デブな俺は、痩せるために美少女を飼う

夢見る社畜

序章 デブとダイエットアプリ

第1話 痩せたらイケメンな俺(願望)

 「……ようやく、ここまでこれた」


 俺は大きく深呼吸して体重計からゆっくり降りてスマホの画面を確認する。


 先ほどの筋トレの成果であるプリンを、満面の笑みで頬張っている女の子

天使

がいた。


 その様子に俺はつい微笑んでしまう。今でこそ笑顔を見せてくれるようになったが、初めて会った時はまるで野良犬のように一日中警戒して顔すらよく見せてくれなかったのに。


 ──ぽたりと、瞳から大粒の涙がこぼれる。


 慌てて手で涙を拭ってしっかりと女の子を見る。


 指を絡ませれば何の抵抗もなくするりと通り過ぎそうな金糸を思わせるような淡く輝いている金髪に、強い意志を感じる形の良いアーモンドに似た形の深い青色の瞳とスッキリした鼻筋、小さいが見ただけで柔らかいと分かる唇にぷっくりほっぺ。そして細くしなやかでいながらも肉付きの良い両手足と初めて会ったときよりも成長した胸。


 ──ぽたりぽたりと、大粒の涙が止めどなく溢れてスマホの画面を濡らしていく。


 俺は、服でスマホの画面を拭いて震える指先でメニューを操作する。数多の選択肢の中で一つだけ鍵マークの付いた選択肢をタップして必要な情報を記入する。

 解放条件をクリアしたため、鍵マークが外れて新しい選択肢が増えた。


 ──もう一度深呼吸して俺は震える指先で【はい】をタップした。






「さようなら、シイナ」






─────────────────


 痩せればイケメンだよね、なんて言葉を聞いたことはないだろうか?


 それはデブっている男子に対する一種の褒め言葉であると、世間一般では認知されているが俺はそうは思わない。


 目鼻顔立ちは良いのだからあとは痩せるだけ……そういえば簡単に聞こえる。が、実際はそうではない。


 そう、痩せられるものならばすでに痩せているのだから!!


「だからな? 俺は声を大にして言いたい。痩せられるなら痩せとるわい! と」

「言いたいことはそれだけか? 」

「うん」


 豚を見るような……いや、確実に豚を見る目で俺を横目で見ながら、俺の親友である大地はスマホをいじりつつ、紙パックに入っている100%系フルーツジュースを飲んでいる。


