人間臭さの描写が巧み。かつ素直な文脈の中の多彩な表現。まさしく文学。

 非常に面白かったです。という感想がまず練り出されます。単純な恋愛小説ではないのだろうな、と作者様の別の作品を呼んだ経験上、思ってしまいました。

 物語の視点は、主人公の恋をする視点——これが巧みです。なぜ好きになったのか、なぜ心を彼女が独占してしまうのか。誰でも理解できる文脈にも関わらず、とことん追求しています。非常に人間臭い思考の中で生み出された恋心が、どうなっていくのかを丁寧に描写していく様は圧巻です。

 思考にベースラインを置いた物語で、彼の考えは愚直でかつ誰しも青春時代には頭をよぎることなのではないでしょうか。思考の先にある想いに至るまで時間は掛からなかったようです。

 最後のシーンはなかなか刺さりますよね。このシーンがあってこそ、生きる物語であり、とても好感が持てます。このシーンに至る前の彼と彼女の心情が混ざるアルフォートのシーンもとても素敵でした。

 最後になりますが、全体を通して彼女の魅力が隅々まで行き渡るのです。主人公の思考を通して伝わってくる、その様相に、ラストのシーンで切ない気持ちになりました。

 恋をするって良いですね。

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