最終話 メタファーを越えてきたものは
西暦2XXX。
薄暗い無人の研究室の内部は荒廃しつつも、工場と言っても良いほどの規模と設備の名残りをとどめていた。
わずかに稼動を続けているコンピューターが放つ熱のおかげで、冬だというのに室内は暖かい。
「どうだノイド、そちらに食糧はあったか?」
おなじみの虫の羽音のような電子音を、別室のノイド1号が発している。
「発見シマシタ、発見シマシタ。光子オイルの備蓄が予想以上の量デス。コレダケあれば、暫くは補給に困りマセン」
「いや、ロボットの食糧じゃなくて……」
まあ、それも大事な話か。
いつになく浮ついた様子のノイドを尻目に、研究室内の情報検索を彼は試してみている。
簡単な見取り図のようなものなら引き出せるが、それ以外は何重にもブロックが掛かっている。コアの部分は特に厳重だ。相当の時間と労力を掛けないと、閲覧さえも難しいだろう。
別室の検分を済ませて、ノイドが戻ってきた。
「コンピューター部分は消費電力を最小限にシテ、一種のスリープモードに入ってオリマス」
「そのようだな。電力が切れるのはあとどのくらいだと思う?」
「解析シテマス、解析シテマス。……ハイ、およそ258年と8ヶ月後かと思われマス」
「そんなにあるのか」
もっとも、災害や地殻変動など想定外のエラーが起これば、どうなるかはわからない。
「これから258年も……どんな夢を見ていることやら」
深い意味なしに口から出た言葉に、ノイドが反応した。
「オソラク……幸せな夢かと思われマス」
ロボットらしからぬ発言だと思ったが、笑う気にはなれなかった。
「幸せか……」
そこでふと、ノイドの機体に細長い、透明な屑のようなものが付着していることに気付いた。
「ノイド、
別室でついた物だろうか。彼の手でつまんでみると、規則的に細かい紋様のようなものがある。触った感じでは、そんなに古いものではなさそうだ。
「解析を行いマス……」
聞きなれた解析音をひとしきり鳴らしてから、ノイドがこう回答した。
「97%の確率で、コレは蛇の抜け殻デス」
アダム博士とパラレル・ワンダーランド 長門拓 @bu-tan
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