第17話 レツゴ— ショッピング

「ねぇ! これとかよくない?」

「ああ、似合ってるよ」

「あ、じゃあこれは?」

「それも似合ってる」

「もう! 遊太さっきからそればっかじゃん!」 

 俺の返しが気に入らないのか、両手に取った服を掲げて不満げな沙月姉ちゃん。

 たぶん、てきとーな返しをしていると思われているのだろうが勘違いはしないでもらいたい。

 ふわっとした白のワンピースも、黒のタイトなシャツも全部が似合うのだ。

 ただそれを面と向かって言えないのは、

「........くそかわいい」

「ん? なんか言った遊太?」

「いや...まぁ俺的には白の方がいいかと」

 つい口から出てしまった言葉を拾われたのかと驚き、気づけばおかしなことを口走ってしまった。

「えっと、その...」

 目の前で驚いたような顔をする彼女にどうにか言い訳をしようとすれば、何も言わずに黒のシャツをハンガーラックにかけてワンピースを凝視。

「あー、なるほど。 遊太は清楚系が好きと」

——死にたい


 たださっきまでの優柔不断なような答えのときとは違い満足したような顔でレジに向かっていく姿にただただ胸を締め付けられる。

——好きだ

 自分が選んだものを喜々としてレジに持って行っている姿、右手の薬指を飾る指輪。そして、きらりと首筋で輝くネックレスのチェーン。

 その輝きは、今は見えないが確かに俺の首にもあって、

——好きだ

 こんな気持ちを加速させていく。

 複合施設一階のアパレルショップで俺はただただ沙月姉ちゃんへの恋幕を募らせるのであった。

——てか、いま買ってあげれば良かったじゃん

 そんな自分からのツッコミを受けながら。


―――――

——


「一輝ざまぁ」

「ちょ、遊太それは言い過ぎだから...ふふ」

「佐奈だって笑ってんだろ...ん、ふふ」

「そりゃ、そうでしょ」

 追試を終えた俺と佐奈は、昇降口でただただ無残に散っていった一輝を思い浮かべて笑っていた。

「ちょっとかわいそうだったけどね」

「まぁ、わかるけど。 あれは一輝が悪い」

「まぁ、そりゃそう」

 完全に舐めプをかまして一点足りないで課題をいただいた姿はまさに反面教師と呼べるだろう。

 まさかファミレスでの勉強会以降、一回も自習をしないとは思わなかった。

 本人曰く、気になることや忙しくて手が付かなかったというがあまりにも憐れ。

 あの後、全力で媚を売りに行くといって小松原に突撃していったがどうなったのだか...

——まぁ、あいつのことは忘れよう

「で、遊太今日暇?」

「ん?」

 心の中で哀悼の意を表していたところで靴を履き終えた佐奈に声を掛けられ哀悼は早々と消えていく。

「打ち上げでもする?」

「あ......」

「うちでもいいし、どっか行ってもいいけど?」

「えっと......」

 小首をかしげてそういってくる彼女にどう返そうかと考えたりし始めたときだった。

「遊太!」

「え?」

「あ、沙月さんだ」

 学校の門からこちらに手を振ってくる沙月姉ちゃんがそこにはいた。

「どうしたの?」

「えへへ、きちゃった」

「そっか」

——だぁああ!! かわいいなおい!

「沙月さんどうしたんですか?」

「お、佐奈ちゃんお疲れ。 うーんとね、今日は遊太とお買い物行こうかとおもってお迎え」

「なるほど」

「いや、俺制服だけど」

 佐奈は納得したようだが俺も流石に制服では閉まらない。

 そう思って言えばわかってるといわんばかりに頷いて見せる。

「だから、一緒にお家まで帰ろ。 佐奈ちゃんも」

「え?」

「あ、楽しそう」

「たまにはいいでしょ遊太」

 俺の返事も聞かずに佐奈と一緒に一足早く歩きだした沙月姉ちゃんに俺は、ただただ付き従った。


 そして今、

「遊太―!! 次は遊太の服いこ!」

「え、俺はいいって」

「いいから。 たまには見てあげる」

 中学に上がってからは基本ずっとお小遣いから自分で選んでを繰り返していたのでそういわれても困る。

 それこそ、たまにどっかから買ってくる服がやたらおしゃれすぎたりとか、そんなこともあったし。

「いや、服ならあるし」

「明日のディズニーの服!」

「あーーー」

「ほら! いいから行こ!」

 嬉しそうに笑顔いっぱいの顏で言われてしまえば俺にどれだけの拒否権があるというのか。

「じゃあ、頼む」

「うん!」

 否、子供っぽい笑顔を見せてくる彼女の前で俺に拒否権などない。


 

 

 


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