第16話 ジムが終わり、暗雲が立ちこめる?

「やめるんなら一言いってくれよ……」

「いや、あんまりにも夢中でやってたからさぁ」


 結局、俺は大地に声をかけられるまでずっとトイレを覗いていた。まあ、シイナちゃんもトイレを出るタイミングだったらしく丁度良いといえば丁度良かったけど。


「水分補給はちゃんとしとけよ? 室内でエアコン効いてるけど脱水症になったりするからな」

「おー、さっきのサイクリングマシーンで結構汗かいたわ」


 スマホの画面しか見ていなかったから気付かなかったが、床にまで汗が垂れているにびっくりした。もちろん、マナーとしてマシーンと床は備え付けのぞうきんで拭いておいた。


「で、山中は? 」


 俺は持ってきたお茶を飲みながら、いつの間にか居なくなっている山中をキョロキョロ探す。


「おう、今から俺が筋トレマシーンに付き合うからな。自由にしてもらってる」

「あー、なるほど。確かに二人はいらんな」

「……俺じゃなくて瑞希の方が良かったのか? 」

「ばっか、俺はお前のがいいんだッ! 」

「きめぇ」

「ちねぇ」


 なんてやりとりをしながら空いてるマシーンに向かった。


「じゃあ、最初はこれな」


 そう言って大地はマシーンを叩く。……なんだこれ、椅子が斜めになっててその前には板があるけど……。


「なにこれ? 」

「これは太ももの筋肉をマシーンだな。ダイエットするならまずは太ももを鍛えろ。めっちゃ効果でるから」

「おお、じゃあこれからやるわ」


 ダイエットに効果があるならばやるしかない! ―5キロのご褒美がトイレでー10キロがお風呂……扉はあと2つあるし……これは楽しみ過ぎる!!


「よし、じゃあこれ動かせるかやってみてくれ」

「おう。……ッ!! お……おもっ!! 」


 なんだこれ!? 想像の倍は重い!! 板と重りを繋いでるワイヤーがギリギリ音立ててるし!


「だけど負けるかぁ……ッ! 」

「お、130キロ動かせたか。やるなぁ」

「130キロ!? 」


 これ膝大丈夫? 壊れない? などとわめきながらゆっくりと板を元の位置に戻す。


「ふー……どうだ? 初めてで130キロって結構すごいんじゃないか?


 俺は額に浮かんだ汗をタオルで拭きながら、どや顔気味で大地に聞いてみる。中学校の時に運動部じゃなかったら動かせなかっただろうなぁ!

 しかし俺の期待した答えを大地は返してくれない。というか俺を無視して重りをカチャカチャ弄ってる。


「……何してるん? 」

「ん? 今のが限界っぽいから120キロに調整した。さ、これで10回1セットを3セットな。あ、あと板を持ち上げる時は足を伸ばしきらないこと、反動使って持ち上げないこと。わかったか? 」

「え、え? 」

「一回で終わるわけ無いだろ? ほら準備しろ数えてやるから」

「えー……」


 その後、全ての筋トレマシーンで動かせる限界ギリギリの所を見極められ、全身の筋肉を痛めつけられた。だけど何だろう、苦しいのにちょっと気持ちよくてスッキリした。




──────────




「おおう、まだ二の腕とかプルプルしてる……」

「まあ、最初はそんなもんだ」


 全ての筋トレを終え、最後にサイクリングマシーンを使って有酸素運動をしたあと山中に声をかけて切り上げた。

山中はクールダウンの最中だったため先に俺と大地は脱衣所に戻り、汗でぐっしょりと濡れた服とパンツを素早く脱いでシャワー室で汗を流していた。


「で、どうよ初めてのジムは? 」

「おう、思ったよりも楽しいな。しかも筋肉がかなり固くなったしな! 」


 ふっ!! と息を吐きながら二の腕に力を入れると筋肉が固く盛り上げる。堅さも筋トレ始める前よりかなり堅くなっていると感じる。


「いや、それただのバンプアップだから」

「バンプアップ? なにそれ」

「筋トレした後は一時的に筋肉が膨らむんだよ。しばらくしたら元に戻る」

「ええ……なんだそれ」

「お前はすぐ結果を求めすぎなんだよ。ダイエットと筋トレはゆっくり時間をかけてが基本だ」


 まあ、いきなり10キロも20キロも痩せないだろう。だけど、この調子で行けばー10キロもそう難しくないんじゃないか? 実際、あっという間にー5キロを達成した訳だし。


「わかってないって顔だな。ま、そのうち嫌でも解る」


 そういって大地はシャワーを止めて脱衣所に戻っていった。その意味深な物言いに、俺は少しだけ順調なダイエットに不安を覚えるのだった。

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