「魔法」を嫌う少年と、魔法少女たち。

ゆーの

Prologue 『「魔法」を嫌う少年』

第1話

『──ドア、閉ァりまーす』


 電車のドアが、荷物を挟まないようにゆっくりと閉まる。


 馬力不足気味なモーター音と共に、俺たち通学・通勤客を乗せた電車は、通過待ちのため長く止まっていた駅を後にする。


 朝の電車は、やはりどうしても混んでしまう。


 東京方面の急行や特急のように少し電車が揺れるたび将棋倒しのようになるほどではないが、少し腕を動かせば誰か人に当たる程度には混み合っている。


 今、電車の中にいる人のほとんどが、俺と同じ高校──、いや中高一貫校に通う生徒だ。


 首都、東京とは反対方面に向かう電車で、かつ普通電車となると俺ら以外の利用層が少ないのだろう。


 寝癖を直すために髪を水で濡らした部分が、強めに効いている車内空調の風に当たるたびに少しヒンヤリする。


 窓ガラス越しに俺の姿を確認すると、急いで家を出たためか制服のネクタイがグチャグチャになっていた。後で直さないと。


『えー、次はァ〜』


 眠い目を擦りながら、スマホ片手に車掌の独特な口調のアナウンスを聞き流す。


 何を隠そう俺は──、朝が苦手だ。


 ついこの前、朝勉強するといいという話を聞いては一通り試してみたが、一単語たりとも覚えられた試しがない。


 恐らく、俺は朝に不向きな人間なんだろう。結局、朝の通学時間は諦めてスマホ片手にぼうっとすることにしている。


 俺、さかき 平介へいすけは、ニュースアプリを開くと、ろくにタイトルも見ずに適当な記事を開いた。


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 新宿に現れた超巨大生物を討伐! 魔法少女の真相に迫る!


「彼女に命を救われたんです、本当に感謝しかありません」

 ある女性は、我々の取材に対してそう語った。


 6月28日午前8時頃、防衛省科学・魔法課より、新宿区画に侵略性巨大生物警報が発令された。通勤時間だったこともあり、新宿の街は一時騒然となった。

 警察、自衛隊が連携して市民を商業施設などの地下空間へ避難させようと試みるも全ての民間人を避難させることは出来ないまま、午前8時13分に新宿に10mを超える巨大生物が出現した。


「私の隣に⋯⋯<この先を読むには、会員登録(無料)が必要です。>


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────魔法少女、か。


 思わず俺は、唇を強く噛み締める。


 昔は嫌いだったはずの『魔法』という言葉。

 聞くだけでも、あの真っ赤に染まりきった記憶が蘇ってくるような『侵略性巨大生物インベーダー』という名前。


 高二になった今でも、小学校のあの日の記憶が鮮明に思い出される。どんなに過去のものと自分に言い聞かせても、震えは止まらない。


 心臓がバクバクと音を立てて警告する。離れろ、忘れろ。


 お前がどんなに悔やんだって、もう帰ってこないのだから。


『──前の方にィー続いてェお降り下さァーい』


 車掌のアナウンスが耳に入り、俺はふと周囲を一瞥する。

 すると、周りにいたはずの乗客がいつの間にか疎らになっていた。


 もしかして⋯⋯、ここって刈羽田西?!


「す、すみませーん! 降りまーすっ!」


 冷や汗でぐしょぐしょな手でスマホを操作すると、俺は大慌てでドアの方へ走る。

 周りの目線をごっそりと集めてしまったが、俺はなんとか乗り過ごさず降りることができたのだった。

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