それはあたかも《獏》の咀嚼のように

最後に夢をみたのはいつですか。それはどんな夢でしたか。

夢というのは不思議なものです。眠っているあいだに現実ではありえないものをみたり聴いたり、時には実感をともなってさも実際に経験しているかのようなきもちになるのですから。
昔から夢については様々な論議がかわされてきました。時に信仰と結びつき、時にそのひとの願望として解釈され、現在では神経生理学によって夢のメカニズムが研究され、徐々にその働きが解明されるようになりました。
夢とは、睡眠時に脳が記憶の整理をしているためにみるのではないか、というのが通説となっています。

ですが、ほんとうのところ、生物が夢をみる理由というものは解明されていません。
科学が進歩してもなお、夢という不確かな領域はまだまだ謎につつまれているのです。

こちらの小説は、ひとりの女性が唐突に悪夢をみるようになり、次第に夢にたいする恐怖心に支配され、眠ることができなくなっていくところからはじまります。彼女は入院を余儀なくされますが、どうやら病院には、まったくおなじ悪夢によって重度の不眠となった患者が複数人いるそうで……――

不確かなはずの夢が現実を蝕んでいくその恐怖。じわりじわりと、こころをかみちぎられていくさま。それはあたかも、獏に咀嚼されるがごとく。

悪夢というその現象に果たして、犯人はいるのか。

ヒューマンドラマとホラーとサスペンスの要素が絶妙に絡みあった、素晴らしい長編でございます。読み始めたら最後、さきに進める指がとまらないはずです。

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