第15話 国王
15 国王
ミキコとBGは長い階段を上り、国王の間へ辿り着いた。
「ここが開かずの間です。間違えました国王の間です」
息の乱れたミキコが言った。
「教会の屋根裏部屋みたいですね。埃まみれで掃除の形跡すら無い。部屋の中もきっと埃まみれなのでしょう。埃の中の国王様。一文字の有無がこれ程の違いを表すとは! 文字の偉大さを改めて感じます。くるっぷ」
黙祷をするBGにミキコが言った。
「BG。その文字を誤字と認めて、訂正をお願いします。誇りの中の国王です」
「この場合、そちらの方が誤字だと思いますが、まあ良いでしょう」
二人は咳き込みながら扉を開く。部屋はやはり埃まみれだった。
「国王様。何処~」
「あそこのテーブルに人影があります。きっと国王様ですよ! 」
クモの巣を払い、豪奢なテーブルに近寄る二人。厚く埃の積もったテーブルを前に、うつむく人影に臣下の礼を示した。
「国王様。軍師のミキコと申します。直言したく参りました」
「………。 」
人影は無反応だった。身じろぎすらしないその姿にBGは声を潜めた。
「お亡くなりになっているのでは? 」
「うーん、そうかも。BG、確認して来てよ」
ミキコはBGの身体を押し出す。
「なんで私が? 」
ぐいぐいと押される事にBGは抗う。薄暗い埃まみれの部屋で、ミイラと御対面なんてまっぴらだった。だが、ミキコは許さない。
「死者の弔いも、見習い神父の勤めでしょうが! 」
「確かにそれもあります」
正論を盾にされては仕方なしと、しぶしぶ国王らしき人影に向かうBG。
「失礼、しますね」
恐る恐る顔を覗き込むと、ヘノヘノモヘジの落書きがあった。
「ミキコ様。偽物です」
「なんと! 」
「オーレ様の部屋で何やっていんのぉ? 」
飛びあがるように振り返る二人の面前に、バードの姿があった。
「バード様」
驚く二人の声が重なる。
「あーあ、部屋の掃除もしないで。女っ気のない所はこれだから嫌だァ。エビスに早く嫁を貰えって言っておいたのになぁ」
バードは埃まみれの部屋をすたすた歩き、うつむく人形に近づいた。
「へー、結構似ているじゃーん」
「バード様、何故ここにいるのですか? 」
ミキコが訊ねた。BGも同感だった。
「だーって、俺様が国王だもーん」
「なんと! 」
驚く二人にバードがある個所を示した。バードの指先に、誇り高く堂々とした国王の肖像画がある。バードだった。
「まるっきり、別人ですね」
ミキコが言った。BGも同感である。
「無礼~者! 」
「ところで、アルセス様はどちらですか? 」
不意にBGが訊ねた。尊敬する師の事が気掛かりになったのだ。
「あー? アルセスなら教会だよ~。奴は棘の道が大好きなんだ~」
当たり前じゃん、とバードは答える。
「えーっつ、お独りで教会を守られているのですか? 」
「そーだーよー」
「バード様! 共に棘の道を歩くご決心だったのではないのですか? 」
BGは腹ただしげに言った。バードはアルセスの友人だった筈だ。その友人を危険地帯に置き去りにしたことへの批判が込められている。
「そーだーよー。だからこうして戻って来たのさ~」
「それは、どのような意味なのでしょうか? 」
納得させてみろ、とBGは意気込む。そんなBGを見て、怖いなー、とバードは茶化した。
「あんね、アルセスは御相手さんの大将なのさ。フニラ王国と全面戦争をしている多種生物混成軍の総大将がアルセスなの。弟子の君も、知らんかったでしょう? 」
「嘘です」
すかさずBGは否定した。
「本当さ」
それをバードが覆す。
「まあ、聞きなよ」
バードは二人に様々な事を語った。そして、最後に言う。
「同じ立場にいないと分からないモノってあるじゃん? 好敵手とか、強敵って立場だよ。つまりさ、それ程、俺とアルセスはカタ―い絆で結ばれているのさ」
「それでは何故、戦争は始まったのですか? この戦争は避けるべきだったのではないでしょうか? いえ、避ける事が可能だった筈です」
「ミキコちゃん。厳しいトコ突くねぇ。さーすが軍師だ。でもね、この戦争の本質を見ていないよ」
「どういう意味ですか! 」
ちつちつちつ、と甘ちゃん扱いされ、ミキコは少し声を荒くする。
「簡単に怒るなよぉ。えーとねぇ、この戦いの本質は生存競争なんだよ。人間が増えすぎて、自然界のバランスが崩れてしまった。緑が少ないよ、で、沢山の種類の生物が消えちゃつた。じゃあ、人間も減らしましょって事が、この戦の真意なのさ」
「それは神様の真意ですか? 」
「さあね、でもそう考えたイキモノは多かった筈だよね」
バードは言葉を続けた。
「でも、黙って俺様の子分達がヤラレるのを見ている訳にはいかないじゃーん。俺様は王様だぜ、皆を幸福にするのが俺様のお仕事。そんなで、戦争をおっ始めたけど、やっぱ戦争は嫌だね~。『止めようぜ』ってアルセスに言ったけど、ダメだったな~」
「アルセス様はなぜ戦争をお続けになるのですか? 」
「アーイツは機械だからな~。古代技術の結晶、超高性能準神様ロボットって奴だ。とーっても頭、固いんぜ。BG知らんかった? 」
「全然気が付きませんでした。非常に元気な方だと思っていました」
先程までの血気も失せ、BGには元気が無い。
「ははは、馬鹿でー」
「ちょっと待って下さい。すると人間に非があると? それを認めたうえで、国王は戦を開始したというのですか! 」
ここでミキコが割り込む。
「どう考えてもそーじゃなーい? 昔から好き放題は人間の方だよね。長―い間、殺戮、破壊の繰り返しだよね」
「正義の無い戦は只の略奪です。こうして悪である我軍は負けるのですね」
描いていた夢よりも、さらに大きなものがミキコの中で崩れていった。
「そうとも限んないじゃ無い? 兵力はウチの方が多いしね」
軍師である筈のミキコに悪だ、略奪だと云われてもバードは声色すら変えなかった。
「では勝つとお思いですか? 勝っても良いとお考えですか? 」
「そりゃそうさ。でもね~。そしたら世界は本当にどうにかなっちゃうかもな~」
「どういう意味ですか? 」
「この世界は人間だけで造れるほど、単純なモノじゃないんだよなぁ」
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