「で、BMI値が30超えの優斗君はそれを女子に言われたのか?」

「俺に女子の知り合いなんぞいない」

「じゃあさっきいきなり言い出したのはなんだったんだよ……」

「いやあ、昔そう言われたことあったからさぁ。実際はどう思う?」

「まずは痩せろ。話はそっからだ」

「むーりー」


 俺はゲームオーバーと表示されたスマホの画面をため息つきながら眺めたあと、胸ポケットに突っ込んで昼食であるおにぎりにかぶりつく。


「お前、それ何個目のおにぎりだよ。引くわぁ……」

「いやいや、まだ二個目だしおにぎりはこれで終わりだ」


 そう言いながら俺はハムカツサンドの封を切った。


「お前さ、ほんとに食い過ぎじゃないか? ……なあ、嫌なことでもあったか? 相談くらいなら乗るぞ?」

「やだ……イケメン……」

「シネボケカスゥ」


 なんだかんだ言いつつ、心配してくれる大地に俺はキュンときてしまった。

 でもごめんね、ストレスからくる過食とかではないんだ。ただおいしいもの食べるのが好きなだけで。


「……なあ、痩せたいのか?」


 ハムカツサンドをペロリと平らげたあと、大地は俺にそんなことを聞いてきた。


「当たり前だろ? ジュゴゴゴ……ゴクン。……俺だって痩せて彼女が出来て素晴らしい青春を送りたいんだよ」

「じゃあまずその1ℓパックジュースから手を離せ」


 俺は常温のパックジュースを一息で飲みきり、ゴミ袋に突っ込む。そんな目で見るなよ。喉渇いていたらこのくらい余裕だろうが。


「へいへい。で、なんか痩せる手伝いとかしてくれるん? 食事制限と部活動強制参加じゃなきゃ多分やれるぞ俺」

「いや、俺部活とか彼女の付き合いとかあるからお前に付きっきりとかは無理だわ」

「ちねリア充。言っとくけどトレーニングメニュー渡してあとは頑張れとかやめろよ? 絶対続かないから。俺はお前が思っている以上に自分に優しいからな?」

「見りゃわかるわボケカス。そうじゃなくてこれだ」


 そういって大地は机に置いていたスマホを手に取って何か操作をしている。

 何してるんだ? と思っていると俺の胸元からバイブが。


「ほれ、今メッセージでURL送っといたから」

「何のURLだよ。ブラクラとかやめろよ?」


 大地がそんなもん送ってくるわけないとは思いつつも一応確認の為、スマホを取り出してメッセージを確認する。


「ダイエットアプリ」

「は?」

「そこから飛べば直接ダウンロード出来るようになってから。それ使ってダイエットしてみろよ」

「え、ちょ、なんでアプリ!?」

「痩せたいんだろ? 良いからそれ使ってみろよ」


 大地はそう言って自分の席に戻ってしまう。アプリ教えて放置とかいくら何でもひどすぎない?


 慌てて追いかけようとしたが、タイミング良くチャイムが鳴って先生が来てしまった。


「……俺、なんか大地を怒らせたかなぁ?」


 そんなことを考えながら、机に乗っているデザートのシュークリームに気付いて急いで頬張った。








───────────────


『おーい』


 放課後、コンビニで立ち読みとおやつの補給をして帰宅する。


 すでに用意されていた夕食を腹一杯食べた後、汗ばんでしまった身体を風呂でスッキリさっぱりして買ってきたアイスクリームを食べていると、大地からメッセージが来た。


『どした?』

『いや、どした? じゃねえよ。アプリはどうだ?』

『ごっめ。まだダウンロードしてないわ。飯食ってた』

『おうデブ、今何時か見てみろ』


 俺はスマホの時計を見て時間を確認する。時刻は八時、まだまだ夜はこれからといったところ。


 ちなみに帰ってきたのは六時くらいだったりする。


『普通に忘れてた』

『お前……』

『いや、アプリの事聞こうとしたらさっさと部活行ったの大地じゃん! この浮気者!』


 あの後、手早く荷物を片付けて大地の席に行ったのだが、同じクラスの部活仲間とさっさと教室を出て行ってしまったのだ。というわけでダイエットアプリの事はいったん保留にして帰宅した俺は決して悪くないと思う。


『いいからさっさとダウンロードしろ』

『あい』


 やれやれ、相変わらず大地は強引なんだからとURLをタップするとすぐにダウンロードが開始された。

俺はそれを確認した後、アイスの空容器をゴミ箱に捨て、スプーンを台所の流しに置いていく。


 母がすれ違いざまにわざとらしくびっくりしたような顔をして俺の腹触ってくるが、無視して部屋に戻る。俺の腹より自分の腹周りを心配してほしい。


『今ダウンロードなう。ところで聞きそびれたんけど、なんなんこのアプリ? 』

『知らねえの? かおりんが開発した『皆で生活習慣病をやっつけよう☆ かおりんと一緒にダイエットだー☆ 』だよ』

『おおう……』

『何だよ、わりと好評なんだぞ』


 ──かおりんとは自称無敵系Vtuber(ドジっ子爆乳)の事である。中の人をモデニング してアクティブな遊びやら挑戦をしている至って普通のVtuberなのだが彼女を人気者にしているのは情けない悲鳴と揺れる爆乳である。

