第18話 帰路
日が完全に落ち切った、そんな頃合い。
まだまだ街には人がごった返しているが、服装を見るに社会人多めのそんな頃合い。
要は高校生が出歩かないようなそんな時間帯。
少なくとも俺の視界がとらえた高校生はろくにいない。
なぜ、そんなことを一々言うかといわれれば一言にすぎるだろう。
「うーん。 遊太! これおいしいよ!」
「そうだね」
なんか少し高そうな居酒屋の個室に俺はいた。
もちろん対面には沙月姉ちゃんが鎮座して。
「明日に残すなよ」
「わかってるよ」
「ならいいけど」
「ん、あと一杯ね!」
あと一杯。
すでにハイボールを一杯飲みほしておいてまだ望むか。
まぁそうはいっても、普段の姿やこの前の酒豪っぷりを見てる俺としてはこれが少ないことはわかる。
「ふふ、明日はパレードみて、アトラクションいっぱい乗ろうね」
「ん」
「あ、ホテルも! なんかすごいらしいよ! インスト映えだよ」
時たまクラスでも女子たちが、SNSで色めきだっているのは聞いたことがある。
佐奈だって、インストをやってインストグラマーだかを目指しているとか。
―—まぁわからんけど
ただ、やっぱり沙月姉ちゃんもしっかりと女子なのだと改めて思う。
そうするとやっぱり俺の思考は罪悪感に締め付けられる。
―—もし、俺がお爺ちゃんを選んだら
もちろん口に出してそんなことをいうことしない。
それを言えば沙月姉ちゃんに対する冒とくに他ならないから。
でも思わないわけではない。
ネットの記事で見た一番楽しい時期。
多くの人が答えた20代。
それを子育てで奪ったのだから。
「遊太!」
「え?」
「はい! あーん」
「うぇ?」
「ん」
「んぐ?」
突如名前を呼ばれれば目の前に突き出された刺身。
それをなんとも言えない圧力に負けて口にすれば目の前には少し不満げの沙月姉ちゃんが。
「遊太? 楽しくない?」
「いや、そんなことはねぇけど」
「ならいいけどさ。 暗い顔になってたよ」
そんな言葉をさいごに焼き魚をつつきだす姿を見ると流石だと思う。
どうせ俺が何を考えていたなんてわかっているんだろうから敵わない。
なによりも、
「ほら、遊太! これ可愛くない!」
「何これ?」
「ちょ、新キャラ抑えてないのは女モテしないぞ!」
「なんだそりゃ」
モテない、そういわれた瞬間に明日の電車などの日程を確認していスマホで最新の情報サイトに飛んべば確かにそんなキャラがいる。
ラッフィーと、スクショを一枚とって情報を更新する。
なんともファンシーな顔つきのライオンだが、たぶんこういうのが女子人気が高めなのだろう。
なにやら、他にも仲のいい動物枠で数体出ているが、たった一言でそこまで調べる俺は限りなく単純なのだろう。
「ねぇ、明日楽しみだね」
そう笑顔で言われれば、さっきまで沈んだ気持ちが浮かび上がるのだから、
本当に単純だ。
********
「ゆーた! ゴーゴー!」
「あーもう、そんな暴れない」
「いいじゃん! 遊太も大きくなったねぇ」
背中に背負った沙月姉ちゃんがやけに上機嫌に声を上げれば、それに付き従って俺も歩みを進める。
居酒屋を出て少し、決して馬鹿酔いするほどは飲んでいないはずなのだが、
『おんぶ!』
そういった沙月姉ちゃんの言葉を俺が断れるわけはなかった。
ただ流石に駅前の人通りは憚られたので、少ししてからおんぶをする形になった。
もう見知った顔しか歩かないような道になれば、知っている人たちは今日もお迎えかとからかってくる、そんな具合。
「お、沙月じゃない!」
「あ、ひなちゃん!」
「遊太もお疲れ」
「うす」
ちょうど、沙月姉ちゃんの職場の隣を通りかかったときに掛けられた声に反応すれば、そこには沙月姉ちゃんの同僚の日奈さんがいた。
「遊太、重くないの?」
「大丈夫です」
「ひど! ひなちゃんひどい!」
「はいはい」
「にしても遊太。 頑張ったじゃん?」
「はい?」
「指輪! 沙月が自慢しまくってたよ。 遊太からもらったぁって」
「ちょ! それは言わないで」
ここにきて知らなかった衝撃の事実に思わず、足を支える手に力が入った。
というか、今それを言うのはずるいと思う。
「それに、遊太とどこ行けばいいかとかめっちゃ聞いてくるし」
「マジすか?」
「まじまじ。 こいつ昼間暇だからって鬼電してくるし」
「なんかすみません」
「いえいえ」
幸せな気持ちをしっかり感じながらも頭を軽く下げればそれにこたえるように頭を下げられる。
背中に女性を背負って女性に頭を下げる高校生というだいぶ怪しい図が生まれているわけだが、そこにはノータッチ。
「ひなちゃんの馬鹿!」
「あーごめんごめん」
「ふん、遊太いこ」
「はいよ」
「沙月ごめんって。 遊太も今度1人できなよ。 席ついてあげる」
「ゆるしません!」
背中でご機嫌斜めになっている沙月姉ちゃんを抱えてまた足を進める。
不思議と、さっきよりも元気になった足どりでスイスイと前に進むのはきっと日奈さんのおかげだろう。
ただ、恥ずかしかったのか拗ねてるのか、途端に黙り込んでしまった沙月姉ちゃんに意識を向け、
「明日、朝一でいこう」
そういえば、ぎゅっと抱きしめてきた。
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