第14話 身体を温める
「まてまて、いきなり筋トレマシーンに行くんじゃない」
意気揚々と筋トレマシーンに向かう俺の肩を掴んで止める大地。
「え、筋トレするんじゃねえの? 」
「いやするけども! いきなり筋トレはねーよ! 」
「え、そうなん? 」
「準備運動はしたけどまだ身体は温まってないの。今筋トレしても効果は薄いし故障し易いしで良いことない」
「へぇ、まあよく考えたらそれもそうか」
たしかに、身体も温まってないのに走ったら脇腹痛くなるもんな。
「じゃあ何で身体を温めるかって話なんだが……瑞希、お前はどっちにする? 」
「今日は井上の付き合いだし私はなんでもいい」
「そうか? 悪いな。じゃあ優斗、歩きと漕ぐのだったらどっちがいい? 」
え、そこで俺に振るのか? 歩きと漕ぐ……うん、差が分からん。
「キツさが分からんから選びようがねーよ」
「個人差があるからなんとも言えないけど……確か、サイクリングマシーンの方が膝に負担が少ないとか」
「ならサイクリングマシーンで。デブの膝は弱いんだからな」
「はいよ、じゃあ15分間漕ぐぞー」
『おー!』
今更だけど、なんか山中と話せるようになってきた。なんかこそばゆいっ!
「……なあ」
「んー? あ、回転数さがってんぞ。ちゃんと60回転くらいをキープしろって」
「お、おう。ってそうじゃなくて」
隣のサイクリングマシーンに乗って漕いでいる大地に指示をされて俺は慌てて漕いで60回転をキープする。大地が俺に合ったウェイトを設定してくれたおかげでほどよいキツさで額と背中から汗が滲んでくるのがはっきりとわかる。
「じゃあなんだよ」
「暇」
「黙って漕げボケカスゥ」
しかし漕ぐのにも馴れてくるとどうにも暇になってしまう。景色といえば窓の外に植えてある名前の知らない木だけだし。
「……なあ、大地」
「……」
「……なあ無視すんなっておいこら!? なんだそのイヤホン!!」
どこからか取り出したイヤホンを耳に付けて、すでに自分の世界に入ってしまった大地を軽く睨んだあとため息をつきながらスマホを取り出す。
スマホは持ち込みOKと言われていたので持ってきたのが役に立った。とはいえ、さすがに周りに人がいる中で音を出すわけにいかない。じゃあ、なにをするか。
「シイナちゃんを観察しよう! 」
サイクリングマシーンに付いているハンドルから手を離し、アプリを起動する。
「ぼっちな俺を癒やしておくれ……っていないじゃねーか! 」
映し出された部屋の中にはシイナちゃんの姿はなく、テーブルには読みかけの本が置いてあるだけだった。
「なんだよー風呂かー? まだ午前中だぞ」
ぶつくさ文句をたれながら一応、確認の為に部屋を見渡す。が、やっぱりいなかった。これには俺もがっかりである。
仕方ないので、部屋にあるドアを触れていく。
「……は? 」
相変わらず条件がえげつないなぁと思っていると、汗が画面に垂れてしまった。特に何も思わずに肩にかけたタオルで画面を拭くと、汗に反応してしてしまったのか何かに誤タップしてしまったらしい。
めんどくせぇと思いながら消そうとして指が止まる。
「あれ、《体重-5Kg達成でアンロック》《入力してください》? おかしいな、5キロ痩せた時点で全部確認したと思ったんだけど……どこをタップした? 」
どこをタップしたのか確認するために一旦選択肢を消して画面を確認して俺は唖然として漕いでる足を止めてしまった。
「……? おい、どうした? きつくなったのか?」
「い、いや大丈夫!! 気にしないで!? 」
慌てて漕ぎ始める俺を訝かしげな目で見てくるが、真面目に漕ぎ始めたのを確認してまた自分の世界に入っていった。
俺はそれを確認すると、改めてスマホの画面を見る。流石にそこはないと思っていた場所に選択肢が現れていた。
選択肢が表示されてるのは、TOILETと書かれたドアだった。
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