第4話 昔馴染みとお勉強
「つかれたぁ」
なんとも闇の深い時間だった。家の玄関に手を掛ければ思い出すのは放課後の嫌に濃厚な時間。
放課後、佐奈と一輝と一緒に近くのファミレスで行った勉強会。
宿敵、国語再試験の作戦を簡単に考えた。いくら古文が多いといったって所詮は追試。似たようなところと、文章読解の簡単な解答方法を伝え、本番ではボーダーラインを超えられる程度の点を取って退散する。
そんな素敵な作戦を考えたのだ。
その時はまだ、なんとも愛想笑いというかぎこちない佐奈が申し訳なさからそうしているのだと思った。
思っていたのだ。
「わりぃな。今日は付き合わせたのに。もう帰んねぇと」
「いや仕方ねぇよ。俺らも帰るか。」
「う、うん」
バイトの時間が迫っていたらしい一輝が帰るのを境に俺らも帰り支度を初めて帰路に立った。バイトに直行する一輝とは駅前で別れそのまま自宅までの道を佐奈と歩く。
幼馴染というわけではないが昔馴染みといえばいいのか、交流は小学校の高学年のころから高校までずっと続いている。いつの間にか髪が茶色くなったり金色になったり、メイクを覚えたりといろいろな変化が彼女に訪れたりもしたが不思議とこの距離感は保たれたまま、そう思えばなんとも考え深いものだ。
ぼーっとその揺れる金髪を見ていればこちらを、何か強い思いのこもったような目で見てきた。
「あ、あのね」
そういって何かをしゃべりだそうとする彼女の顔は真っ赤で
「うちに来てくれない?」
「え?」
なんとも突拍子のないことを言ってきた。
「馬鹿かお前?」
「うるさい馬鹿」
メイクを落としたからか、キツさが減った目で睨んでくる佐奈。
小綺麗に片づけられた部屋に、雑誌の置かれたローテーブル。
勉強机はあるが、綺麗に並べられた化粧品を見る限り勉強はという機能はもう失われているのかもしれない。
「はぁ」
「ちょっと、あきれないでよ」
「いや、無理だろ」
本当に困っているのか涙目になって言われるが厳しいことにはかわりない。
やらかしたのだこいつは。いや正確にはやらかしていた。
『実は、前々からやらかしてて、60点は取らないと1つくぞって.....』
帰り際になってそんなことを言った彼女に思わずチョップを入れたのは悪くないと思う。
「いままで60とれない奴がどうすんだよ?」
「だから困ってるんじゃん」
もう本当に泣いてるんじゃないかという目で見られればこっちが悪者の様だ。
実際は俺も、教えることは教えた気がするんだが、
「はぁ、今日から本当に特訓だぞ」
昔からの付き合いだからかどうしても甘くなってしまうのだ。
「ありがとう遊太!」
「頼むから60とれよ」
「うん!」
満面の笑みでそう返してくるものだから思わず笑ってしまえばまた怒られるが、それでもおかしくて笑ってしまった。
「そういえばさ、遊太」
「ん、なに」
「指輪誰にあげたの?」
「あー、なんで知ってんの?」
ちょうど一区切りといったところで佐奈はそんなことを切り出してきた。
「いや、クラスの女子に指輪がどうとか聞いてるって、友達が」
「なるほどな」
そりゃ、学校であんなことを聞いてればそうもなるか。
忙ぐあまり周りに割く余裕がなかったな。
「母さんだよ」
「あぁ、そっか」
腑に落ちたのか何度もうなづいて見せる。
「彼女にはあげないの?」
「いや、いねぇから」
わかっていってるからか、笑顔を浮かべている。てかこいつもいないだろ。
とはいっても社交辞令というか流れ的に聞いとくか
「おまえは?彼氏にあげねぇの?」
「いや、彼氏おらんし」
「知ってる。」
いよいよお互いに笑いだしてしまえばドアがノックされるのがわかった。
「佐奈。ゆーくん。ごはんだよ」
「いや、俺はいいすよ。」
「いいんだよ。うちのおバカを見てもらったんだから」
「お母さんひど!よし遊太いくよ」
俺の断りも虚しく腕を引かれ連れてかれる関口家の食卓。
昔は数回お世話になったがこの年でお世話になるとなんとも恥ずかしいものがあった。
ただ、普段お母さんと佐奈で、二対一のお父さんにはだいぶ良くしてもらった。
「ただいまぁ」
一応挨拶をするが時刻はまだ九時。
仕事柄まだ帰ってきておらず誰もいない時間。
習慣でしただけの挨拶はそのまま消えていくはずだった。
「おかえり」
返事なんてなく。
ぎょっとするとはこういうことなんだろうと実感した。
目の前から聞こえた声に足元の視線を上げれば義母がいた。
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