第4話 新しいメニュー 

「よう、体重の方は少しでも減ったのか?」


 にやにやしながら寝顔を眺めている俺に、片手に弁当を持ってきた大地が寄ってきた。そういえば、今は昼時間だったか。いかんいかん、食いっぱぐれるところだった。


 筆箱にスマホを立てかけた後、鞄から弁当を取り出して広げていく。


「んー、測ってないからわかんねー」

「いや測れよ。ダイエットしてんだろうが」

「いやさぁ、体重測るタイミングがいまいちわかんなくてさぁ。風呂前に測ろうかなぁって思ったりするんだけど夜飯食べちゃってるじゃん? 夜飯分増えるわけだからなんか微妙じゃね?」


 なんて言いながら目線はしっかりとシイナちゃんとおかずをロックオンする。やっべ、めっちゃ唐揚げがうまく感じるよ母ちゃん!


「いやいや、決まった時間に測れば良いだろ。ていうか体重測らないとロック解除できないだろ」

「え、ロック解除?なんそれ」

「いや、メニュー画面にあんだろ? 薄い灰色の選択肢」

「ねーよ」


 俺は確認の為にメニューをタップする。


【スクワット10回×3セット 水(500ml)】

【腹筋10回×3セット 主食と塩】

【腕立て伏せ10回×3セット 副菜】

【ウォーキング15分 主菜】

【背筋10回×3セット 乳製品】

【プランク30秒×30秒×1分 果物】

【懸垂1回×3セット 菓子などの嗜好品】


 やはりインストールした当時のままである、どこにも薄い灰色の選択肢などない。


「やっぱねーよ? 」

「いやいや、ポーズとれよ」

「は、ポーズ? 」

「おう、最強無敵ポーズだよ」

「はあぁぁぁぁあ!? 」


 ──説明しよう、最強無敵ポーズとは、かおりんというVtuberが運良く連続でチャレンジを成功したり、テンション上がりまくった時にかおりんがやるポーズである。ポーズと言っても胸の前で腕を伸ばしながら交差させるだけなのだが、かおりんの爆乳が両側から圧迫されて絵面が大変エロい事になるので視聴者達には大人気なのだ。かおりん自身もやってて気持ちいいのかお気に入りのポーズと言ってはいたが……。


「忘れてた……これかおりんが作ったんだ……」

「メニュー開いた状態でこうやるんだぞ? 勢いが大事だからな? 」

 そういって大地がわざわざ「最強無敵!」と言いながら実演してくれる。やんなきゃだめぇ……?


「さ、最強無敵! 」


 周りにいるクラスの目線を若干気にしながらポーズをとる。あれ、やってみると結構気持ちいいぞ?


「うんうん。上出来だ。んで、メニューをスワイプしてみろ」

「お、おう」


 俺は慌ててメニューをスワイプすると、たくさんの選択肢が出てきた!


「え、ちょ、なにこれ!?」

「とりあえず適当な奴を適当にタップしてみな」


 俺は大地の指示に従って薄い灰色の選択肢をタップする。すると、《体重-10Kg達成でアンロック》《入力してください》と表示された。


「なんこれぇ!?」

「ま、いわゆるご褒美って奴だな。ちゃんと達成したらアンロックされて『何かが』が選べるようになるわけだ」

「まじで!?」


俺はかぶりつくようにメニュー画面を見る。全部で5ページ、かなりの数がある!! しかも入力してくださいって事は……自己申告制だこれ!


「あー、一応言っとくけど自己申告制だからって嘘は入力すんなよ、ペナルティーが発生するからな」

「はぁ!? おま、そういうことは早く言えよ!! 」

「分かった瞬間にやるとかお前ほんとそういうとこ最低だよな」

「うるせえよ! 楽できるところは楽する主義なだけだ!! それでペナルティーってどんなんがあるんだ!?」


 もしやシイナちゃんがひどい目に遭ってるんじゃないかと思って慌ててメニューを消して確認する。何事もないようにすやすやと眠っている。やっぱ可愛い……。


「まあ一回目でだからそんな重くないはずだ、たぶん……筋トレメニューの回数が増える位だと思うぜ」

「え」


 慌てて確認したところ、まじで筋トレの1セットあたりの回数が増えていた。


「……死にたぁい」

「楽しようとするからだな。ま、自動でアンロックする項目とかあるからちょくちょく確認しとけよ」

「へーい……」


 俺はがっくりと肩を落としながら、現状でどれかアンロックされているものはないか確認していく。


「なんかソシャゲみたいだなぁ……お、【初めての筋トレ】に【1週間連続ログイン】、【緊急救命】がアンロックされてるわ」


俺は薄い灰色から白い文字になっている選択肢をタップしていく。


「えーと、【タオル】と【石けん】、【ベット】を手に入れました? ベットはいいな、シイナちゃんいつも床で寝ててかわいそうだし。ただ、タオルと石けんって何だよ、粗品かよ」


 俺はあまりに貧相なプレゼントの内容につい笑ってしまう。せめてゲームらしいプレゼントのがよかった。筋トレ回数が減るとかセット回数が減るとかとか。

 しかし次の瞬間、凄まじい衝撃と共に俺はそんなものじゃなくてよかったと心底喜ぶのだった。






「ああ、タオルと石けんはキャラクターが風呂に入る時に使うんだよ。結構喜んでくれるぞ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る