第2章 デブとダイエット

第11話 ダイエットをさらに頑張る

 あれからダイエットを本格的に始めて一ヶ月。効果は劇的に現れていた。


「結構筋肉質だったんだなお前」

「おう、中学の時は運動部だったしな」

「結構……良い身体してんじゃねぇか……」

「ちょ、おま……やめろよ、照れるだろ……」


 なんて気持ち悪いやりとりをしているが、大地の言う通り俺の見た目も多少は変わった、顔は変わらず二重顎だが腹回りはスッキリしている。さすがに腹筋が割れる、なんてことはなかったが。


「で、体重はどうよ?」

「おう、それがあっという間に-5キロでさ。体重計乗るのが楽しみになっちまったよ」

「まじかよ……」


 まじである。食生活をかなり変えたせいか便通がかなり良くなったし、そんなに一杯食べなくても腹が膨れるようにもなった。

 こうなってくると前まで億劫だった体重計を乗るのも楽しくなってくるというもの。


「それにガンガン選択肢がアンロックされるからアプリの方もくっそ楽しいしな! 」


 そういってスマホを取り出してアプリを開く。そこは以前までベッドしかない殺風景な白い部屋だったが、今は衣装棚に大きな姿見、テーブルと本棚が追加されていてだいぶ様変わりしていた。

 特に姿見は最高で、ご褒美でもらったリボンや髪留めを口に咥えながら髪を結っている姿を見たときは本気で死ぬかと思った。


「そりゃ何よりだ。まさかお前からジムの誘いがあるとは思わなかったわ」

「いやぁ、自重トレーニングだけだとなんか飽きてきてさ」


 そう、部屋で筋トレするのもなんか飽きてきてしまったのだ。気晴らしで公園に行ってやってみたけどなんだか人目が気になって集中出来なかったし。


「まあ、マシンを使うのも楽しいからな。なら市営のジムでいいか? 」

「市営のジム? 」

「おう、面倒な会員登録がなくて一回200円とかで利用できるジムだな。ま、その分マシンが少ないけど……ま、そんなマシン多くても初心者のうちは意味ないしな」


 それはかなり魅力的だ。正直、月2000円とか取られるのは厳しい。


「おー、じゃあ大地に任せるわ」

「おう、なら明日の午前中で良いか? ちょうど部活休みだし」

「ん、了解」

「じゃあ、またあとで必要な物をメッセージ送るから」

「あいあいー」

「じゃあ俺部活だからまた明日なー」


 そういって体育館に向かって行く大地の背中を見送って、俺はバス停に向かって歩き出していく。今まで少しきつかった校門の下り坂がちょっと楽になって自然と鼻歌が出てしまった。


 ダイエットって結構簡単だなぁ!



───────────────────




「……」

「おはよう井上」

「おう、おはよう優斗」

「おはよう二人とも。……大地、ちょっと耳貸せ」


 朝、大地の家の前に待ち合わせをしたらなぜかそこには大地の彼女である山中の姿があるではないか!!


 山中に聞こえないよう少し距離をとったあと、大地の耳元で小声で抗議をする。


(なんで山中がいんの!? )

(たまたま瑞希の部活も休みでさ。今日の事話したら来たいって言われたんだよ)

(だからって俺になんも言わずに!! )

(……ごめ)

「ぶっ殺すぞてめぇ!! 」


 つい大声を出してしまったせいで山中が不思議そうな顔をしているが、愛想笑いでごまかしておく。


(耳いってぇ!! )

(来ちゃったもんは仕方ないからもういいけど、俺は相手しないからね!? )

(……優斗。これを機に女に馴れとけよ。いつまでも苦手なままじゃ痩せてもいい青春送れないぞ? )

 先ほどのおちゃらけた表情ではなく、真剣な顔で俺を見つめる大地。……そうか、お前、俺の事を心配してわざと……。


 ──ならば俺が言うべきことは一つだけだろう、こちらも真剣な表情で大地を見つけると口を開いた。









「ふっざけんなお前!! 俺がいつリアルの女の子が苦手って言ったよ!? 」

「はぁ!? おま、苦手じゃねぇの!? じゃあなんで瑞希避けるんだよ! 」

「人見知りするんだよ!! 小中高と一緒だけどぶっちゃけそんな絡んでないし!! 友達の友達みたいで気まずいだけだわ!!」

「はあぁぁぁぁ!? なんっだそれ!! 」

「うっせばーかばーか! 余計な気を回しやがって!! 」


 二人の馬鹿の言い合いを、山中は微笑みながら眺めていた。

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