第8話
視界が真っ暗な中、サイレンの馬鹿でかい音だけが鬱陶しいほどに響く。
それが何なのかを理解するまでには、さほど時間は掛からなかった。
──侵略性巨大生物警報、通称インベーダー・アラート。
今朝見たニュースのように事前に予測できた場合には前もって発令されることもあるが、一般的に稀なケースだと考えて良い。
むしろそのような場合は大抵、全住民避難指示からの日本国の防衛戦力全てによるフルコースと決まっている。
というのも、そのくらいとなると町一つが平気で吹っ飛ぶクラスの被害が出るからだ。
だからこそ、今回のは不幸中の幸いかというと──、当然そんな都合のいい話でもなく。
「⋯⋯クソッ!」
最悪だ。本当に最悪だ。
鼓膜をつんざくほどのサイレン音のせいか、ガンガンと殴られたかのように痛む頭を抑えつつ、俺は状況を整理する。
今、俺の身に何が起きているのか──?
暗闇に目が慣れてきたあたり、光で目が完全にやられた線は早々に消える。
すると恐らく──、いや確実に一つの答えしか残らない。
俺がいるのは、
──何故そう言い切れるのか?
簡単だ。俺の持つとある
別に漫画やアニメに出てくるような大した能力ではない。
別に人を吹き飛ばしたりするわけでもないし、何か身体能力が著しく向上するわけでもない。
案外、探せば俺と同じことができる人が何人かはいるかもしれない──。そんなレベルの能力だ。
だが俺は、自分の身を守る上では最も優れた能力だと思っている。
その能力とは──、「空間の歪みが見える」というものだ。
つまり俺は、
そして今回その穴が空いたのは、恐らく俺とあの少年の間、高度にして五メートル未満。踏み潰されなかったのが、不幸中の幸いだろう。
衝撃で飛び散った破片に当たったか、全身が痛む。
覆いかぶさったままの状態だった少年から体を退けると、少年は泣きそうな目で俺を見た。
「怪我はないか?」
「⋯⋯⋯⋯うん」
少年は震えながらも強く頷いた。
「大丈夫、大丈夫だ」
自分にも言い聞かせるように、俺は少年に言う。頭を撫でつつ周囲を再度見渡すと、うっすらと光が差し込むのが見えた。
どうやら俺は、まだ天の神には見放されていなかったようだ。
「いいか、よく聞いてくれ。今からタイミングを見てここから脱出する。いいか?」
「⋯⋯うん」
「よし、いい子だ」
頭をぽふぽふと撫でつつ、俺は慎重に体を起こす。しかし⋯⋯。
「⋯⋯⋯⋯あっ」
暗すぎて頭上との距離を見誤り、体の一部が巨大生物と掠った。
──グオォォォン。
頭上から迫力のある雄叫びが響く。
やっちまったか──?
冷や汗を垂らしながら、俺は衝撃に備えて体を屈める。
「⋯⋯あれ?」
しかし、衝撃が来ない。
慌てて上を見上げると、真っ暗な天井が少し高くなっている。
それにより、今さっきよりも身動きが取りやすくなっていた。
恐らく、腹側を触られたのを嫌がって、巨大生物が体を持ち上げたのだろう。
──今しか、ないか。
差し込んでくる光が大きくなったのを見て──、深呼吸。
「──行くぞ!」
少年を抱きかかえ、光の方へ一直線に走り出す。
狭いトンネルのような隙間を抜けると、俺は真っ先に見えた車の陰に飛び込んだ。
「⋯⋯何とか、なったか」
少年を下ろすと、俺は車の陰から身を乗り出すようにして、交差点を塞ぐようにそびえる奴の方を見る。
六本足の蜘蛛のような真っ黒の化け物は、どうやら俺らには気がついていないようだ。
ここから出るなら、今しかない。
「⋯⋯ついて来い」
俺は少年の手を引く。しかし少年は、一歩も動こうとはしなかった。
「⋯⋯ママは?」
「今更何を言う、とっくにここを離れただろ」
「⋯⋯イヤ、嫌だ、一緒がいい、ママと一緒がいい!」
少年は大声で泣き喚く。
──どうするか?
運悪くも、母親がいたのは道の反対側だ。
合流するにはあの化け物の下をもう一度潜るほかないだろう。
もし安全策を取るならば、迂回して別の道を行くのも手ではある。
ただ、子供の足の速さを考えると、迂回してまで合流するのは非現実的だ。
かといって、俺の体力的にも抱えたまま走るのは難しい。
他に何か策はないか? そう考え周りを見渡すと、運悪くも──。
──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます