第19話 恋の予感

 結局、ホワイトボードはシイナちゃんの暇つぶしの道具になってしまった。まあ、ほこりを被っているよりかはましではあるが。


 俺は落書きだらけのホワイトボードをアップにしてスクショをした後、アプリを一旦閉じて大地にメッセージ送る。


『このどすけべ!! 』

『いや、いきなりなんだよ』

『いやあ、まさか大地があんなアブノーマルな趣味の持ち主とは……これは山中に報告しなくてはなりませんなぁ! 』

『待て、ほんと待て。とりあえず話をしようじゃないか』


 俺はダイエットアプリがまさかの美少女監禁のぞき見ゲームだった事を大地に避難しながらホワイトボードの使い方を確認する。


『いまさらかよ。最初始めた時になんか違和感感じなかったのか? 』

『そんなもんかと思ってた』

『ねーよ。まあ改めて説明すると、このアプリは閉じ込められた女の子のお世話をするゲームだ。最終目的とかはない系の』


 おおう、なんとニッチでアブノーマルなゲーム……。まあ、嫌いじゃないけど!


『じゃあ、コミュニケーションはとれないん? 』

『まあ、基本的にはな。だけどキャラクター側からこちらに何か伝えてくる事はあるぞ』


 お、新事実。これはしっかりと情報収集しないとフラグを見落としそうだ。


『とりあえずしばらく様子を見てみな。キャラクターが行動を起こすから』

『そうなん? 了解』

『あと絶対瑞希には言うなよ? 絶対だぞ? 』


 俺はメッセージを無視してアプリを起動する。すると、シイナちゃんがおかしな事をしていた。


 パタパタと自分に向かって手で風を送っている。頬もちょっと上気してるし湯上がりだから暑いのかな? 


 そんな事を考えて様子を見ていると、シイナちゃんはホワイトボードに何かを書き始めた。


『水』


でかでかと書かれたそれはズームしなくてもしっかりと読めた。


「これは……水がほしいって事か? うーん、いつもこの時間にあげたりしないからあげたら怪しまれないか……? 」


 水をあげるのは簡単だ、だけど今与えてのぞき見してるのがばれたら……。


 シイナちゃんは期待していないようで、ホワイトボードをテーブルに適当に置くとソファーに横になってぐったりしている。あまり体調は良くないようだ。


「ま、いいか」


 ……なんだか難しく考えるのが面倒になった。シイナちゃんの要求を無視して今まで通りがもしかしたら一番かもしれないけど、苦しむシイナちゃんを無視してまで今まで通りでいたいわけじゃない。


「むしろ、今までこちらの都合でしか水と食事をあげられなかったから、シイナちゃんが望むタイミングであげられるのは純粋にプラス! 」


 ばれたらばれただ! と開き直った俺は、いつも通り筋トレをこなして水をシイナちゃんにあげた。


「さて、どんな反応がくるか……」


 ゴクリと生唾を飲み込んでシイナちゃんの反応を伺う。


 ソファーで横になっていたシイナちゃんは水に気付くと、慌てて立ち上がって水を取りに行った。音が聞こえてきそうなくらい勢いよく水を飲む。一息で飲み終えたシイナちゃんは、ほっと一息を付いて勢いよくソファーに座り込んだ。


「よっぽど喉が乾いていたんだなぁ……ん? 」


 俺は水をあげて良かった、と思っているとシイナちゃんはホワイトボードを手に取り、また何かを書き始めていた。


 これは覗いてるのがばれちゃったかなぁ、なんて思っているとシイナちゃんはホワイトボードを良く見えるように立ち上がって掲げた。


 覗くな変態! とか書かれてるかなぁ? とか思いながらホワイトボードに書かれている文字を読むと、予想外な事に俺は面食らってしまった。





『お水ありがとうございます』





「なんて良い子なのシイナちゃん!?」


 罵倒される覚悟をしていたら、まさかのお礼に俺は心がドキドキしてしまう。


 笑顔でホワイトボードを軽く振ったあと、頭を下げてホワイトボードの文字を消すとシイナちゃんはベッドに潜り込んでしまった。


 俺は未だドキドキする胸の高鳴りに動揺しながら、シイナちゃんが潜り込んでいるベットをしばらくぼーっと眺めることしか出来なかった。

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