第3話 昼休みの知らせ
「今日はなんかすごいな」
「そうか?」
俺の手元に視線を落としそう告げてくる一輝に聞き返してみれば全力で首を振って見せるのがわかる。
授業もつつがなく進み気づけばお昼休み。周りが購買だの自販だのと教室から飛びだし呼び出しのあるやつらが必死に弁当を飲む勢いで食べ始める中、俺はカバンから弁当箱を出した。
少し子供っぽいキャラクターものの巾着袋。もう何年も前に少し高かったのを強請ったのはこの年になるとなんとも情けなく思えてくるのだが使いこんでいるのだからプラスだろう。
いつの間にか前の席に座った一輝がコンビニの袋から何かを取り出すのを横目に、弁当の蓋を開ければご飯の上に”ファイト”の4文字。
小さいアがやけに大きく見えるがご愛嬌だろう。
そして見えるのはお弁当の代名詞として長年ドラフト首位にいるタコさんウィンナーに唐揚げとハンバーグに野菜が少々。所謂定番というところを見事に抑えてその姿は長年の積み重ねだろう。
「確かに、文字付は珍しいわ」
こんなのイベントごとの時にしかなかったはずだが今日は気分でもよかったんだろうか。
「いや、そーゆーこと.....あぁあ」
「なんだよ」
適当に取った一口大のハンバーグを口に放り込めば聞こえてくるのはあきれのような悲鳴の声。
「いや、ハート形に見えた気がしたけど俺の気のせいだ」
「うざ」
「ひでぇな」
軽く受け流し一輝はパンをかじりだし俺もそれにつられ弁当にまた箸をつける。
とりあえずはティーブレイク。授業まで残り十分をだらだらと過ごしていたらこちらに近づくものが一名。
「ちょっと、一輝に遊太聞いてよ!」
「なんだよ佐奈」
軽くカールさせた金髪を揺らし、決して優等生ではないメイクで来る姿に思わずため息交じりに告げればやや怒ったような顔をされる。
「それが困っちゃうのよ」
「ほう、委員長様のお悩みでございますか」
「うっさい」
軽愚痴を吐きながら相手をしていればしれっと隣の席に座ってこちらにすっと流してくるプリント用紙が一枚。
適当に視線をスライドさせれば目を疑う一文が見えた。
『国語科より.......中間考査追試対象者 2-4掲示用』
もう何となく嫌な予感がしたが見ないというわけにはいかない。どきどきとする胸をどうにか落ち着かせながら視線を下へ下げる
『17 桜井一輝 19 関口佐奈 24 月島遊太』
「OH、ジーザス!」
「落ち着け遊太!」
「FU〇KIN 小松原!」
「お前もだ関口。」
突然ありもしな欧米の血が覚醒した俺も、それに便乗した佐奈も見事に一輝に止められてしまう。
「てか、お前ら馬鹿だな」
「うるせぇ遊太。お前はブービーだ」
「なんだと......」
確かにテスト返しの時やな予感はしたがまさかケツから二番目だとは。
あれ、でもそういうことは。
俺にそういってくるってことは、一輝を候補から外すとして.....
「佐奈.....お前」
ずっと壁の方を見ているのが証拠だ。
「お前馬鹿だな」
「うっさい馬鹿!」
実はお互い等しく馬鹿なんだがここに解いてはコンマ一点であれ大きな差なのだ。
しばらくの不毛なやり取りの後、何かひらめいたような顔でこちらを見てくるのがわかった。
「そうだ!!一緒に勉強しようよ!」
「いや、でもそれこそダメだろ。烏合の衆ってやつじゃん」
「えぇ、遊太いつも成績いいじゃん。今回は知らないけど」
「そりゃノー勉の古文だし」
「じゃあ勉強すればいけるんでしょ」
「そうはいっても....」
なんとも断るに断れない感じ。
助けを求めるべく一輝を見ればこちらに頭を下げていた。
「遊太。俺もお前ならできると信じてる!バイト。頑張りすぎただけだよな!」
そういってサムズアップをする顔にはお前のすべてを知ってると書いてあった気がしたのは気のせいだよな。
「あぁもうわかったよ。じゃあこれからやるからな」
「よし!」
こいつよくもキラーパス出しやがったな。
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