第5話 心を癒すのが歌なのですわ

 食事豪華なすき焼きを終えたシスターアンジェラは自室のベッドに腰掛けて低い天井を眺めていた。

(驚きですわ…天上のシミがあんなにクッキリ見えますとは…低くない…天上低くない?)

 身長148cmの少女が低いと感じる天上の低さに驚くばかりの木造建築。

 そういえば、あのひょろ長いシスターベティビッチは平気なのだろうか?

 他人事ながら気になる少女。

「片づけ? そんなもんオメェ…使用人の仕事だろ?」

 自主的に、そういうものだと立場を理解して片づけようとしたシスターアンジェラにシスターベティ酔っ払いが止めた。

「使用人?」

「そうですよ、シスターアンジェラ、そのためのファットマンです」

 親指をグッと突き立てるマザーキティ酔っ払い2号


(良かったのだろうか? 私…此処に何しに来たのだろう?)

 ふと、実家を思い出す…全てのことは使用人がやってくれていた…あの無意味に広い御屋敷の日々。

 容姿の整った面接大事使用人たち…ソレが今は…

「フゴァォ…」

 脳裏にあのボンテージの小太りがニマッと笑っていた過る…。


「ハイホー♪ハイホー♪天才っになっる~♪」

 廊下から聞こえる陽気な歌声。

(なんだか…バカっぽい歌ですわね…)

 部屋の前でピタッと歌が止む。

「起きてるか? おい!! シスター嬢ちゃん!!」

(誰が嬢ちゃんだ!!)

「うるさいですわよ!! シスタービッチ!!」

「よぉ、コレ持ってきてやったぞ」

 招かれてもいないのに、スッタラ、スッタラ侵入してくるシスターベティ。

「なんですの?」

 シスターアンジェラの胸にスルメまるまる一杯を押し付ける。

「オマエの分」

「なんですの? コレ?」

「イカだ…干された後のイカ」

(魔除け?かしら)

 ブチっと足を千切って咥えるシスターベティ

「こうやって食うんだよ、お嬢様」

(食べ物?)

「カルシウム摂らねえと背が伸びねぇぞ」

 グシャッとシスターアンジェラの髪を撫でる。

(カルシウム? イカに?)

「なんで此処に来たかしらねぇし…興味もねぇけど、まぁよろしくな」

 シスターベティは、そう言うと、部屋から出て行った。

「こちらこそ…ですわ」

 閉まる直前のドア、シスターベティが振り返ってニカッと笑ってドアを閉めた。

「ハイホー♪ハイホー♪天才っになっる~♪」

 歌声が遠のく…

 ドンッ、バタンッ…

(騒々しい方ですわ…)


 2階の小さな窓の外に大きな月が浮かぶ春の夜。


「3年間か…」

 窓を開けて、グーンと伸びする13歳。

 机に置いてある、スルメの足を千切って嗅いでみる。

(独特の匂いですわね…)

 パクッと咥えて噛んでみる。

(硬い…ですわ…)

 クニクニ…噛んでブチッと噛み千切って飲み込む。

(食べるだけで…こんなに苦労するとは…庶民は大変ですのね)


 窓の下では、鎖に繋がれたファットマンも月を眺めていたのである。

 アーメン

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る