第3話 水炊きには水炊きの良さがありますわ

「ココがオマエ…シスターアンジェラの部屋だ。見習いのくせに個室とはVIPだな」

 ポンッと私に黒いパンティ生脱ぎを投げてよこした、シスターベティビッチ

「えっ?」

「あっ…間違った」

 改めて鍵を渡された。

「じゃな、食堂はアッチだ、と…19時だからな遅れんなよ」

 手を振ってシスターベティビッチは自分の部屋へ戻って行った。

 彼女の部屋は、私の2つ隣の角部屋だ。

 アナログな鍵…ドラゴンをクエストするゲームに出てくるような鍵だった。

 ガチャッ…

 部屋に入って気が付いた。

 フワッと香る、夜の大人の香り…。

(シスターベティビッチ黒いパンティ生脱ぎ…忘れてる)

 そう淫靡な香りは、私の手に残された黒いパンティビッチの生脱ぎから放たれていたのでした。

(夕食の時に返したほうがよさそうですわね…なんとなく…)

 なぜだろう…今は、なんとなく会いたくなかった。

 彼女の部屋に入るのが怖かったのです。


 自宅のお屋敷都内有数のお金持ちに比べればバスルーム自分専用と、どっこいくらいの広さの室内、そのシンプルさは自宅のトイレ自室用より殺風景な部屋。

(これが庶民なのですね…あれ…ワタクシ泣いているの?)

 意味も無く涙があふれる杏子、いやシスターアンジェラであった。


「あら…このタンス、樹脂だわ…」

 3段収納を初めて見るシスターアンジェラ

(やだ…透けてるわ…)


 10畳ほどの四角いシンプルな部屋に、いちいち驚いて、なんとか荷物を片づけると夕食の時間である。

「遅れてはいけないわ」

 シスターアンジェラ、慌てて修道服に袖を通して早足で食堂へ向かった。


「おせぇよ、ちっこいから148cm スポブラ遅刻しましたなんて、ココじゃ通用しねぇぞ」

 ひょろ長い172cm Acupシスターベティが、ワインをラッパ飲みしていた。

 椅子を斜めに傾けてカコン…カコンと揺らしている。

「あら? ワインがありますの?」

「あるぞ、酒は一通り揃ってる。修道院だからな」

(だから? 揃っていていいのでしょうか…)


「じゃあ、始めましょうか」

 マザーキティがカチンッと卓上コンロに火を点けた。

「すき焼きですよ、シスターアンジェラ」

「すき焼き…」

(肉も食べるんだ…)

「さぁ、存分にお食べなさい」

「おっ、じゃあ豆腐と…しらたき……おい…肉がねぇ」

「ここは修道院ですよ、シスターベティ…」

「いや…肉のねぇ、すき焼きなんて、水炊き以下だろうが!!」

「オホホホ…冗談ですよ、ほらっ」

「うぉっ…松坂さんじゃねぇか…こっちは飛騨かよ…イベリコ豚…マツタケまで…なんだよ…このクオリティは!!」

「オホホホホ、多額の寄付の恩恵ですわ!!」

「なんだよ、おい!! こりゃ明日からも楽しみだな」


(修道院とは思えない…)

 お母様は、何をもって、私を此処に?


 食べながら悩む、小さな少女に幸あれ…

 アーメン



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