二:落第剣士と剣術学院 7
その数日後──今日明日と学院が休みのため、俺は
朝
「──準備よしっと、それじゃ行ってきます」
寮の
「忘れ物は? せっかく買った
「はい、ばっちりです」
昨日、
「そうかい。なら気を付けて行くんだよ?」
「はい!」
俺はペコリと頭を下げ、寮を後にした。ちなみに寮の玄関には、剣武祭の優勝トロフィーが堂々と
そうしてポーラさんの寮を
一時間、二時間、三時間と走れば──目の前にゴザ村が見えてきた。いつもなら軽く十時間は
「あぁ、
ぽつぽつとまばらに建った
「ここに帰るのも、もう三年ぶりになるのか……」
時の世界で過ごした十数億年を差し引いたとしても、だいたいそれぐらいになるだろう。
そうしてぼんやりとゴザ村を見回していると、
「──あんれ! おめぇ、アレンでねぇか!?」
後ろから
振り返るとそこには──昔、竹馬や手製のめんこで遊んでもらった
「竹爺! 久しぶりだね!」
「おーこりゃ、しっばらぐ見ねぇうちに大きなったなぁー!」
この国──リーンガード皇国の南部に位置するゴザ村は、かなり南訛りが強い。
「あはは、そりゃ成長期だからな」
それからしばらくの間、昔話に花を
「おっど! おらなんかと話すより、はようロードルさんとこ行っちゃれ! おめぇさんおらんなってから、やっぱ元気が無ぇんど」
「わかった。それじゃまたね、竹爺」
「うんだ。また後でうちにも顔出してくれっこ! ひっさしぶりに、めんこでもやらんけ?」
「うん、楽しみにしてるよ!」
そうして竹爺と別れた俺は、
「うわぁ、懐かしいなぁ……」
三年前──最後に見たときから何にも変わっていない。本当にあの
「──母さん、ただいま!」
「あ、アレンかぃ!?」
どうやら、ちょうどごはんの仕込みをしていたようだ。
「うん、ただいま!」
「あぁ……もう大きなっちや!」
彼女は両手を大きく広げ、ギュッと俺を
「えらい久しぶりよってに! 元気しとうや!?」
「うん、この通り元気でやってるよ」
「そらぁ、えがった! ほんれ、立ち話もなんじゃき、早う上がらんね!」
そうして久しぶりに実家へ帰った俺は、
「……ねぇ、母さん。ちょっと大事な話があるんだけど、聞いてもらってもいいかな?」
「どしたね? 急にそんな改まってさ」
「うん、それがね──」
それから俺は、今後の進路選択について相談した。
「なぁんぞそれは……。改まって『大事な話』言うがら、どったら大きなこつか思ったら……。そんな簡単なこと迷いよるかね?」
「い、いや、これはけっこう難しい問題で──」
「──千刃学院ば行きたかよね?」
「……っ」
自分の希望も思いも考えも──まだ何も伝えていないこの
「なん、で……わかったの?」
「親っこ
「……そっか」
それから少しの間、俺が押し
「私のことなんかなぁんも気にせんでええよってに。アレンはアレンの人生を生きな。私はそん道を
「……わかった。ありがとう、母さん」
そうしてお礼を伝えると、彼女はニッと笑った。
「よし、話が終わったぬらご飯にしよって! 今日はあんたの好きやったシチュー、たくさん作ったがぁ!」
母さんはそう言って、今できたばかりのシチューを木製の皿に注ぐ。ゴロンと大きなイモが入ったシチュー。いつもは俺の誕生日にだけ出る『特別メニュー』だ。
「おいしい、とってもおいしいよ……!」
十数億年ぶりに食べた母さんのシチューは、言い表しようもないほどにおいしかった。
「そうか、そうか! おかわりもあるよってに、
そうして特製のシチューを
「母さん、
久しぶりに見た彼女は、ずいぶんと
(今年で五十歳になることを考えたら、別におかしくはないけど……)
顔の小じわも
「……千刃学院でたくさん
そうしてたくさん給金を
そんな決心を新たに、俺は風呂場で
■
アレンが風呂に入っている頃、彼の母ダリア=ロードルは一人で洗い物を片付けていた。
水の流れる音と食器が水切り台に置かれる音に交じって、しゃがれた
「──ひょほほっ! このシチュー、中々どうしてうまいのぅ!」
ダリアが
いつの間によそったのか、彼の手にはシチューの入った皿とスプーンが
「『
ダリアはこれまでの南訛りの
「いやぁ、それにしても上手に
「そう。だったら──もう一本ぐらい折っといたら?」
しかし、時の仙人は自身を
彼女の拳は
「ひょほっ! おー、
「うむうむ、久しぶりに美味な食事じゃったわい。ではな、またどこかで会おうぞ」
彼はそう言うと、まるで
「……ちっ、
ダリアが
「おい、今の気配って『
「
「くそ、ということはやはり……!?」
「あぁ。『一億年ボタン』、使われちまったみたいだね……」
「……なんてこった」
二人の間に
「なぁ、ダリア……。どうして時の仙人は、アレンの存在を
「もしかすると、アレンの感情を強く
アレンは学院内でいじめを受けていることを、ダリアに打ち明けたことはなかった。それはもちろん、母親を
「まぁとにかく、時の仙人は何がなんでもあたしたちの
ダリアは強く拳を握り締めながら、歯を食いしばる。
「だけど、今回ばかりはあんたの思い通りにさせない……」
その後、竹爺はすぐに自分の家に戻り、ダリアは
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