夢と現実、その境界の間にあるのは闇か光か

悪夢をみたら、その夢を獏に食べてもらう。迷信とはいえ、この獏の存在は神秘的なものだろう。

日常生活が緩やかに崩れていく。黒森映の人生は幸福と不幸の繰り返しで、自身に巣食う闇に気が付かないまま体だけが壊れていく。
そんな彼女を支える天才画家、中島幸。眠れない日が続き、やつれていく映のために安眠を模索する。
そこでたどり着いたのが「面白い!睡眠法!」という一冊の本。藁にもすがる思いで、図書館から借りた本だが、あまり信憑性がない。寝具を変えて、いくつかのリラックス法をためしてもそれでも悪夢は続く。
やがて、精神が壊れた映は精神科に入院することとなる。そこで、浮かび上がる不可解な謎。
果たして、この悪夢は感染するのか。それとも拡散されているのか。一体、だれによって?
深まる悪夢の謎と、隠された闇と悲しい真実。その結末に驚愕すること間違いなし。一気読み必至!


人間が夢を見るのは、記憶の処理を行っているからだと聞いたことがあります。スクリーンに映し出された映像や写真が超高速で流れていくような。それがストーリーとして脳内に映し出される。夢のメカニズムとでもいうんでしょうか。
とにかく、睡眠時にも人間の脳は働いているそうです。それを知ってからは、リアリティのある悪夢を見てもコントロールができるようになりました。脱出方法さえわかっていれば、目を覚ましてもすぐに「悪夢」だと認識できるし、混乱せずに済むので便利です。
私も重度の不眠症を患い、通院中です。故にこの作品にはとても興味があり、また私も知らなかった専門知識も豊富で、ミステリー作品としても精神科学としても非常に面白く読み進められました。
映のために奔走する恋人の幸さんが、とても好感のもてるキャラクターで、また清川先生もクセがあるけど正義感を見せてくれました。魅力あるキャラクターに、確かな筆致、さらに共感性の高い本作を、ぜひご一読ください。

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