紫煙の勇者と狂った世界

作者 飛鳥休暇

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★★★ Excellent!!!

>「いつでもそうさ! 『か弱い私たちを助けるのは当然だ』ってな。お前らは都合のいいときだけ弱者の仮面を被りやがる!」
>「自分の身は自分で守れ! 頼るな! 祈るな! 世界は無関心だ!」

このセリフが好き。

怪物に自分の村を襲われた少女が男に助けを求めにいく。
しかし男は、正気で殺しなど出来るかと言わんばかりにアヤシイ煙草から紫煙をあげる。

ファンタジーだが、現実がダブって見える。
何かあった時にだけ助けを求め、それを当然だと思っている人達。

自衛隊だって無限の人員と物資があるわけじゃない。
殆どの医療施設は元々人員不足で、しかもブラック企業だ。
使命感だけで多大なリスクのある仕事が出来るわけがない。
ちゃんと自己防衛してくれよ。人込みにわざわざ出向くなよ。
……と、元医療職でバーンアウト(燃え尽き)した私は思うわけだ。

刺さるよ。この物語。色んなことに移しかえてみられると思う。
グサグサ来たなああああ!

★★★ Excellent!!!

これぞ、ダーク・ファンタジー!
『ザ・ダーク・ファンタジー』です。
それ以上の言葉は浮かびませんでした。

魔物に襲われた村から、助けを求めて勇者の元に駆け込むお嬢さん。しかし勇者は薬漬けでボロボロ。……えー、どうすんのこれ? と思いつつ、

じゃあ勇者視点で見たらどうなんだよ〜。

辛い思いをしてやっつけて、『ありがとう』や『名誉』だけで終わりかよ。たまたま、剣の腕がイイとか、異能の力が使える。それだけで勇者にさせられて、平凡でノンビリとした生活は送れないのか?
勇者なんかやめて、狂ってしまえ〜!

イヤイヤ、もう一歩進んで……。

どうせ狂ってる世界なら、この薬さえあれば狂えるんだ、誰でも勇者になれるんだ。
平凡な人間なんかやめて、アンタが勇者になれや〜! もうそれでいいだろう?

貴方の身近な世界でも、立場が違えば、色々とあるでしょう? そういう意味では、リアルでも起こり得る、ダークファンタジーです。

さあ、貴方も貴女も。
人間やめますか? 勇者やめますか?

★★★ Excellent!!!

この勇者を責められる人がいるだろうか。
ラリってなきゃやってられないその心情はいかほどだろう。
これはファンタジーではない。
これは、現実の話。

綺麗事ではないんだ、生きるってことは。
敵の生死、味方の生死、すべてを踏み越えても生きて行かなければならないのだから。

深く考えさせられる作品でした。
勇者と讃えられる者の現実を、ぜひ読んでみてください。

★★★ Excellent!!!

うそ寒くなるリアリティを落とし込んだ、毒と狂気の短編。

誰もが見ようとしなくても、悪気がなくても、いつだって当然のように割を食わされる人はいる。毒と共にそれを突きつけられて、でも当人は求められたことを結局はこなしてしまっていた。
捨てられない善性こそに、胸が痛くなるお話です。
無惨で空虚な希望はここに。決して綺麗な物語ではありません。
だからこそ、考えさせられます。

読了後喉を焼きながら抜ける苦さをぜひご賞味あれ。

★★★ Excellent!!!

個人的に勇者が出てくる話ってあんまり読まないので、勇者物=勇者にとって都合の良い世界観で繰り広げられる物語というイメージがあったのですが、こちらの作品は独特の雰囲気があって新鮮でした。

人々が無意識に享受している平和とか、勇者に押し付けられた責任とか、そういう明るい英雄譚では中々描かれないような部分にスポットライトが当てられています。

そりゃ危ない葉っぱに頼りたくもなるよね、と思わず納得。でもこの勇者、ちゃんと勇者でした。
変に正義感だけで塗り固められた勇者よりよっぽど人間味があります。

勇者だからって綺麗事だけで何でもできるわけじゃない、そんなことを考えさせてくれる作品です。

★★★ Excellent!!!

勇者は兵隊だった。魔物討伐は戦争だった。
戦いは戦いであり、恐怖は恐怖でしかなく、そのなかでも戦わなければならないものたちと、現実を知らず勇者に助けをもとめるだけのひとびと―ーあなたは無残な現実に直面する。

倫理も道徳もかなぐり捨てた英雄譚の裏側ですが、説得力が凄まじいのです。ふつうの人間であるほどにそうならざるをえない……綺麗事では済まない話に読者は圧倒され、頷くほかにありません。
是非是非、ご一読を。

★★★ Excellent!!!

作品全体をつらぬく倦怠感。どこか甘ったるい紫煙。
身を削って、心を削って世界を救わねばならない人間のことなど考えたことがあるだろうか。ファンタジーではあるが、ここには本当の戦場があると思った。

見たくないものがある。聞きたくないことがある。自分を失ってまで救いたい世界なんて、あるのだろうか。

★★ Very Good!!

勇気あるテーマ選択自体も高く評価されてほしいが、もっとすごいのはそれを効果的に見せるテクニック。終始ダークなようでいて、いわゆる胸糞感のための胸糞展開とは明確に一線を画している。いろいろ「終わって」いるはずの状況なのに、どこか爽快な読後感をもたらすこの腕前に拍手を送りたい。

文章力も非常に高く、動きのあるシーンをテンポよく読ませながらも、しっかりとした印象を残してくれる。

メッセージ性といい、全体の雰囲気の鮮烈さといい、お見事でした!

★★★ Excellent!!!


