第15話 ガールズトーク

 六畳ほどの別段面白みもないような一室。

 スポーツ選手を目指しているわけでも、学者になりたいわけでもない俺の部屋に突飛なモノなんて一切ない。

――ないんだが......


「沙月さん、これヴィヴィ案の新作ですって」

「へぇ、可愛いね」

「それにその指輪! かわいいですね」

「...ふふ、ありがと」

――なんで俺の方を向いてそれを言うんですかね

 あの後、お茶とお菓子を置いて去ろうとしたところを佐奈が猛アタック。

 買ってきたお菓子をダシにされれば、年下が自分のために買ってきたというのが引き金となり、沙月姉ちゃんは陥落。

 そうなれば、もう一つお茶の入ったコップを持ってきた沙月姉ちゃんと佐奈でガールズトークが繰り広げられ、俺はおとなしく買ってきたスイーツを提供することにした。

「あ、こんど一緒にお買い物いきましょう沙月さん!」

「お、いいねぇ」

「ねー。 いつにします」

 佐奈がさっきのことをいじることもなく、ガールズトークに興じているのでそれが幸いしたのか沙月姉ちゃんも楽しそうにしている。

――友達感覚か

 間違いなく俺のせいもあって大人にならざるを得なかった姉ちゃんにはちょうどいい相手なのかもしれない。

「あ、沙月さん。 そういえば遊太からどんな指輪もらったんですか?

「ん!?」

「ほら、遊太から前聞いたあれ」

「あ、あぁあ」

 今思い出したように言ってはいるが、言われた瞬間にすぐにわかった。

 というか、何よりも隣でその話題になった瞬間に指輪を眺める姿が見えた。

――いや、今ぶち込んでくるかねそのネタを

「クラスじゃ、ついに遊太に春が!?ってなったんですよ」

「なんだそりゃ」

「この馬鹿、クラスの女子に聞いたんですよ」

「やめい」

 いや、そりゃ俺も馬鹿なことしたとは思ってるけど。だからといっても聞ける相手に覚えもなかったし。

 沙月姉ちゃんの仕事仲間とか、渚さんはめちゃくちゃいじってきそうだし。

「佐奈ちゃん。 それがさっき褒めてくれた指輪だよ」

「え、その指輪だったんですか?」

「うん」

「あー、え!? あれを遊太が!?」

「うん。 お誕生日にくれたの」

「まじで?」

「ああ」

 本当に疑うような目で佐奈は見てくるが、それは母親にマジ?の方なのか、嘘じゃない?の方なのか。

 はたまた両方か。

「いやぁ、予想以上に頑張ったね遊太」

「いや、何をだよ?」

「そりゃ私も女子だし、価値わかるし」

「はぁ...」

 少し下世話な会話ではあるが確かに、高校生が送るにはだいぶ背伸びしている気もする。

「ふふーん。 遊太いろいろ聞いてくれたんだ」

「まぁ...いいもん分からんし」

「そっか。 もーかわいいなぁ」

「ちょ、やめい」

 こちらとしては佐奈の前で始まろうとしているかわいがりをどうにか止めなくてはいけないのだ。


―――――

「じゃあ、明日帰ってきたらショッピングね」

「はいよ」

「で、金曜日はディズニーね! あ、お泊りだから」

「まじで?」

「うん。 大丈夫用意は私がしとくから」

「わかった」

 いそいそとスマホを動かしているところを見る限り、なにやら俺の想像を超える予定が組まれているようだ。

 ただ、まだ秘密にしておきたいのかその全貌は俺が知るところではない。

 しかし、一つ言うことがあるとするなら。

「あ、今日いっしょにねる?」

「いや、寝ないから」

「いいじゃん照れなくて」

「いや、そうじゃないから」

 佐奈が落とした爆弾で、可愛がり魔人となった沙月姉ちゃんから逃れることだろう。

 間違いなく一緒に寝ることになったら、一睡もできる気はしないし明日死ぬ自身もある。

 だから俺。

――負けんじゃねぇぞ。


************

「んーーーー.........」

 唸り声をあげてベットに飛び込めば、バフンッ!とまぁまぁいいカウンターを全身に受けるがそれは気にしない。

 明日のテスト対策はたぶんバッチリだし、遊太のおかげで点数を取ることはできると思う。だから、別にその点に悩みなどは特にない。

 あるとするなら、

「あれって、沙月さん好きなのかな?」

 私と遊太の付き合いは小学校三年生ぐらい。

 まだまだ女子と男子なんて垣根ができる前に、たまたま男子グループと女子グループが公園で一緒になってそれでって感じ。

 遊太の家のことは知っている。

 といっても、遊太と付き合いだした時にお母さんとお父さんに教えてもらったんだけど。

 死んじゃった遊太の両親の代わりを引き受けた沙月さん。

 もともと沙月さんが結構イベントごとに現れていたのがあって違和感もなかったけど、それを疑問に思って聞いた小学六年生のころに両親が教えてくれた。

 何度か家にお邪魔したときに、沙月さんにも遊んでもらったし二人が仲いいのは知ってる。

 でもあの、

『えへへ、おかえり遊太ぁ』

『ありがとね、遊太』

 遊太にべったりな感じの距離感。

 一つは寝起きだったのもあるとは思うんだけど。

「まさかね」


 私はなんとも言えない疑問を持って、そのまま意識を手放した。


 

 

 



 

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