第2話 長い長い片思い


―失敗した。


 長い期間と多大な尊い犠牲の先に生まれたそいつは無常にも、右手の薬指に吸い込まれていったのだ。

 思い描いていた感動のエンディングなんて訪れずにそれで終わってしまった。


 土日が終わって月曜日。下駄箱で乱雑に入れられた上履きに履き替えればまた一週間の始まりを感じてしまう。

 何よりここからの生活はそれなりに大きな変化を期待していたため気持ちは一歩一歩と踏みしめるたびにだんだん沈んでいくようなそんな気持ち。

 『2ー4』そう書かれたプラ板の扉を開け、真っ先に自分の席に着き机に沈む。


「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁああ」

「うるせーぞ遊太ゆうた


 そういって一輝かずきは机に沈む俺の頭に拳骨を落としてくるが知ったことか。


「お前にはわかんねーよ」

「どーせうまくいかなかったんだろ」

「...........おう」


 こいつは俺の秘密を知っている。

 机に沈んでいた頭を上げればあきれたような表情で見てくる男。

 ちょっとやんちゃな感じのある男だが十年来の付き合いとなればそういったことも感じなくなってくる。


「お前の母さんなんだって?」

「ありがとうって」

「よかったじゃん受取ってもらえて」

「でも、左手じゃなくて右手だぜ......」


 思い出してもう一度机に沈もうとすれば背中を強くたたかれる。


「お前、つけてもらってんじゃん!」

「でも右だし」

「馬鹿! 飾られたりするよりかマシだろ」


 結構いたかったので睨みを籠めてみてやるが、笑顔で俺を鼓舞しているこいつが目に入ったのですぐにやめる。


「俺の兄ちゃんなんかこの前貢がされたって嘆いてたぞ」

「それはいってやるなよ」


 励ましの中で知らなきゃよかった情報を知ってしまったが、隆司たかしさんどんまいです。


「でもさぁ」

「なんだよ。 喜ばれなかったのか?」

「いや、喜んでたと思う」

「じゃあいいじゃんか」


 そういって笑いかけられれば聞こえてくるのは担任の号令。


「じゃあまたな」

「おう」


 なんでもないような業務連絡を受けつつ思い出すのはあの日のこと。


 土曜日の朝から電車に乗り都会のジュエリーショップへ。

『ディファニーの指輪とか嬉しいかな』

 そんなクラスの女の子のアドバイスで選んだこのお店。

 入った瞬間一気に視線を集めるのがわかったがそこは流石プロ。さっと寄ってきて要件を伺ってくれた。

 流石に七桁の指輪なんて買えるわけもなく、さりげなく俺の年齢を聞き出しいい感じの値段帯を勧めてくれいろいろアドバイスもくれた。

 

 そして贈った9号の指輪。

 それは、右手の薬指にはめられた。

 一度はめられた以上、左手なんだけどという勇気も出ずにあえなく玉砕。


 『こんな高いもの買ってきて........誕生日プレゼントありがと』

 嬉しそうに指輪をつけた手を握りしめて、大好きな笑顔で言われれば仕方ないじゃないか。


 それに指輪を、凄い大事にしてくれてるのはわかる。何かにぶつかって音を立てたときはそれとなく視線が右手に落ちるのがわかったからだ。

 その日の夜の食卓が凄く豪華だったのはよく覚えている。

 


 

 


 

 

 


 

 

 

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