一:一億年ボタンと時の世界 5
「あ、れ……?」
気付けば俺は、
「ひょほほ、どうじゃ? 一億年もの間、ただひたすらに剣を振り続けた感想は?」
時の
「なんだか、不思議な感じだ……」
特段体に異変はない。ただ少しだけ、頭がボーッとする。
「俺は……本当に一億年も修業をしたのか……?」
心が体に追い付いてこない。まるで長い間、ずっと夢を見ていたかのような気分だ。
一億年ボタンもあの不思議な異界も、全て夢だったんじゃないかと思えてしまう。
「ふぅむ、どうやらちょっとした『時間
「そう、なのか……? そんな実感は全くないけど……」
「ひょっほっほっ! 大き過ぎる変化ゆえ、気付いておらんようじゃな! 『百聞は一見に
「……そうだな」
あの一億年が夢か
そうして
(ん……?)
(まさか、な……)
ほんのわずかな期待を持ちつつ、軽く剣を振ってみた。
「せいっ!」
その瞬間──凄まじい風が
「……っ!?」
俺の目がおかしくなければ、今の
空間が捻じ曲がった──そんな
「ひょっほっほっ、凄いではないか!
時の仙人は手を叩いて笑っていたが、俺はそれどころではなかった。
(ゆ、夢じゃない……っ!?)
あの異界で身に付けた斬撃をそっくりそのままこの現実世界でも再現できた。
(い、今の感覚を忘れないうちに……もう一度だ……っ!)
「はっ!」
その数秒後──『ザンッ!』という風を切る音が
俺の斬撃は、いとも
「す、凄い……っ!」
体が剣に
体と剣が一つになったような、とんでもない全能感に包まれた。
「ひょほほ! どうじゃ、まるで生まれ変わったような気分じゃろう?」
「あぁ、本当にその通りだよ……っ!」
一億年の修業に
(でも、まだだ……まだ足りない……っ)
これじゃ駄目だ。このぐらいじゃ、きっとドドリエルには勝てない。
確かに俺は、今までとは比べ物にならないほど強くなった。
もしもあいつとの
(だけど、ドドリエルには時雨流の『
流派の技とは、すなわち時間の
どこの流派にも入れてもらえなかった俺は、それを何一つとして持っていない。これはとてつもなく大きな『差』を生む。
(その大きな差を
そしてそれを身に付けるためには、まとまった時間がいる。
「なぁ、もう一度……。もう一度だけ、一億年ボタンを押させてくれないか……?」
俺が
「あぁ、いいともいいとも……。気が済むまで、何度でも押すがいい!」
そうして彼は、快く一億年ボタンを
「ほ、本当か!? ありがとう、ありがとう……っ!」
俺はちゃんと感謝の言葉を述べ、再びそのボタンを押したのだった。
■
気付けば俺は、またあの『時の世界』に立っていた。空中に浮かぶ大きな時計は、000000000年1月1日00時00分01秒を指している。
(今、何周目になるんだろうな……)
十を
なんとなくだけど、二十には届いていない気がする。
──あれから俺は、現実世界と時の世界を
(これが『才能の
後もうちょっとのはずなのに……。その『もうちょっと』がとてつもなく遠い。目の前には
これまで幾度となく感じてきた
それでも俺は、
するとそんなある日──
「こ、これは……っ!?」
いつものように剣を振り下ろしたその
決して見間違いなんかじゃない。ほんの少しだけど……空間を、世界を
「は、はは……。これだよ、これ……っ! 俺が求めていた特別なナニカは、この斬撃だ!」
才能の壁に小さな穴が開いた。十数億年もの努力が、ようやく芽を見せてくれた。
俺はその後、十万年、百万年とひたすら剣を振り続けた。剣先の通った後にできる『揺れ』は、日を追うごとに大きくなっていく。成長を実感できること、それがたまらなく
そうして一心不乱に素振りを
もう後三十秒もすれば、また現実世界へ引き戻される時間だ。
「ふー……っ」
──いける。
次の一振りで『特別なナニカ』……いや、『世界を断ち斬る斬撃』が手に入る。
「この時の世界とは、もうさよならだな……」
世界を断ち切る斬撃が完成したら、俺はいよいよドドリエルとの決闘に
十数億年もの間、ずっとお世話になってきたこの世界とは今日でお別れだ。
そう思えば、何とも言えない不思議な気持ちが込み上げてくる。
嬉しさ、悲しさ、
「──よし、やるか」
気持ちの整理をつけた俺は、大上段に構えた剣を一気に振り下ろす。
「ハァッ!」
その瞬間、空間に
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