無敵を自称をしているのにホラーを見たりするとすぐ悲鳴を上げたり弱音を吐いたりする。あとよくすっころぶ。そしてそのたびに涙目になりつつ乳が揺れる様子を見せて、視聴者の性癖をがっしりと掴んだのだ。


 そうだった、たまたまかおりんの動画を見せたら大地がすぐ気に入ってVtuberにあっさりはまったんだった。


 ちなみに大地の小学校からの恋人は貧乳である、現実はいつでも非情だ。


『じゃあ大地もやってんの?』

『おう、一応な』

『ならわかんないことあったら聞くわ』

『おー』


 そんなやりとりをしていると、ダウンロード終了の通知がスマホの上部にぴょこっと現れた。

 あっと言う間にダウンロードが終わったなぁなんて思いながらバナーをタップすると画面が暗転してパーソナルデータの入力画面が現れた。


「おお、ダイエットアプリっぽい。えーと、身長は167で体重は85……と。うっわ、こうして現実を見せられるとやっべえな俺」


 そういえば最近バス停から校門までの坂道が地味につらいんだよな……一年の時はそうでもなかったんだけど。


 唐突に自覚させられた現実にちょっとだけがっかりしながら入力を続けていく。項目は好きな食べ物や日々の運動時間やその頻度といったところ。こういった情報を適当に記入すると、後悔するとゲームで経験済みなので真面目に答えていく。


「ま、三日坊主になるかもしれんけど。お、これで入力は終わりか」


 すべての項目を記入してOKをタップすると、記入画面が消えて真っ黒だった背景が徐々に画面が明るくなっていく。

 タイトルロゴなどは現れずに、家具などなにもない真っ白な部屋が映し出された。


「結構リアルだな、なんもないからよくわからないけど……おっ!?」


 防犯カメラのような視点をスワイプで動かして、部屋の中を確認する。結構広いようで12畳程度の洋室なようだ。

 あとかなりリアルである。まるで実際に

・・・

カメラを操作して現実の部屋を見ているような感覚になる。


 技術の進歩に軽い感動を覚えながら部屋の中を見ていく。このカメラで分かるのは三面の壁の真ん中にはドア一つずつあるというだけ。どうやらこの視点で見れるのはこれだけなようだ。


「何もねーなあ」


 他の視点とかないかなと思いながら画面を観察すれば真ん中上部に【A】【B】が表示されているのに気付いた。


 これかな? と【B】をタップするとぱっと視点が変わる。やったと思った瞬間、ドアの前でで両足を抱えてうずくまっている人の姿が現れた!!


「ぬおっ!? び、びっくりしたぁ……ホラーかよ」


 びっくりして手から落ちたスマホを拾い上げて俺はもう一度よく画面を見る。


 俯いていて顔は見えないが、肩まで伸びた綺麗な金髪と少し細すぎるくらい白く綺麗な二の腕やふくらはぎを見て女の子と判断。真っ白なワンピース着てるしな。


「……しかし、Vtuberみたいな感じかと思ったら三次元かぁ……これは好き嫌い分かれるぞぉ」


 まあ、俺はどっちもいけるけどね。なんてアホな事を考えながら俺は膝を抱えて俯いている人をタップする。


「お、ズームした…スワイプして視点移動、タップしてズームか……」


 とりあえず俺は、太ももあたりにカメラを固定して連続でタップする。


「くっそ、白だから透けてると思ったのに!! 」


 ワンピースの丈が長いため、パンチラには期待できないとすぐに悟った俺はすぐにパン透けの可能性に賭けてズームしたが結果は透けていなかった。


 無念だ……というか、全然ズームしない。何回タップしても3倍くらいにしかならないようだ。ズーム状態で女の子が立ち上げってもまだ画面に余裕がありそうである。これは制作陣のやる気が感じられませんわ!!


 とりあえず俺は手探りでいろいろ調べていく。……いや、チュートリアルとかねえの?

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