第2話 デブだけど舐めるなよ
『という訳でどうしたらいいのか聞きに来ました』
『なにが知りたいん?』
『とりあえずキャラクターの顔を見たい訳よ。女の子っぽいけどタイプじゃなかったらリセマラしたいし』
『あー、なるほどな。じゃあとりあえず右上あたりに三←こんな形のマークあるからタップしてみ。そこ開けば大体わかるから』
『あいー』
「あー……そういうこと?」
言われた通り、アプリの右上にあるマークをタップすると、画面にいくつもの選択肢が現れた。
「『ノーマルスクワット10回×3セット 水』? 結構厳しいなおい」
他には、『ツイストクランチ10回×3セット 白米と塩』とか『ウォーキング15分 主菜』などがある。
つまり、これは指定されたスクワットなりウォーキングなりをしたらご褒美として水やら食料やらをこの女の子にあげられるシステムってわけか。で、あげればこの子が反応しrて顔も見れると……めんどくさっ。
「一回こなしただけで一ヶ月間の水とかもらえるわけないよなぁ……それだとダイエットにならないし。そう考えると、毎食分……一日スクワット90回とかやらないといけないのか!? 」
無理無理。そんなにやったら膝ぶっ壊れるわ。それに今日は学校で疲れてるし、こんな時間だから明日からやろうっと。
俺は一人頷いてアプリを閉じ、ベットに横になりながら録画していた深夜アニメを見始めた。
────────────
ヴー!! ヴー!! ヴー!!
「……っん? 電話か……? こんな時間に誰だよ……」
どうやらアニメを見ながら寝てしまっていたらしい。枕の横に放り投げていたスマホを手探りで探して画面を確認する。
「…ん? 『Emergency!! 』? 地震でもあったのか……?」
未だ手の中でヴァイブレーションし続けるスマホを止める為、とりあえず画面に表示されているEmergencyをタップする。
画面が暗転して表示されたのはニュースサイトではなく、あのダイエットアプリの部屋だった。
「なんだ、なんかのイベントか? 寝てた……の……!?」
ビビらせるなよー。なんて思いながらまたスワイプをして部屋を見渡すと、先ほどまでうずくまっていた女の子が扉を背にして倒れていた。しかも、口を半開きにして虚ろな目をしており、顔から生気が感じられない。
「な、なんだこれ……これやばいんじゃ……と、とりあえず大地!!」
そのあまりにリアルな映像に俺は慌てて大地に電話をかけた。おそらく寝ているだろうがそんなこと気にしている余裕はなかった。
幸いにも大地はまだ起きていたようですぐに電話に出てくれた。
「もしもし!?」
「もしもし? なんだよ、こんな時間に」
「なんかダイエットアプリからEmergencyって出て見てみたら俺のキャラが倒れててやばそうなんだけど!? どうしたいいんだ!?」
「ちょ、落ち着け。ええと、キャラが倒れて……? あー……お前、アプリ開いてから一回でも水あげたか?」
「え、水? スクワットがめんどくさいからやってないけど」
「じゃあそれだ。いわゆる脱水症になってんだよお前のキャラ。リアルタイムと連動してるからちゃんと水と食料あげないとすぐ体力落ちて病気になるからな」
「まじで!?」
「おう、Emergencyが表示されたらメニューに死ぬまでの時間が表示されるから早めに手を打っとけよ」
「死ぬのかよ!? 早めにって、今すぐスクワットすればいいのか!?」
「いやいや、とりあえずアプリのメニュー開け」
「わかった!!」
俺は慌てて通話した状態でアプリを開く。先ほどよりも苦しそうな表情を浮かべてるような気がして胸が苦しくなる。
素早くメニューを開くと、大地の言う通りメニューの背景が半透明になって赤い数字がキャラの死ぬまでの時間をカウントしていた。
「メニュー開いた! 次はどうしたらいいんだ!?」
「そんな大声出すなってうるせぇよ。緊急治療って項目があるだろ? それをこなせば治療が始まって危険な状態から脱するからとりあえずそれやっとけ」
「わかった、ありがとな!」
赤と黄色の線で囲われていた緊急治療を急いでタップする。すると画面に多数の文字と数字が現れた!
『腹筋10回×3セット スクワット10回×3セット 腕立て10回×3セット 背筋10回×3セット プランク30秒×30秒×1分』
「は……?」
なんだこれ、これ全部一気にやれってか? 寝起きで?
焦って頭に上っていた血が一気に引いていく。──カウントダウンは残り30分を切っていた。
「む、無理だ……運動なんて体育の授業以外してないのにいきなりこんなきっつい筋トレ……」
……そうだ、何も無理してやる必要なんてない。キャラが消えたらアプリを消してもう一度やり直せばいい。そして今度はしっかりと水と食事をあげよう。
俺は自分にそう言い聞かせ
言い訳し
、電源ボタンに指を滑らせた。
「ん?」
今まさにスマホの電源を落とそうとした瞬間、横たわっているキャラの身体がピクリと動いた。
──なんで手を止めたのかわからない。初めてキャラが動いたところを見たせいなのか、俺は電源ボタンから指を離し、メニューを消してキャラにズームした。
相変わらず生気のない顔が映し出されて胸を締め付けられる。が、よく見ると身体だけではなく口もわずかに動いていた。
このアプリにBGMはないらしく、何を言っているのか聞こえはしなかった。──だけど、何を言いたいのかはわかった!
『死にたくない』
「──ッ!!」
ゾクッと背筋が震えた。それと同時に俺は何で胸が締め付けられるのかがわかった。
痛々しい映像が苦手だから? 違う。俺のせいでゲームのキャラクターが苦しんでいるのが心苦しいからだ!!
……たかがゲームに、たかがプログラムのキャラクターに罪悪感を持つのはおかしい?
──ああ、そうだろうな。俺もそう思う。……だけど俺は罪悪感をもう持っちまった。ならやることは一つだろうが!!
俺はもう一度メニューを開いて時間を確認する。
「25分か……間に合うか?」
あれから5分も無駄にしてしまった。だけどやらないわけにはいかない。俺がサボってしまったが故に苦しんでるあの子を救わないと今夜ぐっすり寝られる気がしない。
俺はスウェットのポケットにスマホを突っ込んで床に寝転がる。さあ、贖罪の筋トレの開始だ!!
「で、間に合ったのか?」
「おう、当たり前だろ」
「その代わり全身筋肉痛だって?」
「はっはっはっ、昨日初めてやったプランク? っていうのが思った以上にやべえのよ」
「あーあれな。部活の筋トレでもやるんだけどかなりきついよな」
翌日、俺は昨日の顛末を大地に報告した。なんとか女の子を殺さずに済んで全身筋肉痛だ、と。
そんな大地は無理すんなよと笑ったけど、俺は後悔はしていない。
「おっと悪い、ちょっと行くわ」
「行くってどこにだ? この時間だと購買には飲み物くらいしか残ってないぞ?」
「決まってんだろ? 校庭でウォーキングだよ」
後ろ手を振りながら俺はスマホの画面を見る。そこには、毛布にくるまって朝食の残りであるパンを女の子……『シイナ』がいた
「待ってろよシイナちゃん。ちゃんとした昼飯食わせてやっからな!!」
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