第10話 勘違い系主人公
「……で、わざわざ俺んちまで来たのか?」
「おう、家そんな遠くないし」
俺はいつもの一時間ほど早く家を出たあと、大地の家に突撃した。ちょうど大地も登校するタイミングだったらしく玄関で運良く会えたのだった。
「それで、アプリに監視されてるって言うのか?」
「ばっか、声がでけえよ! ……だっておかしいだろ? 俺が朝飯食ったら選択肢がアンロックされたんだぞ? それに今思えば体重記入で嘘がばれるってのもおかしいし……」
俺は大地の肩を組んで耳元で囁く。これはアプリに声を聞かれないようにするためであって他意はない。
「きめえよ離せ! ……逆に聞くけどさ、それは誰が何のためにやるわけ? お前相手に」
「そりゃ、俺のファンだろ」
「ばっかじゃねえの? 居るわけねえだろそんなマニアックなやつ」
力業で身体を引き離された俺は、不満げな顔をして大地を見る。そりゃ、自意識過剰だとは思うけども……。
「でもよぉ……」
「はぁ……あのよ、もっかいアプリ開いてメニューとプレゼントボックスを開いてみろよ」
「お、おう」
俺は大地に言われたとおりアプリを開く。……よほどベッドが快適なのかまだシイナちゃんは寝ていた。可愛い。
いかんいかんと頭を振ってまずはプレゼントボックスを見る。【バランスの良い食事を摂った】をアンロックしたご褒美が入っていた。
「例の選択肢のご褒美があるだけだけど? 」
「ちゃんと説明文見ろボケカスゥ」
そのプレゼントをタップすると、【昨晩のメンテナンスにおける不具合のお詫び】と書かれていた。
「なんか不具合のお詫びって書いてある! 」
「今まで筋トレと体重減少のご褒美しかなかったんだけど、それじゃ少なすぎるって要望あったから昨日の夜中アップデートしたんだよ。で、新しいご褒美である食事関係の選択肢が一部アンロックされるっていう不具合が発生したわけだ」
「あー……あー! そういうこと!? 」
「ん。ほれ、かおりんが謝罪動画あげてるし」
そういって自分のスマホを操作して俺に画面を見せてきた。……うっわ、土下座する瞬間の乳揺れと土下座してる時の谷間がえぐい位エロいわ……。
「じゃ、じゃあ、体重記入がばれるのって……」
「普通に考えて1週間で10キロも痩せられるか? 」
……気まずい空気が俺と大地の間に流れる。やばい、これは完全に俺が痛い奴になってしまっているっ!!
「だ、だって俺かおりんのファンじゃないから分からなかったんだもん! 」
「ファン以前にお前はすごい勘違いしてるんだよ」
「か、勘違い……」
「──お前に、ファンが居るわけねえだろ? 」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 」
両耳を押さえながらうずくまる俺を大地は鼻で笑いながら写真を撮っている。やめてぇ、こんな情けない俺の写真を撮らないでぇ!
「……なにしてるの?」
──おっと、この声はまずい。俺は慌てて立ち上がって挨拶をする。
「おはよう、瑞希
みずき
。いや、今優斗の勘違いっぷりが面白くてな」
「おはよう、山中。大地その話もう良いから……じゃ、俺先に行くわー」
そういって俺は大地の肩を小走りでバス停に向かう。カップルの邪魔とか死んでも出来ないからな!
「……井上、相変わらずだね」
「おう、まあ気持ちは分からんでもないけどな」
走って逃げていく優斗を見送った後、スマホを操作しながら瑞希の横を歩く。
「ながらスマホは危ないよ?」
「すぐ済むから。……よし、オッケー」
俺はメッセージを送り終えると、胸ポケットにスマホをしまって手持ち無沙汰にしてる瑞希の手を握る。小学生から手をつないで登校しているため気恥ずかしさなんて一切無くむしろ安心感しかない。瑞希も素直に指を絡めてくるし。
──胸ポケットにしまったスマホに先ほど送ったメッセージの返事が表示されていた。
『無事誤魔化せました。でもあまり露骨にやり過ぎないでください。フォローしきれなくなります』
『よくやりました。今後気を付けますからそちらもうまくやるように。では後ほどまた指令を送ります』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます