第18話 最高のイベント?

「え、なにどゆこと?」


 初めてのシイナちゃんから俺へのメッセージが『私を見ていますか? 』である。意味が分からない。シイナちゃんは毛布を被ったまま動かないしこれはどうしたものか。


「うーん、このアプリの趣旨が解らなくなってきたぞ」


 俺はてっきり箱庭育成ゲームかと思っていたが、シイナちゃんの反応を見る限りそうではないらしい。


 この怯えよう、そしてホワイトボードを手に持たずテーブルに置いた……これはつまり。


「……閉じ込められている? 」


 なるほど、そう考えるといろいろ合点がいく。最初の頃、ドアの前にうずくまっていたのも恐らくそのドアがこの部屋に入ってきた入り口だったからとかか?


「えー……これ、美少女監禁ゲームぅ……? 」


 これまでほのぼのやってきたのに一気にアンダーグラウンド化してきた。……だけど、まあ、やめないけどね! シイナちゃん可愛いしダイエットも順調だし!


 それよりも、今はシイナちゃんへの回答をどうするかである。見ているか否か、であるが……。


「どう考えても返事、出来ないよなあ」


 そう、今までのご褒美にシイナちゃんへの回答が出来るような気の利いたものは何もない。というか、俺が自由に出せる物は食料に水、生活雑貨くらいである。


『私を見ていますか? 』


 ポトッ(石鹸が落ちる音)


「わあ、石鹸を落としてくれたわ! つまりこれはイエスって事ね! 」(裏声)


 ……いや、ないわ。どう頑張ってもイエスにはなんねぇわ。


 これではシイナちゃんとの意思疎通は不可能である。いや、そもそもキャラクターと意思疎通が可能かどうかすら解らんが。


 恐らく、必要なフラグが立っていなかったんだろう。出なければこのイベントの意味がない。そう考えると、なんだか悔しくなってきた。どこで何を間違えた俺ぇ……。


 そんな事を考えていると、シイナちゃんが毛布から出てきた。反応がなかったせいか、ほっとしたような、でも結局何も解らなくて不満という……というすごく複雑そうな表情でホワイトボードを回収をしていた。


 不満な表情は解るけど、なんでほっとする? そんな疑問が浮かんだ瞬間、俺に稲妻が走った!!


 もし、ここで俺が何らかの方法で見ていると返答したら……俺はシイナちゃんの無防備な姿が見られなくなってしまう!!


 考えて見れば当たり前だ。年頃の女の子が家族でもない性別も年齢も解らない赤の他人に見られているとわかったら……女の子じゃなくても嫌だ。そうなったら最後、布団や毛布を使って完璧な死角を作ってそこに籠もってしまうだろう。


 ──俺は背中にじっとりとした嫌な汗をかく。


 一見、シイナちゃんと初めてのコミュニケーションが取れる最高のイベント! ……だが、その実、コミュニケーションを取ったら最後、部屋の中のでシイナちゃんが必要最低限しか見られなくなる……完璧な罠イベントだ。


「あっぶねぇー……なんもしなくて良かったわ。シイナちゃんの姿が見れなくなるとか、ダイエットのやる気がまじで無くなるとこだ……」


 意図せず罠イベントを回避できた俺は、自分の日頃の行いが良かったんだな! とアホな事を考えつつホワイトボードを回収したシイナちゃんの様子を確認する。


「……しっかし、シイナちゃん日本語書けたんだな。金髪碧眼だから外人さんかと思ってたけど」


 まあ、日本語書けるから日本人、なんて極端すぎる考えだがそのくらい意外だった。しかもかなり達筆。


 俺がそんな事を考えてるなんてまったく知らずに、シイナちゃんはホワイトボードに何かを書いていた。


 お、なんだまた新しいメッセージか? とシイナちゃんの手元、ホワイトボードをアップして内容を確認する。


(´・ω・`)ノシ


 あ、絶対日本人だ。てか可愛すぎるだろおい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る