一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた ~落第剣士の学院無双~
月島秀一/ファンタジア文庫
一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた ~落第剣士の学院無双~ 1
一:一億年ボタンと時の世界 1
アレン=ロードル、十五歳。
俺には──
『努力は必ず実を結ぶ』──母さんがそう言ってくれたからだ。
彼女は女手一つで、俺をここまで育ててくれた。父さんは俺がまだ赤ん
小さい時のことはそんなに覚えていないけど、それでも母さんが俺のために毎日身を粉にして働いてくれたことだけは、しっかりと記憶している。
俺が今通っているグラン剣術学院の入学費と授業料だって、彼女が少ない給金を何年も
だから学院で『落第剣士』と
人の何倍も何十倍も努力して、いつかきっと立派な剣士になる。そしていつの日か、これまで苦労を
きっかけは、今日の夕暮れのことだ。
俺がいつものように校庭で一人剣を振っていると、同じクラスのドドリエルが取り巻きの女子二人を引き連れてやってきた。
ドドリエル=バートン。
よく目立つ青い髪を後ろでまとめた、バートン
こいつのことは
だけど今日は、どうしても聞き
「取り消せよ……今の言葉……!」
「おいおい、本当のことを言われたからってそう熱くなるなよ……アレン? 子どもがゴミなら、親もゴミ──別におかしなことは言ってないだろう?」
「ドドリエル、お前……っ!」
俺はカッとなって、
「ちっ……
ドドリエルは大きな舌打ちをして、目にも留まらぬ動きで俺の腹を
「か、は……っ!?」
大人顔負けの横蹴り──その
そうしてみっともなく
俺は
「お前の言う通り、確かに俺は才能のないゴミかもしれない……。でもな、だからって母さんをゴミだとは言わせないぞ!」
指を差してそう言い放つと、ドドリエルは
「はぁ……カエルの子はカエルって言うだろ? お前みたいなゴミの親はゴミだって、昔から相場が決まっているんだよ」
奴は心底同情するように
「お、お前……!」
「おやおやぁ、そんなことしていいのかい? それ以上は学則
「ぐ……っ」
生徒同士の剣を用いた『
もしも学院で最底辺の俺が私闘を演じれば……
「もちろん、私闘はしない。その代わり……ドドリエル=バートン! お前に『決闘』を申し込む!」
「へぇ……。落第剣士のお前が、学院きっての天才剣士であるこの僕に決闘を……?」
「あぁ、そうだ! 俺が勝ったら、さっきの発言は
「あは! おもしろい……おもしろいよ、アレン! いいよ、もしお前が勝ったら、さっきの発言を取り消してあげるよ! 何なら頭でも何でも下げてやるさ! ただし、もしお前が負けたら──」
奴はそこで言葉を切ると、いやらしく口角を
「……もし、俺が負けたら?」
「そうだなぁ……その時はその場ですぐに、この学院を
「なっ!?」
ドドリエルが
「当然だろ? 決闘は
「し、知ってるさ! でも、いくらなんでもこれじゃ、
片や前言の撤回。片や学院の退学。こんなもの対等な条件とは言えない。
「おいおい……。何を
「……っ」
「……わかった。その条件で決闘を申し込む……!」
「あぁ、受けてやろう! 日時は明朝の九時──場所は体育館でどうだい?」
「それで構わない」
「くくっ。決闘の申し込み手続きは、僕が済ませといてあげるよ。アレンはせめて決闘が決闘として成立するように、お得意の『努力』をして
こうして俺は明日、天才剣士ドドリエルと決闘することになった。
今思えば、なんて
(だけど、もしまた同じことを言われたとしたら……。きっとあのときと同じように決闘を申し込んでいただろう……)
母さんを馬鹿にされて、
(でも、ドドリエルは強い……)
あいつは
(あいつが俺より強いことなんて、百も承知だ……。それでも明日だけは、絶対に負けられない……!)
明日の決闘には、俺の学院退学が掛かっている。それに何より、ドドリエルが
そうして奴と別れた俺は
いつも
「ふっ、はっ、せいっ……!」
ひたすらに我武者羅に
入学したての頃、俺は剣術学院の先生たちに頭を下げて、流派に入れてもらえるよう
「──残念ながらお前には剣術の才能がない。うちの門を
「おいおいおい! こんなヘボイ剣で、よくもまぁ
「『身の
全てきっぱりと断られてしまった。まるで取り付く島もなかった。だから俺は、剣の型も筋も
だから俺が『
それからしばらくして月明かりが周囲を照らし始めた頃、ついに剣を振る手が止まった。
「は、はは、ははははは……っ!」
自然と
「馬鹿だなぁ、俺……っ。こんなことやったって、勝てるわけがないのになぁ……っ!」
我武者羅に剣を振ったところで、きっとなんの意味もない。どうせ俺は明日、あの天才剣士に敗れる。それも見るも無残な
俺とドドリエルの差は、たった一日でどうこうできるものではない。
(悔しい……っ。悔しい悔しい悔しい……ぐやじい!)
悔しいけど、何度頭でシミュレートしても……あの天才に勝てるビジョンが
「どうしたら、いいんだよ……っ」
悔しくて悔しくて、
(……勝ちたい。ドドリエルに勝って、母さんへの侮辱を撤回させたい……っ)
だけど、俺には何もかもが足りていない。力が、才能が──そして何より時間が……。
「……
自分の無力感に打ちひしがれた俺が、地面を強く
「──ひょっほっほっ。
「だ、誰だ!?」
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