第16話 いざ行かん、約束の地へ 追試
普段のホームルーム教室とは少し違った、別のクラスの教室。
壁に貼ってある配布物やクラスの展示物に、不思議な感覚に囚われるがこれにかまけている場合ではない。
黒板にデカデカと書かれた
『国語科 追試 2学年』
のパワーワード。 よくよく見渡してみても佐奈と、一輝とあと6人ぐらい。
見た目がギャルっぽかったりヤンキー然だったり、ちょっと不思議ちゃんぽいことか、明らかやる気をなくしきった男だったりと、十人十色に人がいるが決して多くはない。
――要は今回のテストはそんな難しくなかったってわけか
何やってんだか、という気持ちに襲われもするが、その対価に得たものの方が俺は間違いなく多いのだろう。
とりあえずは、
「お願い、小松原様!」
怨敵小松原に手を組んでガンかけてしている佐奈。
おおよそ必要ないことにも思えるのだが、ないよりはマシだろう。
黒板上に鎮座する、大きな某時計メーカーの時計が、ガコンッ!と音をだし長針を12に当てはめる。
「それでは始め」
16:00。 国語科中間考査追試は始まった。
バッ!ッと机の上の解答用紙をめくるなんていうこともなく、もはや清々しい気持ちでめくれば、
——これ対策でやったところ
ベネ○セも驚きの出題率を誇る問題用紙がそこにはあった。
まさかここまでとは。小松原に図書館でこの辺をやっとけと言われたところは見事に出題され、もはや消化試合のような感覚。ふっと視線をあげれば不思議と視線の合った小松原はこちらに軽いサムズアップを。
——いいやつかよ
今度、なんか自販で買ってやろう。
そんな決心を旨に秘め、答案用紙にペンを走らせる。
追試という特性上、途中退室にはかなり寛容的だ。
人数が少ないのもあるが答案用紙を渡せばその場で採点され結果が分かる。
そこで必要点数に満たなかったものには、尋常じゃない課題量、文学の巨匠夏目漱石全集の読書感想文という事実上の処刑宣告が出されるわけなのだが。
もう2人ほどそんな悲惨な末路の者たちを見届けたが、肩の落ち方は半端なかった。
かくいう俺も、答案自体は終わっているのだが採点には向かわずに席で大人しく時間の経過を待っている。
なかなかに早い段階で書き終え、小松原も、来れば?的な視線を送ってきたがシャープペンで軽く前の席の佐奈を指せば納得したように肯き、ニヤニヤ顔に。
明らかに余計なことを考えているのだろうがそんなことは断じてない。
ただそれを否定しに立ち向かっても、起立=退席の法則の前では学生はなんと弱いことか。
ガタン!
――お?
答案用紙の端っこに絵とも呼べないような絵をかいて遊んでいれば、目の前で起きる机を引いた音。
「お願い! 小松原せんせ!」
「おお、来たか」
飛び出すように出ていった佐奈が答案用紙を小松原の前に置けば、暇を持て余していたその体を起こした。
いや、さすがに体を椅子に預けすぎだろ。
「んー、設問1。 ここと、ここは違うね」
「えー」
「設問2はしっかりできてるね」
「お、マジ!?」
こっちにブイサインを送ってくる佐奈に、前をむけとジェスチャーすればおとなしく視線を戻した。
設問1は漢字、設問2は古文の単語変換。どうやらそこは取れたらしい。
設問ごとの一喜一憂は後ろ姿と、漏れ出す悲鳴と感激で伝わってくる。
たぶん大丈夫、俺自身プリントの端っこに簡単な得点計算をする。
キュッ!!!
最後だろうか、赤ペンが大きくその航跡を残した音と共に佐奈がこちらを向いた。
目には涙をためて、
「遊太ぁ!!! ありがとぉー」
「おーよかった」
「ありがとぉ」
「ちょ、抱き着くな!」
――てか、小松原も注意......
そんな視線を送ったが、”よくがんばったなぁ”と涙目で佐奈の答案用紙を夢中になって眺めている。
――あんたも苦労してたんだな。
もはや俺が小松原に同情してしまった。
そこからは流れ作業で、採点を任せて合格の2文字を貰う簡単な作業。
作業のはずだったのだが、
「はい、桜井君は課題ね」
「うそ」
「ばかずき」
余裕ぶって本当に勉強をさぼった人間が1名。
帰らぬ人となったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます