に過ぎなかった」ということを実感させられる。
まさに物語が「作品」として完成したことを感じる瞬間だ。
「小説」や「表現」といったものに正面から向き合っている人にしか書けない作品だと思う。
表現することへの大いなる挑戦に、惜しみない称賛を送りたい。
思いの字から心を取って、力を付けると男になるんですね。
一言紹介に文字を書いてたら気が付きました。
男にだって心はあるんです、力だけじゃない。
男性なんて、、、歩く妄想や、さまよえる欲望、でしょう? と一部の女子からは思われているのでしょうが、本当は自分でもよく分からない生き物なんですよ。
最初はちょっとした好奇心? それがやがて興味深い人になり、 最後は思いの人になる。そして、それと並行して、男性自身にも力がそそがれていく。
いやだ、エッチ―! と言われるのを覚悟で、作者はすなおに男性の性質を書き出していく。
そして、最後にやってくる、悲劇までもすなおに書き出していく。鼻の奥のツンとした思い、街中に座り込んでしまうほどの絶望感。
それらが全て、たった一人で乗った観覧車の中の自分なんだ。自分で上がって、知らない間に落ちていく。その思いと観覧車のマッチングが最高です。
私は女性です!と思うかたは、ぜひ、この観覧車を二回りしてみませんか? 男性陣は観覧車を三回りしましょう!