第10話
警察やら防衛省やらの取り調べを取っ替え引っ替え受けたあと、俺が解放された頃にはすっかり暗くなっていた。
家の方には警察から連絡を入れてもらえたので、帰りが遅いことについては母さんは心配していないだろう。
俺の方からも、あとでもう一度電話する予定だ。
そして俺は今──、あの怪物の死骸の前にいた。
──スゲェな、これは。
交差点を塞ぐように横たわる黒い巨体が、ときおり、調査中の職員が照らすライトで反射する。
その胴体には、ヒト一人分程度の大きな穴が空いていた。
恐らくは、先ほどの戦闘で放たれた光の矢のようなもので焼き切られたのであろう。
思わずスマホでパシャリ。
不謹慎かもしれないが、この先、写真を撮るような機会なんて滅多にないだろうから許して欲しい。
⋯⋯もちろん、警察の方はネットにアップしない条件で了承済である。
「あの、先ほどはありがとうございました」
声を掛けられ振り返ると、今さっき助けた少年とその母が立っていた。
「ほら、ありがとうを言いなさい」と少年の頭を手で押して、その母がお辞儀をさせる。それを見て、俺は思わずクスッと笑った。
「いえいえ、礼なら助けてくれた魔法少女の方に⋯⋯、あぁ、いや」
⋯⋯そうだった。
言ってしまってから、思い出す。
魔法少女の素性を俺らが知ることができる機会は、ほぼゼロといっても過言ではないのだ。
普通、こういう情報はネットにリークされていてもおかしくはないのだが、そこは政府──、もとい防衛省科学・魔法課の情報操作のなす技だ。
過去に流出が起こったケースは存在しない。
だからどんなに礼がしたくても、それが叶うことはまずない。
「ただ⋯⋯、実際俺は何もしてないので⋯⋯」
「いえ、そんな⋯⋯。あ、そうだ。後でお礼がしたいので電話番号だけでも⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯はぁ」
その後、俺は半ば押し切られるような形で名前や電話番号、さらには住所まで教えることになった。
ちなみにその数日後、少年の母が、東京で指折りの某高級和菓子店の詰め合わせ片手に、我が家にお礼に来たのは、また別の話である。
それにしてもあの時俺を助けてくれたのは、一体誰だったのだろうか──。
規制線の向こう側では、巨大蜘蛛が運搬に適した大きさまで解体され、それぞれ縄で台車に縛り付けられていく。
それが終わると、政府の職員ら総出でトラックの中へと押し込んでいく。
その作業は、まるで掃除をしているかのように自然と、それも手慣れた様子で行われていた。
その光景に異様さを覚えながら、俺はその場を後にした。
Prologue 『「魔法」を嫌う少年』 終わり
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