第8話 そうだ!追試だ!
「遊太のばーか!」
そういって投げられたスマホは見事に弧を描き俺のもとへ
「いや、だから」
キャッチしたスマホを見れば長期滞在おすすめスポットの特集。
「うん、俺が悪いけど」
間違いなく俺が全面的に悪いことはわかっているのだ。
「,,,,,,,学校遅れるよ」
まさに私、不貞腐れていますという表情なのだが言っていることも事実。
時計を見ればまぁまぁ危ない時間。
「.......行ってきます」
怒らせる前にもらった弁当を片手に後ろ髪を引かれる思いでリビングを飛び出す。
「........いってらっしゃ」
小さくだがつぶやくように言われた、ただの挨拶。
そんな些細なことに浮足立つのだから俺は大概だろう。
「小松原マジで許さねぇ」
チャイムの音とほぼ同時に扉を開ければ集まるクラスの視線。
「おうおう、いきなり教師の悪口で登場とは遊太も随分ヤンキーになっちまったな。でもどうしたよ?今日は遅刻ギリじゃん」
目の前で、にやにやと笑ってくる一輝に限りなくいらつく。
「うるせぇ」
「遊太ぁ。どうしたん」
ほかのやつらにも不思議がられて見られるが別に誰かが悪いんではなく100対0で俺が悪いんだ。
「追試がまさか木曜だったなんて。」
「あ、お前なんかやらかしたな」
「はい」
呆れたような一輝の言葉に俺は力なく頷くことしかできなかった。
「で、お前何やらかしたんだよ?」
「あぁ」
毎度恒例のお昼休み、机合わせになった向かい側から一輝に問いかけられる。
どうやら今日は、お弁当らしく箸をこちらに向けられる。
俺も弁当を取り出すが思い出すのは朝のあの顔。
「母さんが一週間旅行行こうって」
「よかったじゃんか」
「それが明日からで、浮かれてオッケー出したら追試忘れてた。」
「あ、そうか」
朝飯の時に、佐奈からのSOSメッセージで思い出しそれを打ち明けたときのあの顔は本当に忘れない。
『ごめん。俺追試あった』
『は?』
冷え切った声で言われたときは本当に終わりを察した。
謝りの連絡を送っても一向に返信がないし。
「まぁ、それは仕方ないだろ。たけぇ贈り物したんだろ」
「ただ、それで追試ってばれたら殺されるわ」
「許してくれればいいけど」
弁当を開けた瞬間に罪悪感に苛まれた。
「これは、お前が悪いな」
「おう」
さっきと一変した一輝の言葉に思わずうなづいてしまう。
「沙月ねぇえ」
弁当はまさに気合入れましたという感じ。
昨日のあまりものでもいいのに間違いなく今朝作られたもの。
ご飯には海苔で
「デートだって。お母さんめっちゃ喜んでるじゃん」
「もういっそ俺を殺してくれ」
デートの三文字とハートマーク。
もうめちゃくちゃに浮かれてるのがわかった以上いっそ死ぬしかない。
確かに思えば、高校に入ってからは初めてかもしれない長期休み。
そりゃ浮かれるのだってわかるのだが。
これは本当に
「あぁ、小松原しねぇ」
「おー、やめろやめろ」
やるせねぇ
*** **
「遊太ありがとね」
「おお」
放課後、図書館で少し佐奈の国語を見てやりバイト先に急ぐ。
流石に今回は後がないからか、結構自習をしているらしいので問題は以外にもスムーズに進んだ。
というかたまたま図書館であった宿敵、小松原にアドバイスももらった。すごくいい人だということはわかったのだが、
「なんで今なんだぁ」
「お、月島君どうしたん?」
「あ、おつかれです」
店の前まで行けば今まさに入ろうとしていた先輩バイターの姿があった。
確か女子大生でちょっと弾けた感じはお店でも人気なのだが
「ああ、まぁちょっと」
「お、なになに」
「いや、大したことじゃないですから」
「えー、お姉さんに教えてよぉ」
年下だから子供扱いされるのかやけに距離感が近い。
嫌いじゃないし苦手って程でもないが困るのだ。
それに沙月ちゃんの影響か、扱いなれしているからかやけにぐいぐいくるし。
ここは逃げるべく店に入ってしまうに限る。
こぢんまりとしたお店のドアを開ければカウンターで仕事をしていた店長の奥さんに手を挙げられる。
「お、ゆうちゃんお疲れ」
「お疲れ様です。」
「渚ちゃんも一緒だったんだね」
「はい、ちょうどあって」
カウンターから奥を覗けばそこには仕込みをしている店長の姿もあった。
「店長もおつかれさまです」
「おー、遊太。仕込み手伝ってくれ」
「はい」
店長に言われタイムカードを切り、仕込みの準備に取り掛かる。
仕込みといっても難しいことはしない。野菜はざく切りに。魚は切り身に。
肉は小分けしてと、そんな作業だ。
「相変わらず手際いいな。流石あいつの息子だ」
「いや、そんなことないっすよ」
「ええ、月島君は優秀だよ」
渚さんにも言われるがなんとも不思議な状況だと思う。
昔居酒屋の息子だった俺が高校生になって居酒屋で働いているんだから。
家から徒歩数分のこの店の店長には、小学校のころからよくしてもらった。
それこそ沙月姉ちゃんの変な噂が出たときだって矢面に立って否定してくれていた。
高校にはいって近くのバイトを探していたときに、よければと誘ってもらって今に至るんだが、あの時はバイトの申請書を沙月姉ちゃんに見せたら変に気を使わせてしまった。
ただ断じて親の背中を追ってるなんて言う事実はないんだが。
「お、そういえば今日、沙月ちゃんが食べに来るってよ」
そんな店長の何気ないことを言うかのような台詞に俺は思わず天を見上げた。
―あ、油じみ
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