個人的になのですが、飛鳥さんの作品と言えば、このファンタジーの中にあるリアルさだと思っていて、今回それが色濃くて好きです。
(今作が好きで、魔王の棲家未読のかたは是非読んで欲しい)

殺し合い、命のやりとりの中で、勇者はどう精神状態を維持しているのか。
紫煙越しに見える世界の先に平和はあるのか。

もっとこの世界に浸りたいなぁ……と思いつつ、おやすみなさいませ。

★★★ Excellent!!!

勇者は人間
少女は人間
不条理も人間。

誰も望むべくして不幸を与えたり貰ったりしてるわけではない。
縁、命、心。
何かに苦しめられた人間が縋るように伸ばす手の連鎖が
結果的に不幸を生み出す。

手を伸ばす事に苦しむ人と、
手を掴むことに苦しむ人。
手を掴めば伸ばす事は出来ない。

誰も正しくないし、誰も責められない。

臨場感と緊張感と虚無感と現実とファンタジー。
その全部がこの短い時間に詰まっています。
ぜひ読んでみて下さい!

★★★ Excellent!!!

短い物語の中に、作者の伝えたい事が明確に描かれており、そこがしっかりと芯になっているので、異色な設定ながらもかなり鋭角的に、心に刺さる物語として完成されています。
終始、ゾクゾクしながら読めました。構成やテンポも絶妙で、サクサク読めるので、本当にオススメです!

★★★ Excellent!!!

なんてものを書いちまったんだ!!
でもそうか、そうだよな! そうなるんだよな!

倫理観、道徳感、勇者像、あらゆる概念が吹き飛ぶ荒廃ファンタジー。

ファンタジー作品で勇者が魔王を倒すそのカタルシスに浸り、読み耽っていたかつての自分に、狂気という名の短剣が突き付けられる。
勇者と少女、世界と紫煙、魔物と騎士。いったいどちらが狂っているのか。或いはどちらも狂っているのか。
どっちなんだ、選べるのか?
活字の向こう側で寝そべって他人事みたいに物語を追っているだけの私に。

綺麗事で塗り固められた明るい世界の裏側にフォーカスを当てた大問題作。
しかしだからこそ、そこには真実がある。

★★★ Excellent!!!

狂ってた!(褒め言葉)
物語の最初から最後まで、狂った!(褒め言葉)
目の付け所というか、発想というか、お見事というしかないです。

今、流行っている『異世界ファンタジー』の闇を見せつけられた気分です。
作中に出てくる、『お国のために、廃人になっても戦ってくれ』というセリフ。
そうでもしないと、戦っていけないよな、としみじみと思いました。

ファンタジーはご都合主義な部分がかなりあります。それを無視しないと、キリがないし、面白いものが創れないから。
私たちは知らず知らずのうちにそれ無視し、そう言うものだ、と受け入れてきました。
それを無視しなかったのが、この作品。きっと、短編だからできることだと思います。

最後の展開はぞわぞわっときました。
是非、異世界ファンタジーを読んでる方々のに、読んでもらいたいです。

★★★ Excellent!!!

例えば人は、刺しもしない黒い虫が物陰から現れただけでもギョッとするものである。

ならば現れたものが人間よりも大きく、より異質で禍々しく、そして人を簡単に殺しうる存在であったらどうだろうか。

正気を失うか、これは夢だと思い込むか、いずれにせよ平静ではいられないはずだ。

しかし、我々のよく知るファンタジー勇者達は、魔物共を相手にそんなそぶりを見せはしない。我々も、そういうもんだと思っているがゆえに、違和感を感じない。

この短い物語は、そういった現実とファンタジーの溝に投じられた一石である。

元英雄の介護施設というアイディアに続く、ファンタジーの語られざる一幕。素晴らしいアイディア。

皆さん、是非ご一読を!

★★ Very Good!!

助けを求める『弱い』者たちは平穏な時に勇者を思い出すだろうか。

作中で問われたそれに、頭をガーンと打たれた心地になった。
まさにそう、彼女もそう。
自分の手でやれと迫られ、結末彼女の手には何が残ったろう。

『正義』の裏側の穢い部分を敢えて描く、忘れてはならない戒めのお話。

★★★ Excellent!!!

異世界? いやこれはそんな生温い話ではない。壮大なファンタジーの裏側、当然あるだろうその戦いの暗部にスポットライトをあてる作者の真骨頂がこの物語である。

と、こう書くとなにやら難しい話なのではと思われるかも知れないが、誤解しないで頂きたい。
これは極上のエンターテイメント作品だ。それを支えているのが主人公の男のハードボイルド、純粋な憧れを伴う格好良さなのである。
実力は勿論、しかしそれは上辺だけのものではなく、芯がある。骨格を伴っている。だから強い。

そんな男の強さを、世界に刃向かわんとする狂気を、あなたにも楽しんでもらいたい。

★★★ Excellent!!!

薬に溺れ、自分にすがる少女に対して怨み辛みを吐き捨てる。今や勇者は見る影もなく、蔑まれるべき存在です。
しかし彼は愛する人を失い、人々の思い出の中に残らなくなっても、その強大な力を自らのためには振るわず、独りでトリップすることで慰めています。
結局のところ彼は、人を、国を、世界を狂っていると貶めながらもそんな世界を守り続ける「勇者」であり続けているのです。
歪ではあれど、これも一つの勇者の形なんだな、と感じた作品でした。

★★★ Excellent!!!

その戦いの中に必要なものは何でしょうか。勇気?英雄感?虚栄?
この話はそれをハッパで解決しています。いつの時代も変わらない、永遠に変わらない問題、いえ方法なのでしょう。
そして戦闘し続けてラリるもの。これもまた必ず戦闘には出てくる。そんなラリ男にも焦点があたっています。

中々考えさせられる作品でした。
みなさんも考えてみてはどうでしょうか