二:落第剣士と剣術学院 3
ドドリエルとの決闘から数日が経ち、俺へのいじめはますます
しかし、その『中身』は大きく
落第
(昔の──十数億年前の俺ならば、きっとこんな環境には
そんな風に自分を客観視できるぐらいには、冷静でいることができた。
「そう言えば、母さんは元気かな……」
ポーラさんの待つ
グラン剣術学院に通い始めて早三年。月に一度は手紙のやり取りをしているが、故郷に帰ったことはなかった。自分のことで
「よし……決めた。次の休みに一度帰ろう」
故郷のゴザ村まで、小走りでだいたい十時間程度だ。
でも多分、今の俺ならもう少し早く着けるだろう。
「そうだ、何かお
三年ぶりに帰るんだ。さすがに手ぶらというわけにはいかない。
(確か母さんは、
お土産として買って行けば、きっと喜んでくれるだろう。
(いや、その前に……。今いくら持っていたっけ……?)
「ご、五百二十ゴルド……」
これではまともなお土産を買うことはできない。
「……バイトでもしようかな」
バイト先については、一度ポーラさんに相談してみよう。
あの人はとても顔が広い。もしかしたらいいところを教えてもらえるかもしれない。それに彼女の
「ふふっ。久しぶりに帰ったら、母さんきっと
そうして俺は、一人鼻歌まじりに寮へ向かったのだった。
■
寮に帰ってすぐ、ポーラさんにどこかいいバイトはないか聞いてみた。
「バイトだぁ!?」
「はい、どこかいいところはないでしょうか?」
「どうしてまた急に? 剣の
彼女は首を
「修業も大切なんですけど、そろそろ一度くらい故郷の母さんに顔を見せに行こうと思いまして……。それで──」
「──なるほど、土産を買おうとしたけど、お金がなかったってわけだね?」
「あはは……。お
「そうかい、話はわかったよ。それなら一個とっておきのやつがあるさ!」
彼女は
「本当ですか!? ぜひ紹介してください!」
「おぅとも! こいつに出れば、
ポーラさんはそう言って、
「
剣武祭──
「やっぱり男たるもの、腕っぷしで
彼女はそう言って、俺より三倍以上は太い二の腕を叩いてみせた。
「剣武祭、か……」
昔の──十数億年前の俺ならば、間違っても出場しようなんて思わなかった。
(でも今の俺ならば、上位入賞は難しくとも
しかし、剣武祭に出るにあたって一つ大きな問題があった。
「確かにいい案かもしれませんが……。その、参加費用が……」
剣武祭に出場するには参加費用として千ゴルドが必要だ。残念ながら、今そんなお金はない。そうして俺が仕方なく、ポーラさんへ剣武祭のポスターを返すと、
「馬鹿だね、あんた! うちの寮生が男を見せようってのに、金なんか出し
彼女はそう言って
「ほら、持ってきな!」
「い、いいんですか!?」
「もちろんさ! その代わり、出るからにはガツンとかましてくるんだよ?」
「……ありがとうございます! 必ず勝って賞金を手に入れてきます!」
「よしよし、その意気だよ!」
こうして思いがけず剣武祭に出ることになった俺は、上位入賞を目指してひたすら修業に明け暮れたのだった。
■
その数日後。俺は剣武祭に出場するため、隣町のオービスまで足を運んだ。
「そろそろ着くはずだと思うんだけどな……」
ポーラさんにもらった地図を片手に、会場を目指して進む。
「この店がここだから……。よし、次の角を右だな」
そうして一つ先の角を曲がった
「……っ」
そこには見るからに強そうなたくさんの剣士たちが、目をギラつかせて
(ま、マジか……っ)
……間違いない。ここにいる全員、俺よりも格上の剣士たちだ。
(少し、いや……かなり見通しが甘かった……っ)
まさか剣武祭のレベルが、ここまで高いものだとは夢にも思っていなかった。
その異様な光景に一瞬吞まれかけた俺は、すぐに今すべきことを思い出す。
「そ、そうだ、まずは出場登録を済ませないと……っ」
その場で周囲を見回して受付を探していると、
「……おっと」
「〓ぁん? こんなところで
彼は敵意を剝き出しにして、そう
それに続いて取り巻きである三人の女性が、こちらを見てクスクスと笑う。
「もぉー、バブルったら……。こんなか弱い子をいじめちゃダメじゃない」
「
「いやいや、それはないでしょ! こんなヒョロヒョロじゃ試合にもならないよ!」
この失礼な集団はそう言って、ケラケラと楽しげに笑った。
さすがの俺もこれにはムッとした。そもそもぶつかってきたのは、このバブルとかいう大男の方からだ。俺が立っているのは道の
それに何より、出会って間もない彼らにそこまで
すると──そんな考えが表情に出てしまっていたのか、
「……おい。なんだ、その
バブルは額に青筋を立てながら、指をバキボキと鳴らした。
俺はいろいろなことを考えた結果、
「……すみません」
特に反抗することなく、
「はっ、言い返すこともできねぇのか? この負け犬が!」
バブルはそんな捨て
そうしてあいつらの姿が完全に見えなくなってから、大きくため息をつく。
「はぁ……」
災難だった。いきなりあんな
(……いや、切り
世の中は広い。ポーラさんのように
「えーっと、受付は……あそこだな」
周囲を見回せば、剣武祭の会場の真ん前に長い列ができていた。
その先頭には『剣武祭受付』と書かれた立て看板が立っている。どうやらあそこが受付のようだ。俺は列の
「──お次の方、どうぞ」
ようやく俺の番が回ってきた。
受付では
「──おはようございます。剣武祭への参加をご希望されているということで、お間違いないでしょうか?」
「はい、お願いします」
「かしこまりました。それでは参加費用として千ゴルドを
俺は心の中でポーラさんにお礼を言って、ガマ口の財布から千ゴルド紙幣を取り出した。
「ありがとうございます。それではお名前と、所属流派を教えていただけますか?」
「名前は、アレン=ロードルです。所属流派は、その……」
まさか流派を聞かれるなんて思ってもいなかった俺は、思わず口ごもってしまう。
「アレン=ロードル様でございますね。何という流派の出身でしょうか?」
……二度聞かれてしまった。
どうやら
「そ、その……どこにも所属していなくて……。『我流』……になります」
「ぷっ……。が、我流ですね……っ。か、かしこまりました……っ」
受付
ほぼ
我流の剣士が実力者ひしめく剣武祭に出場しようとしているのだから、笑われるのも仕方のないことだった。それから無事に出場登録を終えた俺は、小さくため息をついた。
(はぁ……。さすがにちょっと
学院の同級生に笑われるのとはまた
(……いや、もう過ぎたことだ。これ以上は考えないようにして、剣武祭に集中しよう)
確か開始時間までは、後三十分ほど時間があったはずだ。
「よし、それまでは
それから俺は適当な空き地を見つけて、一人
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます