第1章 デブとシイナちゃん
第3話 俺とシイナちゃん
俺が親友の大地に勧められたダイエットアプリをインストールしてから一週間がたった。体重は変わってないが、以前よりも体育の授業がつらいと感じなくなったのでそれなりに筋トレの効果は出ているように思う。
それよりも、今一番気になっていることがある。そう、俺の持ちキャラとでも言うべき女の子、シイナちゃんの事だ。
このシイナちゃん、実は正式な名前がわからない。名前表記がないのだ。まあそれは良い、自分で名前を決めた方が愛着が沸くからね。それよりも問題なのが、シイナちゃんに関する一切の情報がアプリ内で見れないのだ。
どういう事かと言うと、画面内に表示されるのは真っ白で無機質な部屋とシイナちゃん、あとはメニューだけ。いわゆる体力ゲージや空腹ゲージなどは全く無い。
じゃあどうやってEmergencycallされる前に食事や水分を与えるのか、これが難しい。多めに与えようとした場合、強制的に摂らされるのだ。
……正直、四肢を機械的なチューブが拘束して無理矢理飲まさせられたり、食べさせられたりする場面はかなり悲惨だった。
無理矢理食事させられた後、シイナちゃんはひどく怯えて部屋の隅で以前緊急治療で入手した毛布を頭から被ってしまう。
好感度があるかどうかわからないが、これは何度もしない方がいいなと判断して食事は一日三回、水分補給は食事に合わせて三回と二時間おきくらいに与えている。
今のところこれで強制摂取が発動してないからいいとは思う。
正直、アバウト過ぎるしなんとかしたいとは思っているんだけど、相変わらずこちらからシイナちゃんに対して何か接触をすることが出来ないでいる。
連続でタップしたり長押しをしても全く反応しない。大地にそのあたりの事を聞いたけど、「そんなもんだ」で済まされてしまった。
……正直、ゲームとしてどうなんだと思う。キャラクターとコンタクトをとって親密度やらあげたりして仲良くなってイベントが発生するわけでもなければ、疑似子育てを味わえるわけでもない。いや、ダイエットアプリだからゲーム性を無視してるのかもしれない。いや、それにしたって今の体重を記入する欄とか、今日は何歩歩きましたとか何回筋トレしましたとかそういうデータが見れる訳でもない。
──はっきり言おう。このアプリはゲームとしてもダイエットアプリとしても失敗作であると。……だけど、俺は一週間アプリをアンインストールしてない。それどころがこれからも続けているつもりである。なぜかって? 勘が良い人はすでにおわかりだろう。そう、シイナちゃんが可愛すぎるのだ!!
俺は胸ポケットにしまったスマホを取り出し、手早くダイエットアプリを起動する。そうして手慣れた様子で部屋を見渡し、素早く標的シイナちゃんを発見してズームする。
どうやら今日は少しだけ警戒心が薄いらしい。毛布を身体に纏ってはいるものの、顔を出してお昼寝をしているらしい。未だ身体をじっくり見れるほど無防備な姿になったことはないが、最近はよく顔を出して眠っていたり部屋をうろうろしている姿を見かける。
俺はばれる心配がないとはわかっていても、慎重にゆっくりと息を殺して寝顔をズームする。……まるで金糸のような細く、天井からの明かりをきらきらと跳ね返している髪が頬に垂れている。それを寝息で揺らしている姿は実にかわいらしく微笑ましい。今は眠っているので幼い印象を受けるが、起きているとそれとは逆に強い意志を感じるアーモンドのような深い青色の瞳とスッキリした鼻筋、小さいが見ただけで柔らかいと分かる唇にぷっくりほっぺ。
それらをじっくりと眺めた俺は頬を少しだけ緩ませながらスクショして9枚目になる寝顔の写真を保存した。
──正直に言おう。俺はシイナちゃんに一目惚れしてしまった。いや、嫁認定した。
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