第6話 ご褒美をプレゼント
「さてと、アプリ始めた時よりどのくらい痩せてるかなぁ! 」
あれから適当に授業をこなしてコンビニにも寄らずに家に帰ってきた俺は、夕飯を食べる前に全裸になって体重計に乗っている。
食生活をあまり改めたりしなかったけど、その代わりしっかりと筋トレとウォーキングはこなしてきた。多少は体重減っているはずと期待を込めてメーターを覗き込んだ。
「えーと……84……キロかぁ。3キロくらい減っててほしかったけど1キロかぁ」
痩せてはいるものの、なんだか微妙な気分になる。1キロとか、誤差の範囲じゃね?
軽くため息を付きつつ、パンツとTシャツを着てスマホを操作してロックされている選択肢を確認していく。
「……お? 一つ達成してるじゃん! 」
《体重-1Kg達成でアンロック》か、1キロ痩せただけでご褒美くれるなんてなかなか気前のいいアプリだな。ま、そんなことよりご褒美はなにかな?
「なになに……【視点の倍率UP】に【パジャマと下着】を手に入れました!? 初めての筋トレとかと比べると豪華過ぎんだろ!」
俺はうひょー! と叫びながらリビングの床をゴロゴロする。母親が気持ち悪そうな目で見てくるが気にしなーい。
「そういえばまだご褒美をあげてなかったんだよな……これはシイナちゃんの反応が楽しみすぎる!」
さすがに親の前でこれ以上変な言動は出来ないと判断してそそくさと部屋に戻って床に座る。
とりあえずシイナちゃんの様子を確認すると、相変わらず扉の前で毛布をすっぽり被って膝を抱えていた。
「よしよし、相変わらずだなシイナちゃんは……よし、じゃあまずはこれだろ!」
俺は左下にいつのまにか追加されていたプレゼントボックスをタップする。すると今までに貰えていたご褒美が選択できるようになっていた。その中で真っ先に選んだのは【ベッド】だ!
《使用しますか?》という問いに《はい》を連打して答える。その瞬間、部屋の床に切れ込みが入って穴が開いた。そして下から白を基調としたまるで病院のようなベッドがせり上がってきた。
「おお、そうやって設置すんのか。さてさて、シイナちゃんはどんな反応してるかなぁ? 」
俺はわくわくしながら視点をいつもシイナちゃんがいる扉の前に向けると、シイナちゃんがいなかった。
「あれ、さっきまで居たんだけどな……どこに移動した? 」
キョロキョロと視点を動かしたり視点を変更すると、部屋の隅で先ほどよりも毛布を身体に巻き付けてガタガタと震えていた。
「……まあ、いきなりあんな風にベッドが現れたらびびるよな」
うんうんと頷きながら俺は手早く【視点の倍率UP】を使って怯えてるシイナちゃんの顔をアップにする。おお、顔だけで画面が埋まるくらいズーム出来た!
すぐ反応できるようにするためか、顔を完全に毛布で隠さず口元をわずかに隠す程度にしている。
おかげで恐怖に引きつった表情や若干涙目になっているお目々がばっちり見えていた。……なんだか泣きそうな顔を見ていると、背筋がゾクゾクッてするな。癖になりそうだ。
「ふふ、大丈夫だよシイナちゃん。ただのベッドですよー」
なんて声をかけても相手に通じてないのは分かってはいる。だけどどうしても応援したくなってしまうこの気持ちはなんだろう。
俺が自分の胸の中で芽生え始めている感情に戸惑っているうちにシイナちゃんは立ち上がって行動を開始していた。
まずは毛布を被ったまま、ベッドの周りを確認している。ちゃちなお化けみたいで可愛い。
その後、少しだけ近づいてベッドの下を何度も確認した後、恐る恐る掛け布団をめくって中に何もないことを確認するとへなへなとまるで腰が砕けたみたいに座り込んでしまった。
「だ、大丈夫か? 警戒しすぎ……でもないか」
あの無理矢理食事や水分を摂らせようとするチューブが飛び出てきたら、俺でもちびる自信がある。
しかしそこからの行動は早かった。身体に巻いていた毛布を素早く解いて、手際よくベットメイキングを済ませるとすぐさまベッドに潜り込んでしまった。
「床に寝るより遙かにましだもんな……」
毛布があると言っても床は堅そうなフローリングだ。ろくに寝れなかったんだろう。
しみじみとそんな事を思っていると、もぞもぞと動いていた掛け布団がピタリと止まった。
お、どうした? と画面を見ていると、布団からシイナちゃんが勢いよく顔をだした。ああ、息が苦しくなったのかなと思ったがそうではないらしい。
──シイナちゃんがむふーと鼻息荒くして満面な笑みを浮かべたあと、枕に自分の匂いを移そうとしているのか、顔をこすりつけているではないか!!
あまりのかわいさに俺はんほぉぉぉぉぉぉぉっ!! と気持ち悪い叫び声を上げながら床を転げ回ってしまった。
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